第22話 女の戦い
飛び級卒業のランスとアリスを近衛騎士団に迎え、リッシュとナディアは城の護衛兼任から先生専任へと変わった。城の警備と言ってもエキドナとアモスの護衛が主な仕事だが、エキドナは家事奴隷のマルシェを連れて育児を任せるようにってから、ほとんど先生に時間を使うようになったため近衛騎士としての仕事が無い状況であった。ランスは寡黙な性格で、主のいない城の警備を黙々とこなしていたが、一方のアリスは違った。
「カイン王、私にカイン王の警備をやらせてください!カイン王の働きを近くで見て学びたいのです」
アリスは何かと理由を付けて俺の近くにいようとする。俺は積極的に学ぼうとしているのだと思い、その姿勢を評価しアリスの好きにさせた。
「アリス、今日は先生じゃなくて冒険者として討伐クエストを行う、ついてこい」
俺は学校が休みの日はひとりで北の森で討伐クエストをこなしていたが、最近はアリスを伴わせていた。アリスは槍の扱いに長けていて、既にBランクの冒険者として活躍していた。
「はあっ!」
アリスの槍が魔物にとどめを刺す。戦いを通じて俺とアリスの連携は上達していった。
「そろそろ休憩しようか」
俺は空間魔法で魔物の死体を異空間へ飛ばした後、続いて異空間から机と椅子と料理の乗った皿を出した。
「いつ見てもすごいですね、カイン王の空間魔法は」
俺とアリスは食事をしながら話をした。
「アリスは貴族出身だったんだな。どうしてうちの兵士になろうとしたんだ?」
「私は貴族の娘として、どこかに嫁ぐための道具でしかありませんでした。私は自分よりも弱い男に嫁ぐのが嫌で、家を飛び出したんです」
「入学当時から槍の扱いに長けてたよな。昔から鍛錬していたのか」
「はい、冒険者として生計を立てようと思ったんですが、カイン王が建国したことを知り、どうにか兵士に雇ってもらえないか考えていました。学校の設立は私にとって願ってもない機会でした」
「そうか、うちもアリスを雇えて助かったよ。強い兵士はいくらいても足りないからな」
「カイン王は私の憧れです。お傍にいられて嬉しいです」
アリスは潤んだ目で俺を見つめてくる。茶髪をショートカットにしたボーイッシュなタイプのアリスであったが、顔はとてもかわいらしく、思わず俺はドキッとしてしまった。
「好きです、カイン王」
アリスは俺に抱きついてきた。
「おいおい、アリス…」
「カイン王。不敬を承知でお許しください。あなた様のことが好きです」
アリスは俺から離れると頭を下げた。
「急で驚いたよ、いつの間に好かれてたんだ」
「入校してすぐです。若くてかっこよく、それでいてとても強い。建国までしてしまう。これ以上好きになる理由がいりますか?」
随分と持ち上げられて困惑する俺。そんな俺に対して畳みかけるアリス。
「私の気持ちは今は迷惑に思われているでしょう。でもきっといつか、カイン王が私にご寵愛をくださることを信じて仕事に取り組んでまいります」
「俺はもうこれ以上妻を増やそうとは思ってないぞ。アリスの気持ちに答えるのは…」
「良いんです今は。時間をかけて、カイン王の気持ちを少しでも頂けるようになることが私の目標です」
「そうか、それじゃあ強くなれ、今よりももっと。俺が欲しいのは強い兵士だ。人魔王国の中で一番の兵士を目指せ。具体的に言うと近衛騎士団長だな」
「将来近衛騎士団長になったら、私の気持ちに答えてくれるんですね!頑張ります!」
アリスはニコニコして喜んでいる。今はこれで満足してもらおう。
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「カイン、最近アリスと随分仲が良くなったようだのう。妾は嫉妬してしまうぞ」
ベッドの隣で寝ているエキドナが突然爆弾を投げてきた。
「いや、仲が良くなったなんてそんなんじゃ…。アリスを立派な兵士に育ててるだけだよ」
「本当かのう。妾の気のせいであれば良いのだがの」
女の感は鋭い。アリスに手を出したら恐ろしいことになりそうだ。
「俺はこれ以上妻を増やそうとは思ってないよ」
「そうか、それなら妾をもっと愛しておくれ。具体的に言うと2人目が欲しいのう」
「そうだな、そろそろいいかもな」
「この間父上にアモスの顔を見せに行ったが、いまだに何か企んでおるとは思えんかった。このまま平和な時が過ごせたらいいのう」
「元魔王が平和を願うってのも変な話だな」
「それもこれも全てカインのせいだぞ。妾がこんなになったのは。ちゃんと責任とってくれよ」
「わかってるよ、愛してるよエキドナ」
俺はその夜エキドナとたっぷり愛し合った。2人目ができるのはそう時間はかからないだろう。
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次の日俺は先生として生徒たちを鍛えていた。俺の隣には近衛騎士の姿をして見守っているアリスがいる。
「よし、今日はここまで。寮に帰ってからも自己鍛錬を怠らないように」
生徒たちを解散させると、アリスは待ってましたとばかりに俺に話しかけてくる。
「カイン王。城下町に美味しいデザート屋を見つけたんです。帰りに一緒に行きませんか?」
「そうだな、ちょっとくらいならいいか」
「やった!早速行きましょう!」
俺はエキドナに釘を刺されてからも、アリスとの仲を徐々に深めていった。アリスは悪い子じゃない、好きとかそういうんじゃないと自分の中で言い訳をしながら。
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「カイン、最近近衛兵の女と仲がよろしいそうじゃないですの。理由を聞かせてほしいですわ」
「ど、どうしたんだエリーゼ、急に何を言い出すのかと思えば」
今晩はマルディール王国でエリーゼと過ごす日だ。突然切り出され困惑する俺。
「時々エキドナが転移の魔法で来てくれるから、情報交換をしておりますのよ。エキドナはカインのことをとても心配しておりましたわ」
「別にやましいことはしてないよ。強くて将来性のある子だから手塩にかけて育ててるんだ。近衛騎士団長を目指せる逸材だし。
「本当ですの?いずれにしても、妻を増やしたかったら正妻であるこの私に許可を取ってくださいまし。増やすなとは言わないですわ」
「俺は3人も妻がいるから、これ以上増やすつもりは無いよ。心配はいらないよ」
「とにかく今晩は私と一緒にいる番ですわ。たくさん愛してくださいまし、カイン」
「わ、わかったよエリーゼ」
アリスのことはエキドナを通じて、エリーゼに筒抜けであった。下手なことはできないな。しかし俺は徐々にアリスに惹かれていく自分を自覚していた。このままでは修羅場になってしまう。
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「カイン様、アリスという近衛騎士についてなんですが」
エリーゼに続いてユリアにまで問われてしまった。エキドナ情報網を通じて隠し事はできないようだ。
「やましいことはなにもない!信じてくれユリア」
「わかりました。カイン様がそんなに必死ということは、よっぽとアリスという子に熱を上げているんですね。私のことを蔑ろにしない範囲でお願いします」
「もう他の子の話は止めよう。愛してるよユリア」
俺は必死に誤魔化しユリアの機嫌を取った。アリスとの仲をどの程度に抑えれば良いのだろう。女の戦いが始まったらまずい。俺はアリスの気持ちに答えるかどうか悩んでいた。




