28
冬花は自宅にもどりソファーに座る。
(何も手につかない。)
テレビを見る気にも読書をする気にもならない。
冬花は携帯を片手にただただ時間を過ぎるのを待つ。
(おそらく今日呼び出しがある。久しぶりに来た夏空をみすみす見逃したりはしないであろう。)
冬花はあの河川敷に行けるようジャージに着替える。
外はとてつもなく冷えるため分厚い上着も用意しておく。
(携帯のカメラと予備でデジカメも持っていこう。)
何かあったときに証拠が欲しい。
冬花は頭の中でやるべきことをイメージしながら時間が過ぎるのを待った。
〜〜〜♪
しばらく時間が経った後に携帯が鳴った。
冬花は素早く開き確認する。
「言い返すことができた!大丈夫!」
夏空からのメールを声に出しながら読む。
「よしっ!さすが夏空!よくやった!」
落ち着かない心が一気に晴れる。
(私もそろそろ行って準備しよう。)
メールを読み終えると、すぐに外に出る。
(懐かしいなぁ。)
半年前の自分はまさか里親になるだなんて想像もしていなかっただろう。
あの日
たまたま仕事を定時であがった
たまたまコーヒーを買いに行った
たまたま遠回りをしたくなった
たまたま彼女を見かけた
いくつもの偶然が重なり
運命が訪れるのだと冬花は実感した。
(最高の運命だ。神様に感謝しなくちゃ。)
冬花の人生はより色濃くなった。
一人では感じることのできない喜びや安らぎを夏空が与えてくれた。
(今日は帰ったら気分良くパーティーできるように、今から気合入れなきゃね。)
物思いにふけりながら目的の場所に向かう。
河川敷に着くと、冬花はすぐさま高架下の柱の影に身を隠す。
携帯とデジカメの動画を早めに起動させ
息を潜める。
しばらくすると、複数の足音が聞こえてきた。
耳をすますと、夏空ではない声が聞こえてくる。
「リュックありがっちょん!ナイス夢希!」
「これくらい全然いいよ!」
(夏空が言っていた愛姫とその仲間だ。)
冬花は会話からグループ内の上下関係を知る。
そして、様子が撮れるように携帯をセットする。
「夢希さー。そのリュック川に投げ込んでくれる?」
愛姫は表情ひとつ変えずに夢希に命令する。
「あ、じゃあ充紅動画とっとこ!後でステテコに見せ
つけよ!」
「ナイス充紅!あいつにこのリュックはマジでもった
いなよな。クソムカつくわ。」
(お前がクソムカつくわ!このクソガキ!)
冬花は心でツッコミを入れながら様子を伺う。
(今止めても、問題は解決しないもんな。リュックはま
た今度買ってあげよ。)
リュックのことを気にしながらも引き続き聞き耳を立てる。
「そ、それは流石にやばくない?川でリュック流れち
ゃうし。動画もやばいって。」
上擦った声で夢希はいう。
「えー。じゃあ何したいの夢希は?」
「つまんねーの。じゃあ代わりに何かしろよー。」
愛姫が少し不機嫌になる。
「えっと。すてこが来てから考える?」
会話が止まる。場は嫌な静けさに包まれる。
「夢希が何をしたいか聞いてるんだけど。断るなら他
の案出すの当たり前だろ?ないなら大人しく言うこ
ときけや。」
愛姫の機嫌が急降下していることが声を聞くだけでもわかる。
(なんか、変な方向に話が進んでるな。)
冬花はひたすら話を聞く。
「ご、ごめん。でも、ちょっとやりすぎかなーって思
ったりしたかも。あいつちょっと変わったし。もう
ちょっと違うこととかの方がいいかなって。」
「は?誰に向かって指図してんの?」
夢希の言葉がトドメとなった。
愛姫の不機嫌さは最骨頂に達していた。
「まじで今日は腹立つ日だわ。あいつもお前も。」
「あーあ。夢希やっちゃったね。ざーんねん。」
愛姫は地面にどかっと座る。
充紅は少しニヤニヤしながら夢希をみる。
「ねえ愛姫。夢希と夏空で戦わせない?漫画とかにあ
りそーじゃん。」
「どうやって?」
充紅は冷たい目を夢希に向けながら言う。
「すてこと夢希交換でもいいかも。すてこが夢希を川
に落としたら、明日から交換しようよ。」
充紅が携帯をいじる。
「すてこが川に落とすのを一応撮っとく。そしたらい
い口止めにもなりそうだし。」
「採用。さすが充紅。」
(は?夏空があの子を川から突き落とす?)
冬花は笑った。
(そんなことするわけないじゃん。クソガキ。うちの夏
空なめないでほしいわ。)
しばらくすると夏空が走ってやってきた。
冬花は夏空を見守る。
夏空は充紅達の話を聞くとしばらく固まっていた。
(夏空。大丈夫。落ち着いて。)
冬花は心の中でエールを送る。
夏空が夢希に向かって歩く。
背筋を伸ばし堂々と歩くその姿には
昔の夏空の面影が微塵も感じられない。
(本当に成長したな。)
冬花はかっこいい夏空の姿を見て
心から嬉しくなった。
夏空は夢希に近づきリュックを返してもらう。
そして愛姫たちをしっかり見て言う。
「私はそんなことやらない。」
夏空がはっきりと愛姫達に伝えている姿をみた冬花は
思わずガッツポーズをする。
(超堂々としてる!さすが夏空!よくやった!)
にまにましながら引き続き動画をとっていると、愛姫が動いた。
夏空は肩を押されよろけた。
夢希という少女は川に突き落とされた。
ぷちん
冬花の堪忍袋の緒が切れる。
「ちょっと、何「もう我慢ならん!」
冬花の声は高架橋の下で反響し
その場を一瞬で静かにしたのであった。
よろしければ評価、感想、ブックマーク等をよろしくお願いします。
励みになります。




