第28話 ヒュドラとの戦い
俺はエリーゼ、ユリア、エキドナを連れて未開の土地の集落に転移の魔法で飛んだ。急に現れた俺たちを見て、集落の人々が驚いている。その人々のうちひとりがこちらに近づいてきた。
「来たわねカイン、その人たちは?」
ティナが俺を見つけて話しかけてきた。
「カインの妻のエリーゼですわ」
「同じく妻のユリアです」
「同じく妻のエキドナだ」
「私はティナ。カインって3人も奥さんがいるの?」
「他にも3人いるから全部で6人だな。他の妻たちは妊娠中だから連れてきていない」
「6人も…」
「強い魔物と戦うんだから、戦力は多い方が良いと思って連れてきた。みんな剣や魔法の優れた使い手だ」
「そうなんだ。カインの妻になるには強くなければならないのね」
「そういうつもりじゃなかったけど、結果的に強者ばかり妻にしてしまってるな」
「カインは国王だから妻がたくさんいるのは当然よの。妾はもっと増えるのではないかと思っておるがな」
「エキドナ、この話はそのへんにしておこう。ティナ、例の魔物はどこにいる?」
「今父さんが様子を見に行ってる。戻ってくるまで私の家で待ってて」
俺たちはティナの家に案内された。簡素な作りだが、村長の家ということで他の家に比べて広かった。
「南の未開の土地は蛮族が支配しているって聞きましたけど、蛮族呼ばわりは失礼でしたわね。会って話してみれば同じ人間ですわ」
「そうですね、私も人づてに聞いただけでしたので、詳しくは知りませんでしたけど」
「マルディール王国やトライア帝国が返り討ちにあった恨みで蛮族呼ばわりしてたのであろう。誤解が解けて良かったではないか」
エリーゼ、ユリア、エキドナがそれぞれ蛮族について語り合っている。たしかにティナたちはただの人間だ。話し合えば分かり合えるし蛮族呼ばわりは良くないだろう。
「私たちはこの地に昔から住んでいる。集落は他にも何百と点在している。王国や帝国が攻めてきたら団結して返り討ちにしてきた。この地を守っているのよ」
ティナが説明を付け加えてくれた。
「俺は最初、南の未開の土地を支配する蛮族がいると聞き、力づくで倒す必要があると考えていた。だが実際にあって見たら話の通じる人間だった。自分の目で真実を確かめられて良かったよ」
「蛮族なんてひどい呼び方よね。私たちのどこが野蛮なのよ」
ティナは憤っている。
「そうだな、少なくともティナは野蛮どころか可憐で素敵な女性だと思うよ」
「えっ、そんな私なんて…」
ティナは顔を赤らめてうつむいてしまった。
「カイン、妾達がいる前で別の女を口説くとは大したものだの」
「ごめん、エキドナ。そんなつもりじゃ…」
「カイン、この先何人妻が増えようとも正妻は私であることを忘れないようにしてくださいまし!」
「エリーゼもごめん」
「カイン様、妻を増やすことに反対はしませんが、私たちひとりひとりを蔑ろにしないでくださいね」
「ユリアもごめん」
妻たちを刺激してしまいおろおろしていると、ガイルが戻ってきた。
「戻ったぞ、ティナ。カインも来ているようだな。その人たちは?」
俺は彼女たちが妻であることを伝えた。そして戦力となることも。
「そうか、戦えるものは多い方が良い。儂とティナも行こう。この集落では儂とティナが一番強いからな。ちなみに魔物は捧げた獲物を食っているところだった。今頃寝床に戻って寝ているだろう」
「ところで、その魔物はどんな奴なんですか?」
「奴は巨大な胴体に9つの首を持つ大蛇の姿をしている。不死身の生命力を持っていて、9つの首のうち8つの首は倒してもすぐに傷口から新しい首が生えてくるんだ。しかも中央の首はいくら攻撃しても死なない。さらに奴の吐くブレスは猛毒でくらったら即死する」
「ふむ、それはヒュドラだな」
エキドナが答える。
「歴代魔王でも使役することができなかった凶悪な魔物だ。カインひとりではとても勝てぬであろう」
「エキドナがそこまで言うとは、みんなを連れてきて良かったな」
