第31話 幼馴染の魔物
ラミアとともに人魔王国へ戻った俺は、経緯を妻たちに話した。妻たちからはラミアを城に住ませても良いと許可をもらった。まずは中庭に墓を作り、ノイッシュの骨と剣を埋めた。そして土魔法で立派な墓標を立てた。俺たちは墓の前で黙とうをささげた。
「ノイッシュ、立派に育った息子のもとへ戻れて良かったね」
ラミアが墓標を撫でながら話しかける。俺はその様子を黙って見ていた。
「カイン、立派で広いお城ね。ここに住まわせてもらって本当にいいのかな?」
「ああ、最近拡張したばかりだから部屋もだいぶ余っている。ラミアの部屋を用意するよ」
ラミアはその後、中庭の墓の近くで日向ぼっこしたり、中庭が見える部屋の窓から顔を出して眺めると言う生活を繰り返していた。それからというものの、街中には噂が流れ始めた。城の窓から美しい深窓の令嬢が顔を出していると。それを見に来る住民や魔物兵が絶えなかった。今ではファンクラブまで出来ているらしい。
「あはは、人気者ね私。あの地にいた頃を思い出すと今の状況が信じられない」
部屋の窓から顔を出して笑うラミアは、集まっているファンクラブのメンバーに手を振っている。メンバーは大喜びだ。
「この城には慣れたか、ラミア」
「ええ、おかげさまで。カインの子供たち可愛いわね。私も欲しくなっちゃったわ」
妖艶な笑みを浮かべるラミア。それを見てうろたえる俺。
「カインったら可愛いわね。私本気になっちゃいそう」
「えっと、それは…」
「うふふ、カインを取っちゃったら他の奥さんたちに悪いから我慢するわ。私はこうしてノイッシュの墓を見守っているだけで十分満たされているから」
そういうとラミアは俺の目をじっと見つめてきた。
「どう、変わった?魔物に対する価値観は?」
「ああ、ラミアを見て魔物への偏見が無くなったよ。魔物だからといってひとくくりにして敵対するのは間違っていたんだな。話せば分かり合える魔物もいるんだなって」
「私は特殊ね、ノイッシュに出会わなかったら今頃人間を襲っていただろうから。全部とは言わなくても、魔物のほとんどは人間の敵と考えていいのは変わらないと思うわ」
「ラミアみたいに人間と敵対することを止めてくれる魔物が他にも存在するかもしれない。ラミア、俺は北の森で定期的に魔物討伐をしている。一緒についてきてくれないか?中には話が通じる相手がいるかもしれない」
「構わないけど、私は本当に特殊中の特殊だから、あまり期待しない方がいいかもしれないわよ」
妻たちにこのことを話すと、ティナもついてくるとのことだったので3人で北の森へ行くことにした。北の森へ入ると早速魔物が現れる。だがラミアの懸念通り、話し合いに応じる魔物はいなかった。
「ふぅ、疲れた。話し合いに応じる魔物なんてそうそういないと思う」
魔物を大量に討伐したためか、ティナは疲労の表情を浮かべている。
「まだ時間はある。もう少し奥に行ったら今日は終わりにしよう」
俺たちは森の奥へ進む。すると今までとは異なる魔物の気配を感じた。
「かなり凶悪な魔物の気配を感じるな。2人とも注意してくれ」
「だーれが凶悪だって?失礼な人間だな」
そこには1人の人間がいた。いや人間ではない。よく見ると片足は青銅、もう一方の片足はロバの足をした女の魔物であった。ラミア同様、上半身は美しい人間だ。
「あんた、エンプーサじゃないの。久しぶりね」
ラミアは驚いた様子でその魔物に話しかけた。
「えっ、ラミア?どうして人間と一緒にいるんだ?」
「実はね…」
ラミアはエンプーサと言う魔物に経緯を伝えた。
「ふーん、そいつがラミア同様人間と敵対しない魔物を探していると。私はエンプーサだ。人間は襲っているぞ。今までも何人も人間を殺してきた」
その言葉に対し、ティナは戦闘態勢にうつる。
「ティナ、よせ。エンプーサ、俺はカインという。ラミアが説明した通りだ。君は人間を襲うと言うが、こうして話し合いには応じてくれるんだな」
「ラミアとは幼馴染だからね。話だけは聞こうと思っただけさ。それでカイン、あんたは私にどうして欲しいんだ?」
「今後人間を襲わないと約束してほしいんだ。俺は人間側のむやみな魔物狩りをやめさせようとも考えている。つまり人間と魔物が共存できる世界を作ろうとしているんだ」
「おめでたい奴だね。この森では弱肉強食、弱い奴が強い奴に食われるのは自然の摂理さ。私は私よりも弱い奴らを殺して食ってきたまでだ。それを止めろと言われても無理だね」
「どうしてもか?」
「どうしてもさ。そんなに私を従えたいなら、私と戦って勝ってみな。勝てたら従ってやるよ」
「いいだろう、ティナ、ラミア、下がっていてくれ」
ラミアと幼馴染の魔物ならきっと俺に従ってくれるはずだ。俺は剣を抜いて構えた。
「覚悟しな!」
エンプーサが地面を蹴り、あっという間に俺との距離を詰める。そして青銅の足で蹴りを食らわしてきた。
「くっ、やるな!」
俺は剣で受け止めると、すぐさま剣を一閃し反撃にうつる。エンプーサは軽い身のこなしでバックステップでそれをかわす。
「はあっ!」
エンプーサの連続蹴りが炸裂する。その速さに俺は防戦一方となる。
「くっ、速い!」
「ほらほら、どうした。反撃してこないのか」
青銅の足での蹴りは固く早い。まともに食らったら骨折程度ではすまないだろう。
「とどめだ!」
エンプーサは青銅の足を大きく上げ、俺の頭に向かって踵落としをお見舞いしてきた。俺の頭蓋を破壊するつもりだろう。
「今だ!」
俺は瞬間移動の魔法でエンプーサの背後に回り、足払いを仕掛けた。エンプーサはまともに食らってその場に転がる。そして俺は剣をエンプーサの喉元に突き付けた。
「俺の勝ちだな、エンプーサ」
「ちっ、瞬間移動の魔法を使えるとはね。私の速さよりも速く動かれたんじゃどうしようもない、私の負けだよ。好きにしてくれ」
「それなら約束してくれ。人間とは敵対しないと。それが俺の望みだ」
「はあ、わかったよ。そうすりゃいいんだろ。でも、私はこの森に住む以上人間の方から襲いかかってくることもある。黙って殺されるわけにはいかないだろう?」
「それならエンプーサも俺の国に来い。ラミアと共に俺の城に住んでくれ」
「はあ?正気かい。私は魔物だよ。人間と一緒に暮らすなんて不可能だよ」
「エンプーサ、大丈夫よ。私はカインの城で暮らし始めたばかりだけど、上手くやってるから。私のファンクラブまでできるくらい人気になっちゃって面白いことになってるわ」
「はあ?魔物のファンクラブだって?あっはっは。面白い。カインの国では人間と魔物が共存できてるんだね。わかったよ、ついていけばいいんだろう」
こうして俺たちは人魔王国へ戻ってきた。エンプーサにはラミアの隣の部屋を用意した。その後、城の窓から2人の美女が談笑する姿が街中の噂になった。ラミア同様エンプーサのファンクラブも作られたのはまた別の話。




