第25話 生死の境目
皇帝が剣を振り下ろし、俺の首をはねようとした瞬間、皇帝の動きが止まった。
「ぐっ」
見ると皇帝が剣を持つ手のひらを矢が貫通していた。
「カインから離れさなさい!」
入口の方からリッシュの声が聞こえる。俺は仰向けに倒れたままで、姿までは見ることはできなかったが。
「うおお!」
今度は目の前に斧を振り上げて突進するナディアの姿が見えた。皇帝はそれを剣で受け止める。反撃しようとする皇帝を、リッシュの矢の連撃でそれを邪魔する。
「カイン、しっかりしろ!」
出血多量で失いかけていた意識が少しずつ戻ってくる。エキドナが回復魔法をかけてくれているようだ。
「亜人どもがっ!」
皇帝はリッシュの矢とナディアの斧の連携に苦戦している。
「エキドナ、もう大丈夫だ」
エキドナの回復魔法である程度回復した俺は、自分でも回復魔法を重ねがけして全快した。
「下がっててくれ、エキドナ」
俺は自分の剣を拾い、がら空きの皇帝の背中を斬りつけた。
「ちっ、もう回復しやがったか!」
俺の攻撃を振り返って剣で受け止める皇帝。
「こっちのことを忘れないでよ!」
リッシュの矢の嵐が皇帝に襲いかかる。皇帝は全てをかわすことができず、数発くらってしまう。
「おらっ!」
ナディアの会心の一撃!皇帝は剣で受け止めるも、その圧力に耐えきれず壁際まで吹っ飛ばされる。
「もらった!」
俺は直後に皇帝に突進し袈裟斬りにする。
「ぐわっ!」
皇帝の胸から血しぶきが飛び、仰向けに倒れる。俺は剣を皇帝の首筋に当てた。
「皇帝、国王と同時に攻めてきたのはなぜだ?魔王の差し金か?」
「ふっ、たとえ魔王に魂を売ろうとも、余は帝国を取り戻すためならなんでもやるつもりだった。だがこれで終わりだな。殺せ」
「カイン王!」
アリスが部屋に入ってきた。
「敵兵は全滅させました。国王親子と皇帝の長兄は捕らえました」
「よくやった。皇帝も捕らえてくれ」
「はっ!」
アリスはロープで皇帝を縛り捕虜にした。
「くっ、傷は癒えたが出血が多すぎたな…」
戦いが終わって気を抜いた瞬間、俺はその場で意識を失って倒れた。
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「はっ、ここは…」
俺は目を覚ますとそこは見慣れた天井だった。ここはエキドナの私室だった。
「目を覚ましたか、カイン。丸3日目を覚まさなかったから心配したぞ」
生死の境目からなんとか復帰できたようだ。
「ああ、すまない。ぎりぎりの戦いだったな。魔物だけではなく、国王と皇帝を同時に攻めさせるのがアスモデウス様の企みだったとは」
「カイン王、国王親子も皇帝の長兄も目を赤く光らせ人間離れした強さでした。大勢の警備兵が玉座の間に来てくれたのでなんとかなりましたが、応援がなければ私たちもやられていたでしょう」
アリスが報告してくる。やはりアスモデウスに操られていたか。
「アスモデウス様の準備と言うのは、魔物を召喚するだけでなく、国王親子と皇帝親子を操って一気にこの城を落とすつもりだったんだな」
「カイン、目を覚ましたのね!」
「心配したよ、カイン王!」
リッシュとナディアが部屋の中に入ってきた。
「リッシュ、ナディア。あの時は助かったよありがとう。2人が来てくれなかったら俺は殺されていた」
「礼なんていらないわ!大事な旦那様の危機だもの。妻として助けるのは当然だわ」
「あたいの斧術が役に立ってよかったよ。ぎりぎり間に合って良かった」
2人は笑顔で答えてくれた。
「国王親子と皇帝親子はどうなっている?」
「4人とも地下牢にいれています。今は正気に戻ったようです。どうなさいますか?」
「アリス、俺は反逆したら殺すと伝えていた。だから本来なら処刑すべきだ。だが魔王に操られていたとなるとここで処刑するのはためらわれる。判断はエリーゼとユリアに任せようと思う」
