第29話 嬉し泣き
「この未開の土地の開発は取り消すことにした」
俺とエリーゼ、ユリア、エキドナは南の未開の土地の集落でガイルとティナたちの前で話し合っていた。
「もともとは人魔王国の領土拡大を目的としていたんだ、しかしこうして人々の生活が営まれているのに、俺たちの価値観や文明を押し付けるわけにはいかないだろう」
「ヒュドラを倒してもらったお礼ができていないのに、それでいいのか?」
ガイルが俺に問いかける。
「ヒュドラは素材として高く売れるし礼には及びません。ここの人々は自給自足で生活できてるんですよね?」
「ああ、そうだ。主に魔物を狩っている。他国の介入がなくても生きていける。それに天敵だったヒュドラがいなくなったんだ。さらに生活の質は向上するだろう」
「それでは領土拡大ではなく、人魔王国の城を拡張するのですわね」
「そうだな、エリーゼ。俺とエキドナが協力すれば城の増築は可能だ。領土拡大を取り消した分、移民の受け入れは制限しなければならないがな」
「本当に良いのか、恩人であるカインがこの地を開発したいというなら我々は移転するのに」
「ガイルさんやティナたちを見て考えが変わったんです。人間に危害を加える魔物は倒しますが、人々を追い出すような真似はしたくありません」
俺は後ろを振り返った。
「エリーゼ、ユリア、エキドナ帰ろうか」
「そうですわね」
「わかりました」
「構わんぞ」
「それじゃあガイルさん、ティナ、お元気で」
俺は転移の魔法で帰ろうとした。
「待ってカイン、私も連れて行って!」
「ティナ?」
俺はティナの方を見た。
「私は槍の腕には自信がある。戦力として貢献できる。私も連れて行って。それがせめてものお礼。いいでしょ父さん」
「ティナ…。カイン、娘はこう言っているが連れて行ってもらえるだろうか」
「みんなはどう思う?」
俺は妻たちに聞いていた。
「カインの好きにしたらいいですわ」
「私も構いません」
「来たいなら歓迎すれば良かろう」
「わかった。ティナ、歓迎するよ。俺たちと一緒に人魔王国へ来てくれ」
俺はティナに向かって手を差し伸べた。
「ありがとう、カイン!」
ティナは俺の手を嬉しそうに握りしめた。
「それじゃあ父さん、行ってくるね」
「ああ、気を付けてな。時々顔を見せに来るんだぞ」
俺は転移の魔法を使い、エリーゼをマルディール王国に、ユリアをトライア帝国に送り届けた後、人魔王国へと帰ってきた。
「ここがカインの人魔王国…真新しい城ね」
「土魔法で作って数年しか経ってないからな。これから城を拡張するからもっと広くなるぞ。エキドナ、早速どこから拡張するか考えよう」
「ああ、そうだの」
「ねえ、カイン。私は何の仕事をすればいいの?槍の腕なら誰にも負けないつもりよ」
「以前ここでは士官学校を作って兵士を育てていたんだ。産休中の妻たちが先生役をやっていたんがが、産休が明けたら学校を再開するつもりだ。ティナは槍の先生をやってもらおうかな」
「わかったわ、まかせて」
「カインよ、ティナは冒険者として活躍してもらったらどうかの?リッシュたちが産休明けになるまで時間がかかるだろう。それまでの間の金銭稼ぎが必要だろう」
「そうだな、帝国の冒険者ギルドに預けたヒュドラの素材を換金するついでに、冒険者登録も済ませてしまおう。早速行こうかティナ」
「わかった」
俺はティナと一緒に帝国の冒険者ギルドへ転移の魔法で飛んだ。
「来たか、カイン。ヒュドラの素材の換金に来たんだな」
ギルドマスターのグランが出迎えてくれた。
「ヒュドラの素材なんて初めてだからな。どう値段を付けたらよいか迷ったが、もうすでに買い取りたい商人が殺到しててな。良い値段をつけさせてもらったぜ。金貨1000枚だ」
「そんなに!」
