第26話 魔王なんかやめてしまえ
「カインひとりで来たのか。直前まで殺し合いをしていたのに、よく顔を出そうとしたものだな」
魔王城に転移の魔法で飛んだ俺は、アスモデウスから皮肉めいた出迎えを受けた。
「産後間もない力の弱ったエキドナを皇帝に人質に取られ、殺される寸前でした。しかし、仲間たちが駆けつけてくれたおかげで返り討ちにすることが出来ました」
「国王親子と皇帝親子に近づき、力を与えたのだ。北から魔物、西と東から王国・帝国混成軍を挟撃させ、一気に城を落とすつもりだったのだがな」
「あと少し遅れていれば、エキドナと子供2人が殺されていました。血の繋がった親子なのに本気で殺しに来たのですね」
「そうだ。父親としてではなく魔王として行動したまでだ。魔王には混沌の世界を作るという義務があるからな」
「もうやめませんか」
「なんだと?」
「もう魔王とか混沌の世界とかやめにしませんか?」
「魔王をやめろだと?」
突然、魔王なんかやめてしまえという提案をする俺。当然ながらアスモデウスは相当驚いている。
「はっ、何を言い出すかと思えば魔王をやめろときたか。そんなことができるはずなかろう。我に義務を放棄しろと言うのか」
「昔エキドナから聞きました。魔王は人間同士の殺し合いをさせて、混沌の世界を作ろうとしていること。それが世界の進化に繋がるということを」
「そうだ、我は魔王だ。代々続いた魔王としての責務を果たさずして魔王など名乗れぬ」
「エキドナは俺と出会い、魔王の座をあなたに返上しました。エキドナは魔王の座よりも大事なものを見つけたのです」
「何が言いたい?」
「アスモデウス様も魔王の座よりも大事なものを見つけてほしいのです。人魔王国に一緒に来ませんか?エキドナも孫2人も待っています。転移の魔法で飛べばすぐです」
「我を人魔王国へ連れていくだと?一度でも連れていけば、今後いつでも転移の魔法で飛んで暗殺しに行けるんだぞ?」
「これは賭けですね。アスモデウス様が魔王よりも大事なものを見つけてくれることを」
「そこまで言うなら行ってやろう。後悔することになるぞ?」
アスモデウスは俺の腕をつかんだ。そして俺たちは転移の魔法で人魔王国へ飛んだ。
「おお、アモスにレイラ。かわいいのう」
アスモデウスは破顔して孫2人を可愛がっている。
「じいじ!じいじ!」
「おお、アモスはしゃべれるようになったのか。我がじいじだぞ!」
アモスに呼ばれてアスモデウスはニコニコだ。
「アスモデウス様。この戦いではエキドナや孫2人が殺される寸前でした。家族を殺してでも混沌の世界を作る必要があるのですか?」
「うーむ…」
アスモデウスは答えない。
「アスモデウス様、あなたは千年前まで見事に魔王を務めました。もう良いのではないですか?」
「だが、我が魔王をやめてしまうと、次の魔王がいなくなってしまう。世界を混沌にするものがいなくなってしまう」
「永遠に魔王がいなくなるわけではないでしょう。少しの間魔王の座が空であっても良いじゃないですか。長寿のアスモデウス様やエキドナがアモスやレイラの成長を見守る、そんな世界が一時あっても良いじゃないですか」
「魔王である我が説教されるとは思わなかったぞ。だがカインの提案は甘美だ。孫の成長をずっと見ていたい。カインよ、2人とは言わずもっと孫を作れ。それならば魔王の義務を一時放棄しよう」
「ありがとうございます、アスモデウス様!」
「じいじ!じいじ!」
「アモスも喜んでおりますぞ、父上」
「エキドナよ、今ならおまえの気持ちがよくわかる。とても満たされた感じだ」
アスモデウスはアモスを抱き上げた。
「我にも新たな目標ができた。新たな魔王を育てるという目標をな。我が孫から新たな魔王を誕生させよう」
「父上、それは許しませんぞ!子供たちはカインとともに平和な世界を作るのです」
「エキドナよ、孫たちが将来どんな道を進むのかは本人の自由だ。我がその道を導いてやろうというのだ。もう決めたぞ」
「カイン、父上はああ言っておるが、なんとしても子供たちを魔王にするのは阻止しようぞ!」
「わかってるよ、エキドナ」
こうして俺はアスモデウスの説得に成功し、魔王の座から退かせた。平和な世界の始まりだ。
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主のいなくなった魔王城、そこの守りを固める魔物兵は全て人魔王国にスカウトした。これでより一層人魔王国の守りが強化されることになった。アスモデウスはというと、毎日孫たちと遊んで過ごすただのおじいちゃんと化していた。もうそこには混沌の世界を作ろうとしていた魔王の威厳は無い。
「カイン、赤ちゃんができたみたい!」
「カイン王、あたいも妊娠したみたいだ」
「カイン王、私も授かりました。避妊をやめたらすぐでしたね」
アスモデウスが人魔王国に来て数カ月、リッシュ、ナディア、アリスから妊娠の報告が続々と来た。これで3人生まれたら子供が合計9人となる大所帯だ。
「さらに賑やかかになるのう、カイン」
「人魔王国で子供6人育てるとなると、今の城では手狭になるな。エキドナとの子供もさらに増やせとアスモデウス様がうるさいし」
「ほっほっほ、父上はせっかちでいかんな。それでどうするのだ。城を拡張するのか?」
「そうだな、そのことについてエリーゼやユリアに相談に行こうと思う。国王親子や皇帝親子がどうなったか確認したいし。それじゃあ早速行ってくるよ」
「気をつけてな、カイン」
俺は転移の魔法でマルディール王国へ飛んだ。
「おかえりなさいですわ、カイン。今日は私と過ごす日ではなかったはずですわ」
「ああ、今日は2つ聞きたいことがあってな。まず、国王親子はどうなった?」
「お父様とお兄様は犯罪奴隷に落としましたわ」
「犯罪奴隷?処刑するなとは言ったがそこまでしたのか」
「少なくとも他の犯罪奴隷のように使いつぶすことはしませんわ。命の危険が無いかわりにきつい仕事をさせていますわ」
「そうか、ところでリッシュとナディアとアリスが妊娠したんだ。人魔王国の城じゃ手狭になるから、エリーゼの知恵を借りたいんだ」
「おめでたいですわね。それなら南の未開の土地を開発したらどうですの?」
「なるほど、あそこなら土地が膨大にあるな。ありがとう、検討してみるよ」
「どういたしましてですわ」
続いて俺は転移の魔法でトライア帝国へ飛んだ。
「おかえりなさいませ、カイン様。今日はどうされました?」
「ああ、今日は2つ聞きたいことがあってな。まず、皇帝親子はどうなった?」
「エリーゼ様にならって2人とも犯罪奴隷に落としました」
「ユリアもか…」
「命だけは助けたので、この扱いは仕方ないと思います。もう1つ聞きたいこととは?」
「リッシュとナディアとアリスが妊娠したんだ。人魔王国の城じゃ手狭になるからとエリーゼに聞いたところ、南の未開の土地を開発するよう勧められたんだ」
「おめでとうございます。南の未開の土地は、マルディール王国もトライア帝国も開発しようとして失敗したことがあります。なにやら蛮族が支配している土地だとか」
「蛮族か…。話し合いが通じない相手なら、実力行使もやむなしだな」
「もし開発するのであれば、十分注意してくださいね」
南の未開の土地の蛮族、それが俺の次の相手となることになった。




