12
施設につくと冬花は大きく深呼吸をする。
(本当はもっと計画を練ってからの方がいいけど、少しでも早く進めたい。)
「施設長さん呼んできてもらってもいい?」
「わかった!」
夏空は施設の中へ入っていく。
もう一度冬花は深呼吸をし頭の中を整理する。
(よし。大丈夫。やれる。)
足音が聞こえたので入口を見ると、少し小太りで小さな男の人が見えた。
冬花は深く長くお辞儀をする。
「施設長の佐々木です。」
怪しむように冬花をみている視線を感じる。
「いきなり訪ねてしまい申し訳ありません。月野冬花ともうします。どうしてもお話をさせて頂きたいと思い、夏空に頼んで連れてきてもらいました。」
「そうですか。それで、お話というのは。もしかして夏空が何かしてしまったでしょうか?」
疲れているのか、施設長の声は覇気がなく淡々としていた。
「少し長くなってしまうので、できればどこかで落ち着いて話ができたら。大人だけで。」
冬花はもう一度頭を下げる。
「分かりました。他の職員が子どもたちを見ているので大丈夫ですよ。しかし、できれば手短に願います。」
冬花の真剣な様子を見て無碍にはできないと感じたのであろう。施設の中に案内してくれた。
「で、話というのは。」
「率直に伝えます。夏空さんがいじめに遭っているのは、おそらく気づいていますよね?」
「・・・。」
「責めているわけではありません。たくさんの子ども達をみていて、毎日が大変であろうことは想像できます。しかも、夏空は何も言わないと思うので。」
「話とはそのことですか?」
「いえ、ちがいます。ここからが本題です。私と夏空は偶然に出会いました。いじめられている夏空を助けたのがきっかけです。」
冬花は背筋を伸ばす。
「それで、夏空と関わるうちに、夏空を引き取りたいと強く思いました。」
施設長は驚いて冬花をまじまじと見る。
「それから調べてみると、養子縁組よりも里親制度の方が早く一緒に住めると思いました。なので、急いで里親制度の講習や実習を受けて登録しようと思っています。」
冬花はゆっくり落ち着いて話を続ける。
「その前に、夏空の親権のことを確認したいです。夏空は親がいないと言っていましたが、親権をもつ親御さんはいるのでしょうか?」
施設長は少し迷いながら話し始める。
「夏空のことは基本的にお伝えできません。しかし、私は夏空に伝えてあります。夏空の親権は私が持っていると。」
施設長はお茶を飲み、少し息をつく。
「おそらく、夏空に親のことを聞いて傷つけたくないと思って私に話をしたのでしょう。きっと調べていると思いますが、夏空を里親制度に登録することはできますよ。」
冬花は心の中でガッツポーズをした。
(里親制度を利用するには、夏空の親が里親の希望を出さなければ始まらない。1番危惧していたところがクリアできた!)
「お話を聞いてくださりありがとうございます。私も自分で驚いているのですが・・・。」
冬花は少し言葉を考えて話す。
「これが、母性というものなのでしょうか。夏空にもっともっと笑ってほしいと強く思いまして。居ても立っても居られなくなりました。動かなきゃって。」
「おそらく夏空もこの話をご存知なのですよね。なら夏空を里親希望を出します。マッチングするかどうかは責任が持てませんが。」
「分かりました。ありがとうございます。あと、それまでの間、私もこの施設にボランティアという形でお邪魔してもよろしいでしょうか。」
「では、月野さんのことについて少し聞かせてください。来客シートに記入していただきたいです。」
冬花は里親になるために、競歩のごとく素早く一歩ずつ前進するのであった。