「カイン、その金額ってどれくらいすごいの?私たちの集落ではお金は使わないからよくわからなくて」
「貴族の家が買えるって言ってもわかんないか。もし人魔王国の城に値段を付けるとしたらそれくらいかな。もしくは俺たち家族が一生遊んで暮らせるだけの金額だ」
「そうなんだ。すごいんだね」
「そうそう、グランさん。彼女を冒険者登録したいんだ」
「そうかい、それじゃあこの水晶に手のひらを置いてくれ」
ティナは言われた通り、水晶に手のひらを置いた。
【名前】ティナ
【年齢】16
【クラス】槍A 弓B
「ほう、槍がAクラスとは相当腕が立つな。弓も使えるとは多彩だな。ギルドマスターの権限で嬢ちゃんはCランク冒険者からのスタートだ」
「Cランク?ランクってのが上の方が良いのかな?」
「そうだティナ、俺と一緒に討伐クエストをやろう。俺についてきて一緒に魔物を倒す、単純だろ?」
「魔物を倒しまくればいいのね、わかった」
こうして俺は時間があれば、ティナと2人で討伐クエストをこなしまくった。そうしてBランク昇級試験をあっさりとクリアした。
「これでもっと強い魔物の討伐クエストをできるようになるぞ。ティナ、さらに強い魔物と戦うことになるから頑張ろう」
「ヒュドラほど強くても、カインと一緒なら負ける気がしない」
こうして俺はほぼ毎日ティナと魔物討伐をした。それだけティナと一緒にいると、他の妻と同様大事な存在になりつつあった。
「ねえ、カイン。初めて会った時の事覚えてる?」
「覚えてるよ。あの時は問答無用でティナに戦いを挑まれたな」
「あの時はごめんなさい。集落に敵対する者かと思ったから…」
「ティナは強かったよ。俺も本気を出して相手したし」
「ねえ、もう一度私と戦ってくれない?本気を出して私と決闘してほしい。私のいた集落には掟があるの。結婚を申し込む時に決闘を申し込んで、相手を負かしたら結婚できるって」
「え、それって…」
「私が勝ったらカイン、私を妻にして」
「わかった」
俺は剣を抜いた。ティナも槍を掲げる。
「かかってこい、ティナ!」
「はあっ!」
ものすごい速さで俺に向かって突進してくるティナ。俺はそれを剣ではじく。
「せいっ!」
俺は剣を一閃する。ティナはバックステップでそれをかわす。
「はあっ!」
ティナの槍の連撃。俺は全て剣で受け止める。そして俺は瞬間移動の魔法でティナの背後に回る。それに気付いたティナはしゃがんで俺に向かって足払いをする。
「おっと!」
俺はジャンプしてそれをかわす。
「瞬間移動の魔法は前に見た。2度は通じない!」
ティナはそういうと上段・下段と連撃を繰り返す。全てを受け止めきれず、俺は傷を負った。
「やるな、ティナ!」
俺は後方にジャンプして距離を取り、土魔法でティナの足元を崩した。ティナはバランスを崩す。
「今だ!」
俺の会心の一撃!ティナは槍ではじこうとするが、逆に槍をはじかれる。槍は後方へ大きく飛び、地面へ突き刺さった。
「俺の勝ちだな」
剣をティナの喉元に当てて勝利宣言をする。
「本気で戦ったのにまた負けた。悔しい」
ティナは涙を流しながら悔しがっている。
「私の負け。妻になることは諦める…」
その場にしゃがみ込んで号泣するティナ。しばらく泣いているティナを俺は黙って見続けていた。そしてティナは泣きやんだ。
「ごめんなさい、カイン。恥ずかしい所を見せた」
「いいんだ。ところで俺が勝ったんだ。俺に権利があるんだろ?」
「えっ」
ティナは目に涙を溜めたまま俺を見上げる。
「俺が勝ったんだから権利があるんだろう。相手と結婚する権利が」
「それって」
「ティナ、俺の妻になってくれ」
「は、はい!」
ティナは俺に抱きついてきた。
「好きだよ、ティナ」
「ありがとうカイン!私も大好き!」
俺たちはしばらく抱き合っていた。ティナが嬉し泣きをやめるまで。




