第9話 エリーゼVSユリア
俺たち3人は毎日のように討伐クエストをこなし、狩って狩って狩りまくった。そのおかげで、エリーゼの剣とユリアの魔法はかなり上達した。
「ユリア様、Bランク昇級試験の受験資格を得ました。早速受けられますか?」
グランがユリアに提案する。
「私の攻撃魔法がどのくらい上達したのか気になりますね。ステータスを見たいです」
「はっ、それではこちらの水晶に手のひらを乗せてください」
ユリアはグランに促されて水晶に手のひらを乗せた。
【名前】ユリア=ヘルマン=トライア
【年齢】16
【クラス】火魔法B 水魔法B 土魔法B 風魔法B 回復魔法B
「攻撃魔法全てのクラスが上がりましたね。これもカイン様のおかげです」
「ユリア様、あなたの努力の結果ですよ」
「私も確認したいですわ!」
エリーゼも水晶に手のひらを乗せた。
【名前】エリーゼ=フォン=マルディール
【年齢】15
【クラス】剣B
「むぅ、Bクラスのままですわ。あれだけ戦ったのに」
「お嬢ちゃん、Bクラスまでは上がりやすいんだが、BからAへはなかなか上がらないんだよ。Aランク冒険者が数えるほどしかいないのもその理由だ。ともかくユリア様、昇級試験をやりましょう」
「そうですね、ギルドマスターお願いします」
「はっ、ユリア様。それでは奥の訓練場までご足労願います」
今日は訓練場には誰もいなかった。貸し切りの状態で昇級試験が行われる。
「それではユリア様、Bランク昇級試験を始めます。行きますよ!」
グランが訓練用の剣を掲げてユリアに突進する。
「地面よ崩れろ!」
ユリアは土魔法でグランの足元を崩す。グランは足止めを食らって立ち往生する。
「炎よ!」
炎の渦がグランを取り囲む。たまらずグランは後退する。
「参りました。ユリア様。あなたはBランクに昇格です。おめでとうございます」
「あれっ、もう終わりですの?私の時は本気でかかってきましたのに」
「お嬢ちゃん勘弁してくれ、ユリア様に傷を付けたら皇帝陛下に処刑されてしまう。今の戦いの様子だけでも十分Bランクの腕前があった」
「やりましたね。Bランクに上がったことをお父様に報告しようと思います」
「ところでカインとお嬢ちゃんもAランク昇級試験の受験資格を満たしてるぞ。受けてみるか?」
「私は結構ですわ。まだ剣がBクラスのままですし。カインだけ受けてくださいまし」
「わかったよエリーゼ。グランさん、お願いします」
「この間のBランク昇級試験でカインには完敗したからな。今度はもうちょっと粘りたいな」
グランは訓練用の剣を構える。
「それではAランク昇級試験を始める、行くぞ!」
ものすごい速さで突進してくるグラン、俺はユリアの戦い方をまねて土魔法でグランの足元を崩した。完全に身動きがとれなくなるグラン。
「炎よ!」
炎の大渦がグランを取り囲む。グランはなんとか足元を正すと後退して炎から逃れる。
「ええいっ、やるな、カイン!」
俺は瞬間移動でグランの後ろに回り、剣を振り下ろす。
「読んでたぜ!」
グランは振り向いて剣を受け流す。ガキィン!と大きな音がする。
「さすがに同じ手は二度も通用しませんか、じゃあ本気を出しますよ!」
俺は魔法を使うのを止め、剣のみでグランを倒すことにした。連続斬りをお見舞いする。グランはなんとか受け流す。
「くっ、魔法が無くても強いな。反撃できねえ!」
受け身になっているグランの足元がお留守なのを見て俺は足払いをかける。グランはもろにくらってひっくり返る。
「これで終了ですね」
俺はグランの喉元に剣を当てて勝利宣言をする。
「本気を出したんだがな。前よりも粘れたからましだったかな。ともかくカイン、あんたはAランク冒険者に昇格した。おめでとう」
「ありがとうございます」
