提灯の道
一人、高速道路を走っている時の話だ。夜遅く、田舎の為か対向車もおらず、暗い道路を延々と走り続けていた。眠気もあり、ぼんやりと運転していたからだろうか、ふと助手席に気配を感じ、そちらに視線を移す。
「?」
誰もいない。それもそのはずだ。空の助手席には、私が買っている夜食の入った袋が置いてあるだけだ。気のせいかと前を向き直ると。
「え!?」
視界の隅に、人がいる。男性だ。少しでもそちらを見ようとすると消えてしまうので分からないが、とにかく男性のように思う。何度見てもおらず、視線を戻すと確かにいる。怖くなり、もうすぐサービスエリアなので降りようと、アクセルを踏む。だが。
「あれ……?」
ふと、前方の道に違和感を覚える。道路照明灯、いわゆる電灯が等間隔であったはずなのにない。妙に暗く、車のライトだけが頼りだ。この状況でこれ以上飛ばすわけにはいかない。少し速度を緩めると、次第に電灯ではない、別の明かりが見える。ぼんやりと光る、優しい光。あれは……提灯だ。道の両端に、赤い提灯が棒に刺さり、照らしている。
「綺麗だ……」
思わず、そう呟く。そういえば、この辺りの土地では、お盆の季節に灯篭を掲げる祭りをしていると聞いたことがある。盆灯篭という奴だ。それで道にこんなものがあるのかと考える。だが、すぐに気づく。ここは高速道路。そんなものを設置しているわけがない。
「は、早く抜け出さないと……!」
今なお視界の端にいる男性に怯えつつも、車を走らせ続ける。だが……行けども行けども提灯の道は終わらない。もうすぐにあるはずのサービスエリアも未だ見えない。それどころか、路肩すらなく、ただただ暗闇に提灯で照らされた道が浮かんでおり、そこを延々と走らされているような気分だ。次第に精神が消耗していき……
「もう、勘弁してくれ……頼む……!」
心の底から、許しを請う。誰に向けてでもないが、とにかくそう強く請う。すると……
「………」
視界の隅にいた男性が消える。同時に、提灯の道は消え、電灯の明かりが戻る。
「た、助かった……?」
やがてサービスエリアへの道が見え、そちらから入る。深夜だが、何台かのトラックが止まっており、建物からの明かりでほっと息をつく。
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後日、この話を友人にしたが信じてもらえなかった。寝てただけだろうと言われ、そうだったのかもしれないとも思う。結局、あれが夢だったのか、何だったのか。未だに分からないが……どこか幻想的な光景を、今でも私ははっきりと思い出せる。
完