第二十五話『事件』
……どうしたものか……私は切断された足の断面へと目を向ける。機動力は完全に削がれた。一応出血死しないように魔力を糸状に構成し、縛り付けて止血をする。
「その怪我じゃ、もうまともに動けないでしょ♪可哀想なお姉さん。」
「君のせいだけどね……まぁ、すぐ終わるのもつまらないだろう?少し話でもしない?」
私は会話をしながら気づかれないように相手の背後に魔力で弾を作り、彼女へとぶつける。
「お姉さん嘘つきだね♪会話する気なんてない癖に。」
彼女はそう言うと体を反らして、私が飛ばした魔力の弾を回避する。
「……ッ!後ろに目でもついてるかなっ?さすがにショックなんだけどっ。」
「私って勘が良いんだよねぇ。だから卑怯な真似してもすぐ分かっちゃうよ♪」
……なかなかに厄介な相手だね。多分彼女は本気を出してない。だからこそ、遊んでる今のうちに本気を出して仕留める必要がある。
「でもお姉さん目がまだ諦めてないね。何かまだ勝機でもあるの?」
「……勝機なんてそんな大層なもんじゃないよ。ただの子供だましにしかならない技さ。」
生まれた時から私に備え付けられた本当にくだらない技。でも相手が何も知らない状態でのみ、コレは絶大な効力を発揮する。
「……【透身】」
「……は?」
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私の目の前からお姉さんの姿が一瞬で消えた。私は即座に辺りを見回す。だがどこにもいない。
「……瞬間移動?でも魔法を使ったようには見えなかった……予兆もなく消える……そんなことできるの?」
とはいえお姉さんがいなくなったのは確かだし、どうしよっかな。う〜ん……3人くらい職員殺そっかな♪
「……ん?……ッ!?」
多少の違和感、そしてほんの僅かに見えた魔力の流れを見つけた私は急いでその場から飛び退く。
すると私がいた場所に複数の魔力の弾丸が通り抜ける。あと少し回避が遅れていたらまともに当たっていただろう。
「……へぇ、そういう感じなんだ♪面白いねお姉さん♪」
よぉく見ると部屋の一角、そこに魔力が溜まっているのが見える。多分お姉さんはそこにいる。
「体を透明にする能力……知らなかったら一瞬で決着が決まるくらい強力だね。でもさっきも言ったけど私って勘が良いからさ♪」
私がそう言うと観念したかのようにお姉さんが姿を現す。
「今ので当てられないんだったらもう無理かな……言ったでしょ?子供だましだって。」
体は隠せても魔力は隠せない。なら例え透明であっても、だいたいの位置がわかってしまう。
「でも惜しかったね。多分私じゃなかったら今ので倒せてたかもね♪」
「高評価もらえて嬉しいねぇ……」
「思ってもないくせに♪じゃあそろそろ終わりにしよっか。長引くとめんどくさいし。」
手に鎌を出現させ、お姉さんに接近する。魔法を撃ち込まれるが、全て鎌で切り裂きながら前進し続ける。
「はい、お疲れ様♪」
ついにお姉さんの目の前まで到達し、私は敬愛を込めた満面の笑みを浮かべ、一気に鎌を首へと振り下ろす。
しかし、振り下ろした鎌はお姉さんに当たらず、横から飛んできた何かに弾かれてカランッと音を立てながら床に落ちる。
「……水?」
魔力が籠った水が鎌をふっ飛ばしたのだ。私はそのまま水が飛んできた方向を見据える。
そこにいたのは……
「ぴぎゅぅっ……!」
「……スライム?」
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あわわ……危なさそうだから咄嗟に撃っちゃったけど……これ僕が狙われる感じだよねっ!?
