第十九話『新たな旅路』
「いぇあ!熟睡したぜぇぃイデデッ!筋肉痛がぁぁ!」
過酷な往復、死にかけるほどの激闘、長いダンジョン探索、その積み重ねにより俺はとてつもない筋肉痛に襲われていた。
「大丈夫?」
心配したシズクがベッドの上で苦しんでいる俺のお腹の上に乗る。それによって重みが加えられるので、より一層苦しみが増す。
「し、シズクあんまり動かないで……うごァッ!こ、ここまで筋肉痛は久方ぶりだッ……これが世界が俺に与えた試練ってわけか……」
『そんなわけないでしょ』
イフの冷静なツッコミを華麗に聞き流して、どうにかこうにか体を起こす。
それから産まれたての子鹿のような足取りで身支度を済ませるとさっそく色んな人に会いに街へと繰り出した
「もうあと少しで昼か。結構寝てたんだなぁ……」
街の広場にある時計台に目を向けると短針が11時を示している。
結構寝たな、やっぱり疲れが溜まってたか。と、そんなことを考えていると背後から重低音で覇気のある声が聞こえた。
「おう!そこでぼーっと突っ立て何してんだ?」
バシンッ!という乾いた音が俺の背中から骨にまで染み渡る。
「ぐわぁァァアアア!!」
背中を思いっきり叩かれ、その衝撃でとてつもない痛みが体を走った。あまりの痛みに悲鳴を上げながら地面に転げ回る。
「……俺そんな強く叩いたか?」
痛む背中を抑えつつ、俺を攻撃した人物へと目をやる。そこに立っていたのは強面筋肉ダルマ、声から予想はしてたが、やはりガブラであった。
「……ギルマスっ……今俺は……筋肉痛なんです……っ!」
「なるほどな、そりゃすまんかった!軽く叩いたつもりだったんだがなぁ。ガッハハハッ!」
そもそも叩くんじゃねぇよぉ……あと力加減間違えてんだよこのゴリラがよぉっ……!
「あ〜、ギルマス……俺、この街出て次の街に行く予定なんですけど、なんかオススメあります?」
「オススメぇ?……あ〜、まぁ、王都だろうな。あそこなら基本的に何でもあるし、問題点は宿屋の金が高いってことくらいだ。」
王都ねぇ、この前ルピスに知識を伝授された時にも聞いたような気がするな。利便性が高いのは間違いないだろうな。
とはいえ異世界初心者の俺がそこに行ったら、都会の悪い大人達に食い物にされそうなんだよなぁ。まだまだ経験を積む必要性ありだな。
「聞きたいことはこれで終わりか?」
「はい、っでなんでそんなにキョロキョロしてるんですか?」
ガブラが謎に目を左右に振り、周囲を警戒している。その行動からは何やら焦りのようなものが感じ取れる。
「仕事抜け出したから今、妻に見つかるとマジィんだ!」
「見つかると何がまずいんですか?」
怒り混じりの声が聞こえた次の瞬間、ガブラの首が掴まれる。なんとなく状況を察した俺はガブラの背後にいるであろう人物を見る。
するとそこには黒髪ショートヘア美人のお姉さんが立っていた。
「ぐぇっ!?」
「……またこんなところほっつき歩いて……まだ書類仕事終わってないですよ?」
「ちょっ!待っ!?待ってくれ【キリア】!ぐびがしまるっ!」
かなりの力が加えられているようでガブラの首にキリアと呼ばれた女性の細く色白の指がくい込んで行く。
っていうかなんか浮かされてね?力どうなってんだ。
「はぁ……まったく。いつも私が目を離した隙に逃げだすんですから……あっ、そこの冒険者の方。お見苦しいとこを見せてしまい申し訳ございません」
「あっ、はい。」
初対面の人、そして情報量が多い状況のせいで俺の返答がぎこちないものになっていく。
「私の名前はキリアと申します。この馬鹿の妻で秘書をやらせてもらってます。以後お見知り置きを。」
「あ、分かりました。……えっと、一応僕の名前は……傑って言います、はい。」
「覚えておきます。ではまたどこかで。ほらっ、行きますよ。」
「嫌だぁぁあ!!書類仕事なんてめんどくさいことしたくねぇええ!」
そのままガブラはキリアさんに連れ去られて行った。この後、仕事に忙殺されるであろうガブラの光景が目に浮かぶようである。
「よし。次行くかー」
「そうだね」
俺たちは何事も無かったかのように次の目的地へと向かった。
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「うぃっす、お邪魔します」
「いらっしゃい……ってお前さんか。ダンジョンはちゃんと攻略できたようじゃな。」
次にやって来たのは【森の薬屋】。ここの店主であるルピスに挨拶しに来たのだが……
「まぁ、ここで買ったポーションのおかげだな。感謝してる。」
「感謝の言葉を言うくらいなら金を落とさんか。ダンジョン行ったってことは……そこそこ儲けたのじゃろ?」
ニヤニヤと口角を緩ませながら、こちらに期待の眼差しを向ける。
鴨が葱を背負って来たと思われてんのかね?
