第32話 邪神バズズ
「カイン大変だ、邪神バズズが復活した」
朝になるとエキドナが慌てた様子で俺に伝えてきた。
「邪神バズズ?なんのことだ、エキドナ」
「エキドナも夢を見たのか、我もだ」
アスモデウスも俺のもとにきた。
「父上も夢を見たのですね。魔王だった妾たちのみがこの夢を見たのでしょう」
「カイン、我が説明しよう。夢で邪神バズズからのお告げがあった。停滞した世界を進化させるために復活したとな」
「停滞した世界?」
「カイン、妾が以前言っただろう。混沌の世界を作ることで世界を進化させることに繋がるとな。魔王だった妾と父上は魔王の義務を放棄してしまい、カインは魔物と共存する平和な世界を作ろうとしておる。それに危機感を持った邪神が復活して自ら混沌の世界を作ろうとしているのだ。邪神にとっては平和な世界とは停滞した世界を意味するのだ」
「つまり俺が2人とも魔王を止めさせた結果が邪神復活に繋がったと?」
「そういうことだな。このまま邪神を放置すると、我やエキドナが作ろうとしていた混沌の世界よりも、さらにひどい世界が作られてしまうぞ。人間のほとんどが殺されてしまうだろう」
「妾や父上は魔物を召喚するのにかなり時間を必要とする。だが邪神は凶悪な魔物を一瞬で大量に召喚できる。早く倒さねば手遅れになる」
「邪神はどこにいるのですか?」
「今は空になっている魔王城で復活したようだ」
「事は急ぐのですね。時間がない、俺1人で魔王城に乗り込んでくる!」
「あ、待てカイン。1人では無謀だ!」
エキドナの制止を振り切って、俺は魔王城へ転移の魔法で飛んだ。
「おまえが、邪神バズズか?」
魔王城の玉座に誰かが座っていた。近づいてみると、黒髪黒目の人間の幼女にしか見えない。
「左様、余が邪神バズズじゃ。魔王に代わってこの停滞した世界を混沌の世界に作り替えるために復活した」
「なんだ、子供じゃないか。邪神っていうからもっと凶悪な姿を想像していたのに」
「無礼者!余は復活したばかりなのじゃ。子供の姿であるのは仕方なかろう」
俺は戦う気満々だったが、幼女バズズの姿を見てすっかり戦意喪失してしまった。
「数万年ぶりに復活したせいか、子供の姿で復活してしまった。本来の姿に戻るのに、ちと時間が必要じゃな」
「それで、本来の姿に戻ったら混沌の世界を作るってことか?」
「左様、魔王のやり方は生ぬるい。人間どもを全滅させるくらい派手にやらんとな」
バズズは可愛らしい笑顔を見せている。とても邪神とは思えない。
「そんなことはさせない。俺は人間と魔物が共存できる平和な世界を作るんだ。邪魔をするなら…」
俺は剣を構えた。
「なっ、余を殺す気か!くっ、本来の姿でないと力を出せない。こんなに早く人間が余の前に現れるとは予想外であった」
バズズは慌てている。
「なんてな、とてもおまえを殺す気になんてなれないよ。いくら邪神とはいえただの子供を殺すだなんて俺には出来ない」
俺は剣を鞘に戻した。
「余を馬鹿にするでない!いずれ本来の姿に戻る。そうすれば人間は終わりじゃ。混沌の世界がつくられるのじゃ!」
「とりあえず放っておけないな。連れ帰って妻たちと相談するか…」
俺はバズズの腕を掴んだ。
「ひっ、やめるのじゃ!くっ、余に本来の力があればこんな人間に…」
「いいから行くぞ、ほら」
俺は人魔王国の玉座の間へ転移の魔法で飛んだ。
「戻ったか、カイン。その子供は?」
エキドナが不思議そうな顔でバズズを見ている。
「子供とは無礼な!余は邪神バズズじゃ!」
「この子供が邪神バズズ?我が夢で見た邪神はもっと大人の姿であったが…」
アスモデウスも不思議そうな顔をしている。
