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03F 鴨女(かもめ)が泣いた日 3

「い、今のはまぐれよ! そ、そうよ! ここからが本番なんだから! 何帰ろうとしてんのよ!」

 呆然とボールを見送ったあとで気を取り直したように上倉晴子が言う。

 まあそうなるとは思ったがな。仕方がない。籠のボールが無くなったら諦めるだろう。


 その後もおれは晴子の球を打ち返し続けた。錬金術でズルをしてはいるがそこは内緒だ。ボールをバットに【吸着】させたあと【強化】した体で振り抜く。もちろん加減はしているぞ。それを測るために最初にバントをしたのだ。


 【吸着】は【収納】の能力スキルの応用だ。【収納】の方法は物体を空間ごと削って亜空間に飲み込む【強奪】と、空間同士を入れ替える【与奪】に大別できるが、今使っているのは【与奪】のほうだ。

 バットの前の空間を亜空間と入れ替えるとき、その空間を減圧しておくと吸引力が発生する。理科の実験で牛乳ビンにゆで卵がすっぽりと入ったり、飲みかけのコーラのペットボトルがへこんでいるのに栓を開けるとシュッと一瞬で膨らむのと同じ原理だ。


「何でよ! 何で……クソ雑魚オタクのくせに……零一のくせになまいきよ!」

 肩で息をしている晴子が叫ぶ。籠のボールも無くなった。

 気が済んだか? 賭けはどう見てもおれの勝ちだがどうする? まともに計算したら100万円どころじゃないぞ。

「馬鹿じゃないの! そんなの払うわけないじゃない! 大体どこに証拠があるのよ」

 逆ギレか。ギャンブルは自分自身を賭けた口約束・・・だから重いんだ。それが分からないならギャンブルなんて言うのは止めるんだな。もういい、金はいらん。


 そうして立ち去ろうとするおれだったが、背中に晴子の声が届く。

「どうして……どうしてあたしのものにならないの? あんなに一緒だったじゃない……」

 ん? 意味が分からないんだが?

「だったらあたしを……あたしを零一のものにしてよ!」

 んん? どうしてそうなるんだ?

「もうどうしたらいいのか……分からないのよ……丁字からはあれ(・・)が欲しかったらお金を持ってこい、無かったら体を張ってでも作れって……」

 そこまで追い込まれていたのかよ。本当にカモじゃねーか、馬鹿野郎が!

「だって……あたし、あたし……うわぁぁぁん!」

 ああ、分かったから泣くなよ。どうせそのつもりだったからな。

「えっ? じゃああたしとつ、つき合ってくれるの?」

 そっちじゃない! とりあえず帰って話を聞くか。……ああ、ボールを拾って道具を片付けてからな。

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