051 愛と青春のケモノたち 6
ところで麻里さん、もう一度音楽をやる気はありますか? もしそうなら紹介したい仕事があるんですがどうでしょう。
再び皆が談話室に移動したところで私は緑川麻里に持ちかけた。
赤井三矢のことだけでなく彼女も救ってやらなければ片手落ちというものだ。
私が紹介したのは「アナザーモヒート」というライブハウスのスタッフの仕事だ。基本的には裏方だが、併設したカフェバーにもステージがあってそこで歌うこともできる。こちらの客層は『さびしぐれ』にも合うと思う。
それとついででいいんですが、そこにいる榎本橘花という子にギターを教えてやってほしいんです。お願いします。……まあ水上のおっさんにすればこっちが本命なんだがな(小声)。
実を言うと榎本橘花は水上錦次の従妹だ。丁字信伍の扱うドラッグの背景を探っているうちに水上のおっさんに繋がったのだ。ただし魔騎士魔武とは敵対関係のグループらしい。やり合わなくてよかったな。
「アナザーモヒート」に行ったときに橘花たち『WBC』の演奏を聞かされたのだが、バンドがやりたいという熱意だけは買うが演奏は下手を通り越して壊滅的だった。特にギターが。
そこでおっさんに「誰か教えてくれるやつとかいねーかよ。神様仏様ついでに鬼百様」と拝まれたときに『さみしぐれ』のことが頭に浮かんだのだ。拝んでみるもんだな。
「でも……無理よ。私はもう……」
そう言って麻里は自分の傷だらけの右手を見た。例えるなら通り魔に何度も刺されたような傷だ。割れたビール瓶でやったのか? そのせいで指も動かなくなったということか。馬鹿野郎が。
私は引っ込めようとする麻里の手を掴んだ。
「えっ、な、何?」
「おいコラ!」「姉貴に何してんだ!」
私の行動に赤井と緑川も気色ばむ。
「ふざけんなよ、テメー! さっさとその手を……なな何だよそその殺気はよ!」
麻里の後ろに立っていた赤井四葉も私の手を掴もうとするが、【威圧】を向けると動けなくなる。ああ、やり過ぎたか。でも私も殴られたくないんで、ちょっと辛抱してください。
1分ほど経って私は麻里の手を解放した。そのとき彼女の顔に驚きが広がる。
「えっ? 動く……動くよ! 何で?」
「えっ? 本当かよ、姉貴!」「は? どどういうことだよ!」
「なっ、ちょ! おい、テメーがな何かしやがったのか?」
さあ、どうなんでしょうね。はっはっは。あとはリハビリを頑張ってくれ。
……後日談になるが、スリーピースバンド『WBC』(G・Vo:榎本橘花、B・Vo:木黒勝平、D:風尾烈雄)は「わがままマンディとはらぺこビリー」でチャートを賑わすことになる。
麻里と三矢の『さびしぐれ』もそれに遅れてだがアルバムを出す機会に恵まれる。曲はラジオや有線を通じて息の長いヒットとなった。




