第三十一話『予想外』
早速、バルドの街並みが広がっている訳だが、まず何から始めようかね。
街に入ってすぐに旅人を歓迎する一本道にずらりと並ぶ露店を吟味するのも面白そうではあるが、
「やっぱり……アレが気になるよなぁ」
この街に入る前から俺の視界にチラチラと映り込む、他の建築物とは雰囲気が異なる石造りの巨大建造物。
先程のイフの言葉と日本にいた頃の知識を照らし合わせると、アレは恐らく【闘技場】の類だと思われる。
「まぁ、実際の正体は分かんないけど、実際に見りゃ分かんだろ。……シズク。今からあのデッケェ建物まで歩くから、はぐれずに着いてこいよ」
「じゃあはぐれないようにちゃんと先導してよね?」
「へいへい。ちゃんとリードさせていただきますよ」
シズクが俺の後ろに付いたことを確認すると、俺は闘技場(仮)に向かって歩を進め始めた。
闘技場までの経路は見たところ、門から一直線に進むだけで辿り着ける、方向音痴に優しい親切設計。
『久しぶりだなぁ……最近傑のことばっかり見てたから、見る機会なくて……だから今、すっごいワクワクしてるんだよね!』
「イフがそんなに興奮してるの、初めてな気がするわ。イフってそういう系が好きなのか?」
『うん!人が生死をかけて殴り合うのが好きなんだぁ!』
声だけ聞いたらすっごい無邪気なんだけど、言ってる内容自体はだいぶ物騒なんだよな。
コイツ、この世界に狂戦士のジョブがあるんだったら適正取ってたろうな。少なくとも魔法使い感は無い。
『なんか不敬を感じとったんだけど』
「神様なんだから崇拝もされてるし、恨まれもしてるだろ。多分それを感じとったんだよ」
『……う〜ん、それもそっか』
コイツの自分に対する悪口を感じ取る能力はどうなっているのか。俺が心の中で思ったことにまで勘づくとはさすが神と言うべきか。っと、もう目の前まで来たな。
イフたちと談笑してる間に、遠くに見えていた闘技場に触れられる距離まで来ていたようだ。
「シズク、すまんがバッグの中に入ってくれ」
「えぇ〜、その中暗くてヤなんだけど」
「だからここに来るまではバッグに入れないであげたろ?お前を見せびらかすと視線が集まるから、ほらっ、はよ入れ」
不服そうなシズクを拾い上げて、バッグの中に押し込むと、俺の足は闘技場の中へと向かっていった。
入った瞬間に受付が目の前にあり、観戦するなら金払えと言われたので渋々小袋から硬貨を取り出す。
良い商売してんねぇ。
「えーっと、2階が観戦席か。まぁ、この感じは結構席埋まってそうな気がするけどな」
上の階の情景を想像しながら階段を上っていく。そして上りきったところで金属音が鳴り響く方へと目をやった。
「くたばれェエッ!」
「ハッ!そんなん誰が当たるかよ!」
開放的な2階から見えたのは2人の屈強な男が鎧を着込み、持っている武器で突いたり、斬ったり、叩いたりという、一見殺し合いにしか見えない戦いを繰り広げていた。
「……思ってたより殺伐としてんなぁ。」
『普通に死人出るからね。』
マジぃ?まぁ、人は直接斬られなくても、とてつもない衝撃が加わったら死ぬもんな。確かにあんな勢いで殴りあってたら何人か死ぬよなぁ。
「えぇ……?なんで人間はそんなことやってるの?戦闘狂なの?」
「良いか?シズク、人間ってのは自分の強さを誇示したがる生物だ。だから、あーやって戦って俺は強いんだって皆に認められたいんだな。まぁ、これは人間だけに当てはまることじゃないけど。」
「それがなんでこんな人気になってるの?」
観客席には満席とはまでいかなくとも、かなりの人数が歓声を上げ、熱狂の渦を形成している。あまりの熱量に圧倒されてしまう。
「人が全力で戦ってる姿は惹かれるし、何より面白い。ほらっ、イフの声を聞いてみろ。」
『やれ!目を狙え!』
性格変わったんかってくらい熱中してんな。さっきからワクワクしてたしな。……多分イフ、ボクシングとか好きだろうなぁ。
「人間って変だね。」
「人間だけが変な訳じゃないぞ。人間も魔族も魔物も神も知性体である以上はだいたい変よ。」
「そうなんだ……じゃあ僕も変?」
「うん。結構、いや相当変だと思うけどな。」
「そんなに!?」
「だって俺と旅を続けられてる時点でだいぶ変わってるくね?」
「確かに。」
そこで納得されるとちょっと傷つくんだが。……まぁ、それはそうと一通り観察も終わったし。
「よし、帰るか。」
『なんでっ!?もっと見ようよ!』
「わがまま言うんじゃありません!宿屋探したり、ここのギルドの様子見たり、色々やることあんだから!」
『そんなぁ……』
イフの消え入るような声が頭の中で響く。ってか、神なんだから普通に観客の視点を借りるだとか、普通に空から俯瞰して見るとか、観戦する方法はいっぱいあるのでは?と思ったが、気づいていなさそうなので黙っておく。
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いじけてるイフに対応しながら、外に出て、走ってる最中に見かけたギルドの方面へと向かう。
「そろそろ機嫌直せって。色々終わったらまた見に行くからさ。」
『……分かった。』
あ〜、もうガキかよ。神様のくせに精神性が人間と遜色なさすぎる。もっと達観しててくれ。
「スグルー。通り過ぎたよー。」
「えっ?」
来た道を振り返るとそこにはギルドが建っていた。考え事しながら歩いていると、目的地を過ぎ去ってしまう。そんなことよくありますよね。
羞恥心を抱きながら無言でギルドへと入っていく。ギルドの内装は今までのギルドの中で一番清潔で一番オシャレ。それと観葉植物多め。ギルマスの趣味かね?
「……ん?」
ギルドの中を見ていると、奥の方からズカズカとこっちに向かって男が歩いてくる。なんかすっげぇ特徴的な髪型だな。このゲスい顔つきで黒髪ツインテール?嘘でしょ?
「あ〜ん?お前ここじゃ見ねぇ顔だな。どこの街からやってきたんだぁ?」
「えっ、あの……えーっと【ラーパル】からやって来ました……はい。」
「ほぉ〜ん、あの透明女のとこか。それでお前、ランクはいくらよ?」
「Cランクです……」
「おいおい、Cランクかよ!ってことは冒険者に成り立てのペーペーだなぁ?金さえ払ったらこの俺様がお前に手取り足取り教えてやってもいいぜぇ?」
うおっ!すげぇ……新人イビリの先輩冒険者だ!実在したんだ!伝説上の生き物かと思ってた。
「まぁ、色々と教えてもらいたいことはありますけど。ちなみにいくらですか?」
「500Gだ!新人のお前に払えるかァ?」
あら、意外と良心的。もっと値段吹っ掛けられるかと思ってたのに。まぁ、悪い話じゃないし、友好関係築けるかもだから受けてみるか。
「じゃあ払うんで教えてください!……あっ、そういえば名前聞きたいんですけど、いいですか?」
「あぁ?俺様の名前聞きたいのかァ?なら耳の穴かっぽじってよぉーく聞けよぉ!俺の名前は【ハンス】ここのギルドマスターだ!」
……………………はぁ?
新人いびりだと思っていた男はバルドのギルドマスターであった。ギルドマスターに指導されることになった傑。果たしてどんな事態に発展するのだろうか!
次回へ続く




