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文学系

ぼくが生きたあかし

作者: 七宝

 こーんにーちは! ぼくの名まえはシュン! ピッカピカの小学2年生だよ! え? 2年生はもうピッカピカじゃないだろって? うるさいな! ヒジとかヒザとかがピッカピカなの!


 きょーはママと、いもーとのユキちゃんとスーパーにおかいものにきてるよ! ぼくがユキちゃんのベビーカーをおしてるんだ! えらいでしょ!


「シュンくん、晩御飯なに食べたい?」


「ぼく、ひややっこたべたい!」


「渋すぎワロタ」


 ママはわらってるけど、おとーふはとってもけんこーによくて、とってもおいしいんだよ! おしょーゆもおとーふもどっちもおマメだから、とーってもあうんだよ!


冷奴(ひややっこ)のほかはー? なにか食べたいものあるー?」


「うーん、おやさいたべたいな!」


「小2で野菜欲しがるのは草。でも助かるわ」


「バーニャカウダで!」


「一気にめんどくさくなったンゴ」


 めんどくさがりながらもちゃんとざいりょーをかってくれてる。ママはやっぱりやさしいね!


「あ! ママ、あれほしい!」


 おかし! まんまるにかがやく玉!


「いくつ欲しいのー?」


「いっこ!」


 そんなにかってもたべられないからね! ぼくのおかしをカゴに入れてレジにレッツゴー!


「合計で9億円になります」


「これで」


「ちょうどお預かりいたします」


 ぼくんち、お金もちらしいです。


 ぼくはママを手つだった。ビニールのふくろにばんごはんのざいりょーを入れるの!


「あら平田(ひらた)さ〜ん」


 この人はたしか、おなじクラスのアンメルツくんのママ!


「あっ! 小林(こばやし)さーん! こんにちは〜」


 ママとはけっこうなかよしみたいなんだよね。ぼくとアンメルツくんはほとんどしゃべらないけど。


「聞いた? 平田さん」


「なになに〜?」


「ここに入ってるヨガ教室が今だけ3ヶ月0円なんですって!」


「えぇーっ! すごーい! 小林さんやるの?」


「うん、やろうかと思ってるの。一緒にやらないかしら? 入会手続きもすぐに終わるみたいだし、初回いつ来るかだけ話し合いましょ!」


「いいわね! 行きましょーっ!」


 ヨガってなんだっけ。タコみたいにクネクネまがるやつ? ママ、タコになっちゃうの?


「てことなんでシュンくん、ちょっと行ってくるからユキちゃんのこと見ててね!」


「えっ」


「お兄ちゃんだもんね!」


「うん!」


 なんかよくわかんないけど、まかされた! おにーちゃんだからね、ぼくは!


 それからけっこうまった。ヒマだった。


「キャッキャ」


 1さいのユキちゃんははなしあいてにはならなかった。でもいいんだ、ユキちゃんはかわいいから、見てるだけでげん気が出てくるもん!


 でもあきるよね〜、かわいいけど、あきちゃうよね〜。


 そうだ、さっきかってもらったあめ玉をたべよう! 見てよこれ、大っきいでしょ! 1こ10円もするんだよー!


 このぶどうあじがおいしいんだよね〜。

 あ〜ん⋯⋯あ、ユキちゃんがめっちゃ見てる。ほしいのかな。


 でもこれはぼくがかってもらったあめ玉であって、ユキちゃんがたべるためのものじゃないんだよ〜、なんていってもわかんないよね!


 そういえば、「おにーちゃんはいもーとにゆずるべし!」ってママがいつもいってたなぁ⋯⋯よし、このあめ玉はユキちゃんにあげよう! ユキちゃんがちっちゃいときからかっこいいところ見せておかないと!


「はい、あ〜ん」


「あうー」


 それにしても、子どもにこのあじがわかるのかねぇ。ぼくは大すきだけど、ってこれじゃイヤなジジイじゃないか。


「キャッキャ」


 あ、よろこんでる! よかったぁ。


 ぶどうのいいにおいがする〜! ひとなめだけでもすればよかったなぁ〜。


 おしっこしたいな。ベビーカーっておトイレにもっていってもいいのかな? いいよね、おいていくわけにもいかないし。


 よかった、ちかくにある。


 ジョ〜


 ふぅ〜、天ごくだなぁ〜。

 ちゃんとちんちんフリフリして、ズボンはいて、おててをあらう!


 さ、ユキちゃんもどろうね〜⋯⋯ん? なんかげん気なくない?


「ユキちゃん?」


「⋯⋯⋯⋯」


 ん?


「ユキちゃ〜ん」


「⋯⋯⋯⋯」


 あれ?


 たたいちゃうぞ〜。べしべし。


 コロン。


 ぶとうのあめ玉が出てきた。


「ユキちゃん?」


「⋯⋯⋯⋯」


 えっ、もしかしてあめ玉がのどに!? どうしよう、ママよばないと! あ、でもおこられちゃう! おにーちゃんなのにっておこられちゃうどうしよう!


「シュンく〜ん、おしっこしてるの〜?」


 ママだ!


「マ⋯⋯!」


 ダメだ! おこられちゃう! あめ玉をかくさなきゃ! とりあえずポケットに⋯⋯


 ユキちゃん、しんでないよね⋯⋯?