「やりましたわね、カイン!」
「おめでとうございます、カイン様」
皆に祝福されて照れる俺。これで冒険者のトップに並んだわけだ。
「カインよ、Aグラス冒険者は全て帝国に報告される。みんなもれなく帝国に勧誘される。どうするんだ?」
俺はユリアに頼まれていたことを思い出していた。皇帝が魔王と接触して魔物を従え、王国との戦争を再開しようとしていること。魔王の存在を暴き、皇帝から引き離すこと。
「誘われたなら乗ろうと思います。ユリア様の護衛としてなら続けてもいいかなと」
「カイン、ユリア皇女の望みを叶えるつもりですのね。仕方ないから私も協力して差し上げますわ」
ユリアとの会話の内容は既にエリーゼにも話してある。ユリアがBランクに、護衛の俺がAランクに上がった以上、皇帝の目に留まるだろう。
「それでは城に戻りましょう。お父様にランクが上がったことを報告してきます」
俺たちは帝国城に戻り、いつも通り客間で待たされていた。ユリアは皇帝に報告に行ったところだ。
「カイン」
「なんだ、エリーゼ」
「ユリア皇女の目的は前に聞きましたわ。それを無料で引き受けるなんて人が良すぎるかと思いますわ。冒険者なら報酬をもらって当然だと思いますわ」
「うっ…」
ユリアの望みのことはエリーゼに話してあるが、報酬のことは話してなかった。話してしまったら恐ろしいことになりそうだ。
「なんか隠してませんこと?報酬の約束はしてるんですの?」
「実は…この報酬はユリア自身の全てをくれると言われてしまった」
「なんですのそれは!」
エリーゼが怒りをあらわにする。
「自分の望みを叶えさせた挙句、カインまでものにしようとは!許せませんわ!カインは私だけでは不満ですの?来る女は拒まずなんですの?」
「そういうわけでは…」
「私には全く手を出さないのに、他の女には手を出すんですの!私はそんなに魅力が無いんですの?」
「そうじゃないよ。エリーゼは綺麗だよ。大事にしたいんだ」
今にも泣きそうなエリーゼをなだめる。そうこうやり取りしているとユリアが戻ってきた。
「お待たせしました。明朝お父様がお会いになってくださるそうです」
ついにきたか、皇帝との面会が。魔王と接触している事実を突き止めなければ。
「ユリア皇女、皇帝と魔王の関係のことは聞きましたわ。なんでもこの件の報酬はあなた自身だとか」
「はい、そうです」
「皇女であるあなたが平民であるカインに身を捧げる、そんなこと皇帝が許すわけないですわ!」
「そうですね、お父様が許してくださるわけありません。ですが、どんな方法をとってでも報酬はカイン様にお渡しします」
ユリアが顔を赤くして答える。
「お父様は魔王と手を組むという後戻りできない方法をとろうとしています。私自身など報酬としても軽いくらいです」
「ぐぬぬ…」
エリーゼは怒りを抑えられず黙り込んでしまった。
「カイン様、魔王が大人しくお父様の言いなりになるとは思えません。きっと裏があるに違いありません。どうかお父様と魔王を遠ざけてください。それが私の願いです」
ユリアが俺の手を握る。小さくてかわいい手が震えている。その気持ちをまっすぐに受け止めてあげたいと思った。
「どさくさに紛れて何やってるんですの!カインは渡しませんわ!」
エリーゼが俺とユリアの手を無理矢理離して俺に抱きつく。
ユリアは真剣な眼差しでエリーゼを見つめる。それをにらみ返すエリーゼ。エリーゼVSユリア、どっちが勝つのか?どちらも勝てないのか。当事者である俺自身わからない。
「とにかく、二人とも仲良くしてくれ。俺たちは一蓮托生の身だ。やるだけやってみよう」
俺は二人を鎮めてこの場を解散させた。明日は皇帝との面会だ。しくじってはならないと緊張し、俺は眠れぬ夜を過ごした。