第一話『in the forest』
――えーっと、皆様おはようございます。
俺の名前は如月傑。トラックに撥ねられて、死亡。
そこから、神様に会って、魔法陣の中に突っ込んで転生したはずなのですが、
何故か俺は今、――森に居ます。
「……なぜこうなった?」
目が覚めたら全方位を木々で取り囲まれている恐怖よ。
とりあえず周囲を警戒しながら、野生動物に見つからないように木の上まで逃げたのはいいものの、
「あの女神、街に転生させろって言ったよな?」
まさか、森と街を聞き間違えた訳ないだろうし、完全にミスだろうな。
転生初っ端から、こんなことになるとか、ふざけてんな女神。
と、愚痴が地下水のごとく湧き出た、その時、
『あー、マイクテステス。聞こえてる?』
「うぉっ!?……えっ、イフ!?」
脳内に、ここ数時間で、聞き覚えのある声になった神の声が響き渡る。
これが俗に言う、「コイツ!直接脳内に!?」というやつであろうか。
『そうそう、君の神様こと、イフだよ。無事に転移できたのか、確認しに来たけど……なんか、その、ごめん』
「謝って済むなら、なんとかってヤツだぞ。見ろよ、この大自然を!」
この周りにそびえ立つ木々が見えないのか、と言わんばかりに腕を振って、過酷さをアピールする。
『いやぁ、まさか、魔法陣にトラブルが起きるとは……でも、安心しなよ。その森に居る魔物は、そこまで強くないから』
「それ以上に、俺が弱いけどな……それで、俺の安否を確認しにきただけか?どうせ、それだけじゃないんだろ?」
『よく分かってるじゃないか……まぁ、世界を救う使命を託しただけ放置とか外道も良いところだろう?だから君の旅路をサポートしに来たのさ』
イフが言うにはアドバイザーとして俺が困ったときに助けをくれる役回りになるそうだ。
正直かなり有難い。この森から出るのすら俺一人じゃ困難だろうし、何より一人は心細いからな。
「そいで、どう進めば俺はこの森から出られるんですかね」
『とりあえず真っ直ぐ進めばいずれ出られるよ。まぁ、真っ直ぐ進められたらだけどね』
コイツは不穏なことを言わないと気が済まないのだろうか。まぁ、何にせよ進まないとなにも始まらないし、行くとしますかね。
木から慎重に降りて、そのままどこに続くか分からない道をただひたすらに歩いていく。
そうだ、せっかく有効活用しよう。魔法の練習とかな。うん、魔法の練習な……練習……
「そういえば……魔法ってどうやって使うんだ?」
先程から力を込めて、「ファイアボール!」とか「ウォーターフォール!」などと、呪文的なものを唱え続けているのだが、一向に発動する気配がない。
『あ〜、さっきからなんか変なことやってると思ってたらそう言うことだったんだね。頭がおかしくなったのかとばかり』
「辛辣な言葉どうもありがとう。ってな訳で教えてイフ先生ー!」
『しょうがないなぁ……じゃあ耳の穴かっぽじて私の言葉、一言一句を脳に刻み込んでね』
すると、脳内にダボダボのシャツ一枚からスーツ姿に着替えたイフの姿が流れる。
何やら指さし棒片手に背後にあるデカめのホワイトボードを用いて説明するようだ。
――その前に一つ。神だからで、スルーしようかとも思ったが一言言わせて欲しい。なんで俺の脳内に映像が流れてるんだ?
『魔法を使うで大切なことは主に二つ。魔力、それと使いたい魔法のイメージだ。第一ステップ――魔力を知覚すること。まず、魔力とは体に溜め込まれた特殊なエネルギーのことだ。魔法を使うためには、魔力を認識し、適切に消費する必要がある』
俺の疑問が晴れぬまま始まった授業は思ったより分かりやすく、理論立ったものであった。
「体に魔力が溜まってる……そんな感覚ねぇけどな。どうやって認識するんだ?」
『認識の仕方は人それぞれだけど、定番は心臓部に意識を集中させることかな。魔力ってのは心臓に溜め込まれてるからね』
心臓か……言われてもそんな気はしないが、一先ず集中して意識しよう。
視覚情報が邪魔だから目を瞑って、魔力の認識に全神経を注ぐ。すると、
――温かいモノを感じ取った。感覚的に俺はこれが魔力だと理解する。
「おぉ……これが魔力ってやつか」
『認識できたようだね。それじゃあ第二ステップ――心臓にある魔力を動かすこと。これは言葉通り、溜まっている魔力を手とか足に移動させる作業だよ。これを覚えてないと、魔法を撃つ時に胸から出るから気をつけてね」
「……想像したけどクソだせぇな。ちなみに移動させるってどうやるの?」
『魔力を感じながら、移動したい箇所に集中するだけ。心臓から移動したい箇所まで魔力を輸送するパイプラインがあるとイメージをするのがコツかな』
「それ、すっげぇ分かりやすいな」
イフのアドバイスの元、手に魔力を移してみる。
イメージを補強するために骨をパイプと見立てて、骨に伝わせるイメージで手に魔力を集めていく。
すると、心臓に集まっていた温もりが少し弱くなり、手が心臓から減った分くらい温かくなる。