「そこまで強い相手にどうやって勝つつもりですの?」
「ヒュドラは9つの首のうち中央の首が本体だ。不死身と言われておるが、強力な攻撃を加えれば倒せるだろう。カインの力を信じよう」
エキドナは俺の目を見つめながら答えた。
「妾とユリアは防御の魔法に徹して猛毒ブレスを防ぐことに専念するべきだろう。攻撃はカインたちに任せる」
「俺が中央の首を相手にしよう。他の首はエリーゼたちに任せる」
「わかりましたわ!」
こうして俺たちはガイルの案内でヒュドラの住む場所にたどり着いた。そこには眠っているヒュドラの姿があった。
「儂らは狩った魔物を毎日ここに置いていくんだ。1日でも欠かすと集落を襲ってくるのでな」
「よし、奴が眠っている間に近づこう」
俺たちはゆっくりとヒュドラに近づいていった。その巨躯に圧倒されるも、俺は最初の一撃を中央の首めがけてお見舞いした。ガキィン!首は固く、一撃で切り落とすことができなかった。そしてヒュドラは目覚めてしまう。
「グォォォォ!」
ヒュドラの9つの首が目覚め、ヒュドラとの戦いの火ぶたが切って落とされた。ヒュドラは一斉に猛毒ブレスを吐き出してくる。
「ユリア!エキドナ!」
「わかりました!」
「わかった!」
ユリアとエキドナは風の壁を作ってブレスを跳ね返す。エリーゼ、ティナ、ガイルは中央以外の首を相手に戦っている。
「はあっ!」
ガキィン!中央の首は何度斬っても刃を跳ね返される。このままじゃジリ貧だ。
「切り落とせないほど固いなら!」
俺は中央の首の口めがけて突進する。中央の首は猛毒ブレスを吐いてくるが、俺は風魔法でブレスを跳ね返した。
「くらえっ!」
俺は剣を掲げたまま、中央の首の口内に飛び込んだ。そして口内の頭上、脳めがけてミスリルの剣を突き上げる。
「グォォォォ!」
脳を突き刺された中央の首は力を失い倒れた。本体をやられ、他の8本の首も力を失い崩れ落ちた。
「よし、やったぞ!」
「すごい、本当に倒しちゃった…」
ティナが唖然としてつぶやいた。
「冒険者ギルドに持っていけば高く買い取ってくれるだろう」
俺は空間魔法でヒュドラの死体を異空間送りにした。
「すごいカイン、そんなことまでできるんだ」
ティナはうっとりとして俺を見つめている。
「さすがわカインですわね。正妻として鼻が高いですわ!」
「お見事ですカイン様。あなたの妻であることを誇りに思います」
「いつみても強いの。妾は惚れ直したぞ」
エリーゼとユリアとエキドナが俺を褒めちぎる。
「カイン、ありがとう。おかげで長年苦しまされてきたヒュドラを倒すことができた。なんとお礼を言ったら良いか…」
「礼には及びませんよ。それじゃあ集落まで帰りましょうか」
俺たちは転移の魔法で集落に飛んだ。俺は集落の中央にヒュドラの死体を出して見せた。集落の人々は驚きそして大喜びしている。
「他の集落にもヒュドラを倒したことを伝えておこう。伝令を頼む」
ガイルに命令された数名が馬に乗って集落から離れていった。
「今日はもう遅い、明日また来るから待っててくれ」
「ああ、わかった。今日は本当にありがとう」
ガイルにお礼を言われ俺はエリーゼとユリアとエキドナをそれぞれの城に送った後、俺はひとりトライア帝国の冒険者ギルドに飛んだ。
「カインか、久しぶりだな。素材の買取か?」
「ああ、南の未開の土地でヒュドラを狩ってきた」
「ヒュドラだって!まじかよ未開の土地にそんな化け物がいたとは知らなかったぜ、ともかく奥まで来てくれ」
俺はヒュドラの死体をグランに渡すと人魔王国に戻った。
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「カイン…」
ティナはなかなか寝付けないでいた。
「私、恋しちゃったのかな。でもカインは王様だし、相手にされるわけないしなあ。この気持ち、どうしたら良いんだろ」
ここにもカインに恋する乙女が産まれてしまった。カインに新たな妻が増える予感。