「へぇ、お姉さん従魔なんて連れてるんだ。主思いでかわいいね♪」
「……?(あれは……確かスグルくんの従魔?なぜ私を守ったんだ?)」
と、とりあえず逃げないと!でもあのお姉さん置いていったら殺されちゃうし、どうすれば……そんなことを考えていると、僕の目の前に鎌が降り注ぐ。
「あっぶなっ!?」
とっさに体を退き、鎌を避ける。降りきった隙をついて水の弾を撃ち込むが、魔力で作られた防壁に防がれてしまう。
「ざんねーん♪そんなんじゃ当たらないよ。攻撃ってのはこうするんだよ♪」
複数の魔力の刃が彼女の周りに浮かび、それらが僕へと襲いかかる。
「こんなん無理っ!?」
いくつか躱すことができたが、避けた先を予測したかのような攻撃を避けきることができず体が真っ二つにされてしまう。
「あっ!?」
「あははっ♪キレイに半分こになっちゃったね♪」
「……あっぶなぁあ!!死ぬかと思ったぁああ!!」
失った分を再生して、体を元通りにする。
「あれ?……あぁ、そっか。スライムなんて長らく戦ってなかったから倒し方ど忘れしてた。核を壊さない限りはいくらでも再生するんだったね。」
核にはかすったけどね!?あと数センチずれてたら死んでたよ!!……とはいえ、まだまだ死ぬ可能性消えてない。この状況を切り抜けられる方法は……
「ふ、火魔法【炎壁】…!」
「おっと」
「おわっ!?」
僕と彼女の間を遮るかのように炎の壁が展開される。いきなりのことで驚いていると背後から声をかけられる。
「……そこのスライム……」
お姉さんがこちらに来るようにと僕に手招きをする。なにか策があるのかもしれない。そう思って迷わずお姉さんの方へと歩み寄る。
「……よしいい子だ……これを私の弟のもとまで届けてくれないかな?とても大事なものなんだ。」
そういってお姉さんは僕に首にかけていたネックレスを差し出す。
「……ん?」
「私が彼女の相手をする……その間に君は自分の主のところまで戻るんだ。このまま諸共殺されるよりかはその方が良い。」
「いやいや!何言ってんの!?自己犠牲とかそんなの誰も幸せにならないよ!!一緒に助かる方法を考えてよ!」
「……魔物である君が何を言ってるのか……人間の私にはよくわからないけど、この怪我だから私は逃げることができない……ほらっ、早く行って……この壁もそう長くは持たないから……」
……本当に逃げるしかないの?……まだなにか方法が……うぅ、でも僕の頭じゃ何も思いつかない……いったいどうすれば……
『やぁやぁ、お困りのようだね。』
突然聞き馴染んだ声が頭に響く。
「あっ、イフちゃん!!助けてぇ!!!」
『可愛いお仲間の頼みだからなんとかしてあげようかな。といっても僕にできるのは助言くらいだけど。』
「この状況どうすれば打開できると思う?」
『とりあえずあと5分くらい時間を稼げたら乗り切れるかな。いけるかい?』
「無理!5分もかからず殺されちゃうよ!やっぱり逃げるべきかな!?」
『そもそもなんで今日初対面の人間にそこまで命をかけられるんだい?』
「え?」
……確かに、よくよく考えたら僕が命をかける義理なんてどこにもない。僕だって死にたくないし……
……でも、多分助けなかったらなんか気分悪いし、いつまでもその時のことを引きづるなんてしたくない。誰かが死ぬなんて納得できない。
「ハッピーエンドが好きってだけだよ、みんな幸せな方がいいからね。」
『善性に溢れてるねぇ。どっかのバカとは大違いだ。それならとっておきの策を与えてあげる♪』
「とっておきの策?」
『そう、それは━━━進化だ━━━』
進化とは魔物としての格が向上すること。溜め込んだ魔力が一定量を超えると、魔力を許容できる体へと変化する。
『君は傑の魔力を結構貰ってたからあと少し魔力を手に入れられば進化できるはずだよ。』
「え、でもここら辺に魔力を持ったものなんてどこにも……」
『いるじゃないか、君の目の前に』
「……何してるんだ……早く逃げろ……」
僕はお姉さんへと目を向ける。
「そういうことね。でもこれでどうにかなんなかったら共倒れだけど大丈夫かな?」
『賭けに出てみるのも一興だよ。それじゃあとは君の選択に委ねるよ。』
「何して……?」
「……いただきます。」
僕はお姉さんの首元まで這い上がり、お姉さんに残されている魔力を全て吸いつくす。
「……あぐっ……」
魔力を吸われたお姉さんは魔力切れにより力無く地面に倒れ伏す。
そして展開されていた炎の障壁が徐々に魔力を失い、形が崩れていく。
「時間切れみたいだね♪……ん?」
『どうにか間に合ったみたいだね。』
魔力が許容量の限界を超えたことで体が輝き始める。それと同時に魔力に適した体へと創り変わっていくのが分かる。より高位の存在へと進化する。
【━進化完了━】
《個体名:凍結粘性騎士》
一回り大きくなり、氷の鎧を纏った騎士の姿へと変貌する。右手には剣を左手に盾を構え、敵である少女へと目を向ける。
「なにこれ凄っ……!?力が漲ってくる。」
『かっこいいね〜!』
「……あれ〜?もしかしてさっきのスライム?この短時間で進化したんだ〜。……ふふっ♪やっぱり魔物っておもしろーい♪」
