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9-side夏空-

翌日、夏空はいつもより少し軽い足取りで学校に向かう。


昨日から何度も何度も冬花とのやりとりを思い出す。



(どうにかして今日は公園に行きたい。愛姫達が私に飽きた後、少し身なりを整えて行こう。何時になってもとりあえず行ってみよう。)




教室に着き席に座る。

いつものように下を向いて座るが、今日はやはり気分が軽い。


(今日はいつもより大丈夫だ。耐えれそう。)


幸いにも愛姫達は朝ギリギリにきたため、何もされず、あっという間に下校の時刻になった。


「おい。すてこ。はやくしろよ。」

「すててこっちー。いくよー。」


いつもの場所に向かう。心が重くなるのと同時にどうにかして早く終わらないかを考えていた。


歩いていると、道路の反対側から叫ぶ声が聞こえる。


「おーい!愛姫!充紅!」


他中の男子生徒が愛姫達を呼ぶ。


「あ!りょーちんじゃーん!ヤッホー!!」


充紅も叫び返す。


するとその男たちがこちら側にきて、愛姫達を遊びに誘い始めた。


夏空にとって嬉しい奇跡が起こった。


「あー。じゃあ今からカラオケでもいこっか。ステテコ!今日は早く帰らなきゃなんだよね?」


愛姫が早く帰れと目で圧をかけてくる。


「ステテコ?変な名前。どういうあだ名なのそれ笑」


「なんかねー、お父さんのステテコ履いてるらしいじゃんねー。笑えるでしょー。」


男子生徒と充紅が夏空を馬鹿にしたように話している。


でも夏空は、早く帰れることが嬉しくてしょうがないため、そんなことは微塵も気にならなかった。



声は出せなかったが、ペコリと頭を下げて走って公園に向かう。


愛姫達が夏空をみて笑っている声も聞こえたが、そんなことはどうでもよかった。



(はやく。はやく。はやく。)


久々に全力疾走をする。



公園に着くと冬花の姿が見えた。


(いた!冬花さんだ!!)


はやく会いたくて、息を切らしながら冬花に向かって最後まで走る。


冬花も気づいた様子で、夏空に向かって大きく手を振っている。


夏空はそれだけでたまらなく嬉しくなった。




冬花は夏空にお菓子を食べて話そうといい、マドレーヌと紅茶を差し出す。


(ど、どうしよう。お金持ってない。)


「あ、あの、お金とか持ってなくて・・・。」


しかし冬花はお金どころか紅茶じゃないジュースも買うといいだしたため、素直に受け取ることにした。


(こんなお菓子食べるの久しぶり。ペットボトルの紅茶は生まれて初めて。)


マドレーヌを一口食べると、柔らかい甘さが口一杯に広がった。


「おいしい。」


夢中になってマドレーヌを食べる。


この美味しさをちゃんと味わえるようにたくさん噛む。


その夏空の姿を冬花は微笑みながら見つめていることを夏空は気づかなかった。


そして夏空は学校のこと、施設のことをポツポツと冬花に話す。


(何でだろ。冬花さんにはたくさん話しちゃう。)


普段人と話さない夏空にとって、自分のことを誰かに話すこと自体が不思議な感覚だった。


しかし、話しているとだんだん自分の惨めさを痛感する。


(恥ずかしい。)


下を向き涙をこらえる。


靴で砂をいじり、濡れた地面を隠す。


そして思わず冬花に聞く。






「冬花さんは、どうしてそんなことを聞くの?」






興味本位かもしれない。


あまりに哀れで、少し話を聞きたくなっただけかもしれない。


それでも嬉しかった。


昨日から今日までが人生で一番ワクワクした瞬間かもしれない。


(冬花さん困ってる。困らせちゃったかな。)


夏空が冬花の顔を見るか悩んでいると、信じられない言葉が聞こえる。






「夏空を養子縁組で引き取りたい。」







夏空は思わず冬花を見る。


冬花は綺麗な顔で優しく微笑んでいた。


言葉にできないさまざまな感情が夏空の全身を駆け巡る。


そして、それらの感情の中で1番大きく占めるものを自分で否定する。


(だめ。喜んじゃだめ。)


怖くなった。淡い期待を抱かせないでほしい。


(喜んだら立ち直れない。)


「まだ出会って2日ですよ?」


「・・・。」


冬花が初めて黙る。


夏空はいつもからは考えられないくらい怯えながら強気で話す。


「引き取った後に私のことどうするんですか?何か企んでるんですか?」



(こんなこと言いたくない。でも止まらない。)



「冗談でもそういうこと言うの、やめてください。」



冬花に向かってひどい言葉をぶつけていく。




「冗談なんか言ったつもりはない。」




冬花の声が凛とした声が夏空の全身を包みこむ。


そして、ゆっくりゆっくり、夢でもみているかのような、都合のいい言葉が流れてくる。


「たしかに、急だと思うし怪しく感じる気持ちはすごくわかる。あと、詳しく調べていないから知識不足な部分はたくさんあると思う。」



「でも、でもね。私は夏空の笑顔がもっと見たいと思ったの。そして、そうするためには一緒に住むのがいいと思うの。だから家族になるのが1番いい選択なのかなと。」



「ごめんね。急すぎたよね。夏空が嫌に思う気持ち分かる。軽率だったね。ごめん。」



冬花が謝っているのを聞いて、夏空は思わず冬花の手を握る。




(だめだ。もうだめだ。抑えられない。)





「嫌じゃない。」



溢れ出た本心は広がっていく。


「嬉しくて、困るの。引き取りたいって言ってくれたのが嬉しすぎて・・・。」


夏空は泣くのを我慢していたぶん、一度流れた涙を止めることはできなかった。



夏空は冬花の温かさを感じながら、初めて喜びによる涙を流すのであった。

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