「シュンく〜ん、ママ終わったよ〜」


「ぼくもおわった! す、すぐ出るね!」


 うごかなくなったユキちゃんをのせたベビーカーをおして、トイレから出た。


「ごめんね待たせちゃって、今度なにか買ってあげるから許してね〜」


「うん⋯⋯」


「やっぱ怒ってる? ごめんね、シュンくんは偉いね〜、よーしよしよしよし」


 あたまをなでられたら、なみだが出てきた。そのころにはもうママはぼくを見ていなかった。


「ユキちゃんもごめんね〜⋯⋯えっ? ユキ!? ユキ! ユキ!」


 うごかなくなったユキちゃんをゆさぶるママ。ごめんなさい⋯⋯


「シュンくん、いったい何があったの!?」


 ごめんなさいママ。ぼくはいまから、うそをつきます。


「ぼく、わかんない⋯⋯なんかきゅうにくるしそうにしだして、ぼくもパニックになっちゃって、どうしていいかわかんなくて、ごめんなさい」


「もう! 見ててって言ったのに! すぐママを呼ばなきゃダメでしょ!」


 ママはすぐにケータイでんわできゅうきゅう車をよんだ。


 ポケットのあめ玉をどうにかしないと⋯⋯


「ママ、おなかいたい⋯⋯」


「もう! あんたに構ってる暇ないの分かるでしょ? 勝手に行ってらっしゃい!」


 ぼくはトイレにあめ玉をながした。手もたくさんあらった。


 ユキちゃんはきゅうきゅう車でびょういんにはこばれたけど、しんじゃった。


 それからまい(にち)、ママにおこられた。パパは1かいもおこらなかった。だけど、目がこわかった。ママよりも⋯⋯


 おそうしきっていうのをはじめてやった。


「窒息死ですね⋯⋯あの日、何か食べさせました?」


 3人でしらないおじさんのはなしをきいた。


「あの日⋯⋯あの日⋯⋯あっ!」


 ママが大きなこえを出した。


「あんた、あの飴ユキちゃんに食べさせたんじゃないでしょうね!」


「あれはじぶんで、ぜんぶたべたよ」


 あの日、ぼくはきめた。ぜったいにバレないように、ぜんぶぜんぶ、かくすんだ。

 それがぼくの生きるみちだとおもった。それしかないとおもったんだ。


 それからは、まい日がつらかった。


 ママは大ごえを出しながらぼくにぼう(りょく)をふるうようになった。


 パパはほとんどしゃべってくれなくなった。たまにしゃべってくれたとおもったら、ママとおなじようにぼくをぶったりした。


 でも、こんなことは、ささいなことだった。


 いつかバレるんじゃないか、いつバレるのか、ぜんぶぜんぶかくしたつもりだけど、ケーサツがなにかをさがし出しちゃうんじゃないかって、そうおもうとむねがはりさけそうだった。それがいちばんつらかった。


 ⋯⋯ここって、『しんぞう』なのかなぁ。


 いたいなぁ。


 まい日、いたむんだ。


 すっごくビクビクしながら、まい日生きてるんだ。もう、つらいよ⋯⋯ぼくは、ふこうだ。


 学校もずっといってないから、ともだちともあえてないし、そのうちおかしくなっちゃうよ。





 ある日、いえにユキちゃんのぶつだんがはこびこまれた。

 ぶつだんには、まえからおいてあったものよりも小さな『いえい』がかざられていた。


 しゃしんにうつるユキちゃんのえがおを見て、ぼくはなみだがとまらなくなった。


 ぼくはまちがってた。


 じぶんがどうすればたすかるか、それだけしかかんがえてなかった。じぶんがいちばんつらいとおもってた。


 いちばんつらいのは、ユキちゃんだ。


 ぼくにはなげくしかくなんてないんだ。ぼくがころしたんだから。


 ぼくは、さいていだ。


 ぼくは、なんのために生まれたんだろう。


 ユキちゃんをころして、みんなをかなしませて⋯⋯ぼくなんて生まれてこなきゃよかったんだ。


 そう、ぼくは⋯⋯


 ただの、わるものだ。


 生きてちゃいけないんだ。ユキちゃんのところにいってあげいなと。わるものだけど、いもーとをまもるおにーちゃんなんだから。





 おとなになって、けっこんして、子どもが生まれて、しあわせに生きられるとおもってた。


 サッカーせんしゅになりたかった。


 ユーチューバーになりたかった。


 じてんしゃにのれるようになりたかった。


 おなじクラスのマユちゃんにはなしかけてみたかった。


 パパやママと、もっといっしょにいたかった。





 ユキちゃんと、もっといっしょにいたかった。


 どれもかなえられずに、なにものこせずに、ぼくはしにます。生きたあかしも、のこせずに。


 しぬのはこわいけど、じぶんがゆるせなくて、たえられません。


 ユキちゃん、ぼくなんかがおにいちゃんでごめんなさい。


 パパ、ママ、生まれてきてごめんなさい。


 パパ、ママ、生んでくれてありがとう。





 さよなら。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 全部 [気になる点] なし [一言] 先生みたいにこんな小説を書けるようになれたらなっと思っております。
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