彼女は再び鎌を構え直すと、僕との距離を詰めて切りかかってくる。
『進化した君の実力見せちゃいな。』
「わかった!……せいっ!」
振り落ちる鎌を盾で弾き、体勢を崩した彼女の体を剣で切りつける。
「ぐっ……」
氷の剣による一撃は冷気による凍傷により、さらに追加ダメージを与えることが可能となる。
「風魔法【風切】!」
彼女は勢いよく後ろに飛び、距離を取りながら魔法を放つが、全て盾によってで防ぎ切る。
「これなら……勝てる!」
そのまま一気に押し切ろうと、彼女との距離を詰めて脳天目掛けて剣を振り下ろす。
「……ダメダメ、油断したら」
「え?」
完璧に捉えたと思ったが、目の前から彼女の姿が消え、僕の攻撃は空を切る。それと同時に背後から強い衝撃が加わる。
「ぐわっ!?」
そのまま前方へと吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる。その衝撃で壁に立てかけられている物がいくつも落ちていく。
「……ぐぅっ……なにが起こってっ……」
『一瞬で背後に回って蹴りを入れたんだよ。彼女がしたのはそんなシンプルな行為さ。』
その言葉に強い絶望を覚える。つまりただの動きに全く追いつけなかったということ。……さっきまでのはただ遊ばれていただけということ。
「……これ以上は時間の無駄だし、遊ぶのも飽きたから本気で殺すね。」
彼女の顔から笑みが消え、纏っている魔力がさらに凶悪なものへと変貌する。
「……助けてっ……」
誰か……助けて……
助けを求めるがそれも届かず、僕の目の前に死を告げる鎌が落ちる。あまりの恐怖から逃れるために僕は目を瞑った。
「……え?」
部屋に金属音が鳴り響く。にも関わらず痛みなどは一切ない。まだ死んでない?何が起きたのか確かめるために目を開けるとそこには……
「重い重い!!押し込まれてんぞ!もっと押し返せよ!!!」
「無茶言うな!こっちだって本気出してんだよ!!」
見覚えのある2人が僕へ振り下ろされた一撃を全力で押し返している姿があった。
「……す、傑?」
「ごめん今返答無理!!クソが!少女のくせに馬鹿力とかダメでしょ!その細い腕のどこにそんな力があんだよ!!」
「なかなかに失礼なこと言うね。殺すよ?」
「って横のおっさんが言ってました!」
「おいてめぇ!何俺に濡れ衣を被せようとしてんだ!!」
「2人まとめて殺すからどっちが言っても関係ないけどね。」
彼女の魔力が増加し、更に鎌が押し込まれる。
「うわぁああ!!死ぬ死ぬ!!」
「こんなとこで死にたくねぇよ!」
「何やってるんですか!雷魔法【電光】!」
「不意打ちとか卑怯じゃない?」
マリーの魔法に気を取られ、力が弱まった隙に一気に押し返し、その場から飛び退かせることに成功する。
「はぁはぁ……あぁ〜、死ぬかと思った。」
「油断したらダメだよ?」
彼女は倒れているナスカに向かって魔法を放つ。
「まずっ!?」
「問題ない、【護身・五月雨】」
シラギがナスカの元に駆けつけ、放たれた魔法を全て斬り落とす。
「シラギさんナイスです!」
「……う〜ん、こんなに集まると殺すのに時間かかっちゃうなぁ……ん?……あっ、もうこんな時間?……まじかぁ……うぅ〜」
何やら彼女の様子がおかしい。突然何かに気づいたように頭を抱えてうなり始める。
「はぁ……しょうがないね。楽しい時間は終わり。それじゃ、お兄さん達、私もう時間だから帰るね〜♪」
「はぁ!?おい待てよ!」
「あっ、そうだそうだ。私の名前は【ハート】だよ〜♪ちゃんとおぼえててね〜!バイバーイ♪」
そう言って彼女は虚空へと消えていく。
「消えた……?」
「クソッ……何が何だか……ってナスカ!大丈夫か!?」
瀕死になっているナスカの元へと駆け寄るザックス達。
「……はぁ……はぁ……」
「どうやら気絶しているだけのようであるな。ただ、足首が斬り落とされている。直ぐに教会に運ぶべきだ。」
「分かってる!急ぐぞ!」
そう言ってザックスがナスカをおぶり部屋から去っていく。部屋には僕と傑だけが取り残される。
「行っちまったなぁ……平和に一日が終わるかと思いきや、こんなことになるとはたまげたなぁ。」
そう言いながら傑は僕へと目を向ける。
僕は思わず顔を背ける。こんなに姿が変わってしまったから僕のことが分からないのでは無いかという不安に駆られたからである。
「それにしても随分変わったなぁ、【シズク】」
「……え?……僕のこと分かるの?」
「当てずっぽうで言ったけど当たってたか!やっぱり俺は運がいい!」
「えぇ……?」
「で、何があったらそんなにかっこよくなるんだ〜?教えろよぉ〜。」
「ちょっ!あんまりベタベタ触らないでよ!」
「身も心もつめてぇなぁ。水筒から冷蔵庫に昇格か〜?ハハハハハハッ!」
「僕をモノ扱いするなぁぁ!」
「うわっ!冗談だろ!そんなにキレんなよ!剣を振り回すなって、危なぁああい!」
『ふふっ♪無事に生き延びれて良かったね。』
無事に生き延びることが出来たシズクとナスカ。あの謎の少女は一体何者だったのだろうか。きっと近い将来再び相まみえることとなるだろう。
次回へ続く