これで成功か?……一応、何回かやってみるか。
それから手以外の別の部位に移動させたり、逆に戻してみたり、と色々試して無事に魔力を移動させる感覚を掴むことに成功した。
「――よし、覚えた。これで、この感覚は忘れないはず」
『いいね。じゃあ、いよいよ最終ステップ――イメージして、放つこと。魔法ってのは使う魔法のイメージを魔力で象ることによって完成する。だからイメージのクオリティが魔法のクオリティに直結するよ』
なるほどな、つまり細部まで凝れば凝るほど良いということだ。
よし、だいたい理解した。それじゃ、始めようか。――形、大きさ、色に至るまでイメージしろ……俺が魔法を使う姿を。
「水、風……いや、炎だな」
俺が選んだ記念すべき最初の魔法は【炎】
定番中の定番だが、やはり火属性はカッコいいからな。それに、アニメや漫画の影響で1番イメージがしやすい。
俺の中の炎のイメージ。赤くてバチバチと燃え盛る熱いもの。キャンプファイヤーの火が近いだろう。
頭の中で大まかな炎の形を創り、整形し、炎に燃料を注ぎ込む感覚で火力を上げる。
そしていま創り出した炎のイメージと、魔力を手のひらに向けて流し込み、そして最後に、
「火」
噛み締めるように技名を唱える。刹那、俺の手のひらに炎が出現した。
俺の想像した炎と同一の炎は、バチバチと音を立てながら、手のひらの上で勢いよく燃えている。
「来たぁぁッ!オラッ、どんなもんだ!」
『おぉ!よく成功させたね。最初は技名言わずに失敗する流れかと思ってたのに』
「おん?技名ってなんか重要なのか?」
『もちろん、君の世界に言霊ってあるだろう?この世界も同様に、言葉には強い力が込められてるんだ。だから、ちゃんと使う魔法に名を与えて、呼んであげないと効果が弱まるよ』
マジか、カッコつけで言ったものが成功するとは……偶然とはいえ、この世界はどうも俺に合っているようだ。――にしても、
『……首を傾げて、どうしたんだい?自分の創り出した魔法に違和感を感じたのかな?』
「そんなとこ。なんかこの炎熱くないんだよな」
俺が想像したのは熱い炎。しかし、俺の手で燃えている炎は人肌程度の温度しかない。
もしかしたら、イメージ力が足りなかったのかと、不安が募らせていると、イフが即座に疑問に対して、答えを返す。
『それは自分の魔力で作ったものだからだよ。自分が持っている魔力で自らを傷つけることがないように、体の自己防衛機能が働いてるってわけ。もちろん、敵には有効だから気にしなくていいよ』
そうなってるのか……確かに、手の上で熱くなってたら、持ってることすら出来ねぇからな。なんにせよ、ミスが無くて良かったわ。
「疑問が解けたわ。ありがとな」
『どういたしまして。今後も、困ったことがあれば私に聞くんだよ。――あっ、それと、一つアドバイス。そろそろぶっ倒れると思うから、気をつけてね』
「えっ?それってどう、い……う?」
イフの言葉に反応した瞬間、急に視界がブレ、妙な脱力感が俺を襲う。
次第に立つことすらままならなくなり、俺は、「ぶぼぁ」と、情けない声出しながら、勢いよく地に顔を付けた。
自分の体に何が起きたのかと、状況に困惑していると、イフが俺に起きている事柄を説明し始める。
『体に蓄えられた魔力を使い切ると、"魔力切れ"という現象が起こる。魔力切れを引き起こすと、急激に力が抜けて、数分間立ってられなくなるのさ。次からは気をつけようね』
「そ、そういうのは、先に言え……どうすんだよ、これで魔物出てきたら」
『その時は第二の人生に別れを告げる準備をしなよ。まぁ、さすがにそんな運悪くないでしょ』
その楽観的な意見から間を置くことなく、目の前の茂みが、大きな音を立てて揺れ動いた。
それと同時に、俺の脳内に旗が掲げられた映像が流れる。
「イフさん……爆速でフラグ回収しそうなんすけど、どう責任とってくれるんですか?」
『ん〜……どんまい!』
なぁにが、どんまい!だ、このバカ女神ガァ!これ絶対死んだじゃん!
茂みから魔物がバッ!って出てきて、戦闘開始のやつじゃあん、俺が一般モブAとして八つ裂きにされるやつじゃあん!
きっとこれから俺の身に起こるであろうことは、R-18指定モノの惨劇であろう。
俺を血祭りにあげる化け物は、怯える俺など気にせず、草むらから飛び出した。
その生き物は流体状の身体を有しており、想像以上にすばしっこい。
大空のように青く澄んだ身体の中心には赤色の石のようなものが存在している。
この魔物の正体はファンタジーという題材でほぼ登場するレジェンド。その名を――
「……スライム?」
「……人間?」
「「……は?」」
この時、俺の声と、俺でもイフでもない声が重なった。
異世界に転生し、スライムと遭遇した傑。万事休すと思われたが、突然、聞き覚えのない声が響く。果たして、傑はこの後、生き延びれるのだろうか
次回へ続く