俺はベッドから立ち上がる。
「早速だが、国王親子と皇帝親子を国に返してくる。まずは国王親子からだ」
俺は地下牢に行き、国王親子を連れてマルディール王国へ転移の魔法で飛んだ。
「カイン!無事でしたのね!心配しましたわ」
エリーゼが俺に抱きついてきた。
「エキドナから報告は受けていますわ。お父様とお兄様を殺さないでくださったこと礼を言いますわ。しかし反逆した以上処刑せざるを得ないですわ」
「魔王に操られた国王親子は人間離れした強さだったそうだ。生かしていたらまた同じことを繰り返すかもしれないな。それでも処刑だけはしないでほしい」
「なぜですの?」
「血の繋がった親兄弟をエリーゼが殺すなんて真似はさせたくない。処刑以外の方法をとってくれないか」
「カイン…」
「皇帝親子をユリアに届けなければいけない。国王親子の処遇はエリーゼに任せるよ。処刑以外でな」
「わかりましたわ」
俺は転移の魔法で再び人魔王国へ飛び、皇帝親子を連れてトライア王国へ飛んだ。
「カイン様、ご無事で何よりです」
ユリアが俺に抱きついてきた。
「エキドナさんから報告は受けています。お父様とお兄様を活かしてくださってありがとうございます。しかし反逆したら殺すと言った以上処刑せざるを得ませんね」
「エリーゼも同じことを言っていた。だが処刑はしないでほしい。実の父親と兄を処刑するなんて真似をユリアにさせたくない」
「カイン様…」
「俺は人魔王国で戦後処理をしなければならない。皇帝親子の処遇はユリアに任せるよ。処刑以外でな」
「わかりました」
俺は転移の魔法で人魔王国に戻ってきた。
「おかえり、カイン。早かったの」
エキドナが俺を出迎えてくれた。
「こちらの戦後処理をしないとな。アリス、被害状況を教えてほしい」
「はっ、カイン王。こちらは重軽傷者が多数出ましたが、幸いにも死者はいません。敵方の魔物は全滅、王国・帝国混成軍は国王親子及び皇帝親子以外は全滅させました」
「そうか、学校を作って正解だったな。アリス、良く守ってくれた」
俺はアリスの頭を撫でた。
「カイン王、みんなが見てる前で恥ずかしいです。続きは夜にしてくださいね」
アリスが顔を赤くして俺から離れていった。
「重軽傷者たちは回復させたか?」
「いいえ、まだです。回復魔法を使えるものは全てカイン王に魔法を使っていたので」
「そうか、それじゃあ回復しに行ってやろう。エキドナ、ついてきてくれ」
「わかった、カイン」
俺とエキドナは重軽傷者たちに回復魔法を使って回った。多数に魔法を使ったのでかなり疲れたが、死者が出なかったことが幸いだった。
「カイン、これからどうする?」
「そうだな、アスモデウス様のところへ顔を出しに行こうかと思う」
「本気か?父上は妾達を殺そうとしたのだぞ」
「それでも俺の義父だ。戦いが終わった後に話したいことはいくらでもある」
「今日はもう遅い。行くなら明日にしてもう休もうか。今日はアリスの番だったはずだ。行ってやると良い」
「ああ、わかったよ。おやすみエキドナ」
俺は風呂に入った後、アリスの私室で愛を確かめ合った。死の間際だったこともあり、その日は相当燃えた。
「おはようございます、カイン王。もう朝ですよ」
裸のアリスが俺を起こしてくれる。そして唇にキスをされた。
「ゆうべはすごかったです、カイン王。壊れちゃうかと思いました」
「ごめん、アリス。やりすぎちゃったか」
「いいえ、嬉しかったです。また次の機会を楽しみにしていますね。まずは朝ご飯を食べに行きましょうか」
「そうだな」
俺とアリスは食堂におりてみんなで食事をとった。そして俺は転移の魔法で魔王城のアスモデウスのもとへ飛んだのであった。