「どうしたの?騒がしいわね」
ラミアとエンプーサが玉座の間に入ってきた。
「お、おまえたち!魔物でありながら人間と仲良くしているなどとは!恥を知れ!」
バズズは激怒しているようだが、子供が怒っている姿は全く怖くない。
「まあかわいい子。カインの子じゃないの?」
ラミアはバズズの頭を撫でた。
「ラミアは本当子供が好きなんだな。まあ確かに可愛らしい子供ではあるけど」
エンプーサがラミアに向かって笑いかける。
「無礼者!余の頭を撫でるとは!余は邪神バズズであるぞ!」
「邪神?邪神ごっこしたいのかこの子は。他の子供たちを遊ばせてやったら?」
エンプーサはバズズの言うことを信じていないようだ。無理もない。
「はいはい、バズズちゃんは恐ろしい邪神なのね、お姉さんこわーい」
ラミアは笑顔でバズズの頭を撫で続けている。
「くっ、どいつもこいつも余を馬鹿にしおって…。本来の姿に戻ったらおまえたちを殺してやるからな!」
「本来の姿?我が夢で見た邪神は大人の姿であったが、よく見れば面影があるな。本当に邪神か?」
アスモデウスは困った表情を見せている。
「父上、魔王城にいたということは邪神バズズであるのは間違いないでしょう。まさかカインが連れ帰ってくるとは思いませんでしたが」
エキドナも困った表情を見せている。
「ちなみに、本来の姿に戻るのにあとどれくらい時間がかかるんだ?」
俺は興味本位で聞いてみた。
「うむ。あと10年ほどくらいはかかるであろうな」
バズズは薄い胸を張って偉そうに答えた。
「10年?そんなにかかるのか。1人で魔王城に10年もいるのは寂しいだろ。この城で過ごすといい」
俺はバズズを城で世話してやることにした。
「本気か?余を懐柔しようとしても無駄じゃぞ。余が本来の姿に戻ったら真っ先に殺してやるぞ?」
「あの、ご主人様。朝食の用意ができておるのですが、よろしいでしょうか?」
家事奴隷のマルシェが遠慮がちに申してきた。
「そういや朝食がまだだったな。マルシェ、お客が1人いるからその分も用意してくれ」
「わかりました、ご主人様」
マルシェは玉座の間から立ち去った。
「みんな、食堂に行こう。バズズ、おまえも来い」
「なっ、手を引っ張るでない!」
俺はバズズを食堂に強引に連れて行った。そして家族全員で食事をとった。
「味はどうでしたでしょうか、お客様」
マルシェがバズズに問う。
「うむ、なかなか美味であったぞ。おまえは殺すのは後にしておいてやろう」
「はあ。ありがとうございます?」
マルシェはよくわかってないようだ。
「カイン、この後はどうするのだ?」
エキドナはバズズを見ながら俺に問いかける。
「バズズ、この城と城下町を案内してやろう。エキドナもついてきてくれるか?」
「ああ、妾は構わんぞ」
「うむ。暇だから付き合ってやらんこともないぞ」
俺とエキドナはバズズを連れて城内や城下町を案内した。途中で城下町の店であれが食べたいとか言い出すバズズに、言う通りに買ってやったら満足そうに食べていた」
「バズズ、美味かったか?」
「うむ、余は満足じゃ」
「人間を皆殺しにしたらもう食べられなくなるぞ」
「そ、それは困るのじゃ!どうしたら良いのじゃ!」
「混沌の世界を作るのはやめて、うちで平和に暮らせばいくらでも上手いものを食べさせてやるぞ」
「うーむ困ったのじゃ。余はどうしたら良いのじゃ?」
「本来の姿に戻るのに10年あるんだから、急がずにゆっくり考えたらどうだ?」
「そうじゃな。あと10年は殺さずに待ってやろう。余は慈悲深いのじゃ」
こんな感じで俺たちはバズズを懐柔していった。その結果は10年後に明らかになる。