「……俺はしばらく金を貯めるんだ」
「ふん……ケチなやつじゃのぉ。金は天下の回りものじゃぞ?使ってなんぼじゃ!」
「だが断る!俺は決して金は浪費しないのだ!あ、ポーション5本ちょうだい。赤3と青2ね。」
「結局買うんだ」
シズクから横槍を入れられる。まぁ、ここに来たのはお別れの言葉を言いに来たのとは別で必要なものを買いに来たのも目的の1つだからな。
「あー、ルピス。俺今日でこの街出るからよろしくな。」
「ほう、そうなのか。気をつけるんじゃぞ。最近魔物が増えてるようじゃからの。」
知ってるよ、それをどうにかしに行くために旅に出るんだよ。重々承知よ。
「ほれっ、ポーションと……地図もおまけでくれてやろう。ここら周辺の街の道が描かれておる。有効活用するんじゃな」
「お〜!優しいねぇ!さすが爺さん!ほらっ、金だ持っていけ!」
「毎度あり!って今は可愛い美少女なんじゃから爺さん呼びはやめい!」
ルピスからポーションと地図を受け取った俺は硬貨を取り出してカウンターに叩きつける。
それをルピスが素早く回収。やはり金の亡者だなこのジジイ。
「可愛いけど、自分で可愛い言うかね普通。」
ルピスの言葉に苦言を呈し、そのまま出口の方へと歩いていく。
「たまに来るからそんときはおまけしてくれよな!じゃあまたな!」
「お主の旅が幸多からんことを祈っておるぞい。あと次来た時は10万Gくらいここに落とすことじゃな」
「やなこった!」
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「かなり壊れてるな。直すのに少し時間かかりそうだ。」
はい来ました炎鉄工房。そして今、どういう状況かというとグレム達にお別れの言葉を言いに来たのとついでにゴーレムとの戦いでめちゃくちゃボコボコになった胸当ての修理をしてもらってるわけである。
「これがなかったら即死してたんでホント助かりました。ホントにありがとうございます!」
「なら次はもう少し長持ちさせるようにしろ。修理するこっちの身にもなれってんだ」
「つまり危ないことはすんなって言いたいわけっすね。全くもうツンデレなんすから〜!」
グレムが苦言を呈していると、テナから横槍が飛んでくる。
なるほど、ツンデレなのか。そう思うとグレムにときめいたりは……しないな、うん。
「テナお前掃除またサボったろ。給料減額だからな」
「そんなぁああああっ!!!」
目の前で一連の漫才が繰り広げられてる間にどうやら修理が終わった様子。
「ほらよ。軽く直しただけだから手入れとかしとかねぇとまたすぐに壊れるぞ」
「あざーっす!」
「それとここに来たのはそれだけが理由じゃねぇんだろ?お前は顔に出やすいタイプだからな」
マジか、俺そんなわかりやすい顔してんのか?まぁ、元から隠す気もないし、普通に答えるとしますか。
「今日でこの街を出ようと思うんですよ。なんでお世話になった人に別れの言葉を言い回ってるわけです」
「なるほどな。ま、頑張れよ。ただ忘れるなよ、冒険者にとって最も大事なことは自分の命を守ることだ。それだけは胸に刻んどけ」
「分かりました!」
「私達もスグルさんの旅路応援してるっす!頑張ってくださいっす!」
グレムから忠告をテナから応援の言葉を貰う。
いやぁ……応援ってありがたいもんだねぇ。涙腺が刺激されそうになったよ。
「それじゃ次のところ行ってきます。また色々壊れたらここに来ますね〜!」
「おう。そんな頻繁に来るなよ」
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「てなわけで俺は別の街に行こうと思うわけですが、どの街がおすすめとかある?」
広場を歩いてたら偶然見つけたシアン達を捕まえて強引に別れの挨拶と次行く街のアドバイスを貰うことにした。
「ほかの街をよく知らないから上手くアドバイスできないかな。ごめんね。」
シアンがそう言って申し訳なさそうな顔をする。ホントこいつは善人だなぁ。
「別に謝ることは無いよ。だって俺が強引に聞いてるだけだし」
「俺の故郷の【バルド】とかどうだ?強者が集っててなかなかに面白いぞ!」
テオがいつも通りの高らかな声で提案してくれる。
ふぅ〜ん、強者がいっぱいねぇ。仲間集めにはちょうどいいな。一応候補には入れとくか。
「ここからだと遠いけど王都【アトラス】は最先端の魔法や物品が揃っているからオススメよ。」
リアがガブラと同じ提案をする。やっぱり王都は人気だねぇ。とはいえまだ行く予定は無いからパスかな。
「う〜ん、その地図の中だと【ラーパル】とかがいいんじゃないかな?私のイチオシだよ♪」
メルナの言葉にぴくりと耳が反応する。こういう系の話題だと1番良さげな提案をしてくれそうなのがメルナかシアンだからな。堅実にいけそう。
「それってどんな国?」
「美味しいものが沢山あって、ここから結構近い街だよ!」
ほう!美味しいものかぁ!……日本人として食はとても興味をそそられる。よし!それにしよう!
「OK!じゃあその【ラーパル】ってとこ行ってみることにするわ!あんがとな!またどこかで会えることを期待してるぜ!」
「次会うときは僕らも立派な冒険者として成長することを約束するよ」
「元気でな!」
「お互い生きてるといいわね」
「私達も頑張るよぉ!」
そして再会を誓い合った俺たちはそのまま別の道を歩き始めるのだった。……と言ってもあいつらはなんか4人でパーティー組むことになったぽいけどな!
俺も勧誘されたけど世界を救う予定があるから断ったよ。……寂しくなんてないんだからね!
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別れを済ませた俺たちはそのままダラトナを飛び出し、ほかの街へと繋がる草原を歩いていた。
「いやはや感動の別れもいっぱいしたことだし、これで後腐れないかな。……しかしまさかあいつらパーティー組むとはな」
『まぁよくある話だね。彼らとの冒険も面白そうだけど勧誘断ってよかったのかい?』
イフが俺に語り掛ける。どうせ、俺がパーティー組まないって分かってた癖に。
「さすがに俺の事情に巻き込むのは良くねぇかなって。あと単純に次の仲間は俺をめちゃくちゃ慕ってくれるやつがいいからな!」
次の仲間は従順もしくは誠実な人物と決めている。
何故かって?俺の仲間は俺にやけに辛辣なのだからだ!俺がいったい何をしたというのか!全く訳が分からないぜ!
「だから奴隷?買うためにお金貯めるんだっけ?」
「そうそう。俺に従順な奴隷……欲しいねぇ!旅のお供にはそういう奴が欲しい!」
あわよくば買った奴隷がとてつもない美少女でそこから始まる甘美なラブストーリーが!あぁ!想像するだけで……いや、俺がそんなことしてる想像ができねぇや。チェリーボーイは辛いねぇ。
『何一人で落ち込んでんの。早く歩くよ。夜になったら魔物来るんだから』
「へいへい、分かってますよ。……目指すは【ラーパル】!待ってろよ!俺に食べられたがってる食材どもぉ!」
「あっ、食事で思い出した。」
シズクが不意に言葉を漏らす。何やら嫌な予感がする。
「ん?」
「そーいえばまだボクの食事済んでないや。スグル、ちょっと貰うねー」
「ちょっ……!嘘だろ!?やるにしてもこんな道端で吸わないで欲しいんですけど!?」
「うるさいなぁ。ゴーレムとの戦いで手伝った分のお礼貰ってないからね。いっぱい吸わせてもらうよ。」
そう言ってシズクが俺の首にまとわりつく。ひんやりとしていて気持ちいい〜……じゃねぇ!やばい魔力が吸われるぅ!
「いただきま〜す♪」
「うわぁぁぁぁぁああああああああ!!!」
この後草原でぶつぶつと文句を言いながら倒れている男性が目撃されたそうな。
《第1幕 終》
多くの別れと新たなる旅路に心を震わせる傑たち。次の街ではどんな人物達が傑を待っているのだろうか。
次回へ続く




