第21話 アリス15歳
「俺が人魔王国国王でこの士官学校の校長であるカインだ。みんなの入校を歓迎する。授業の中には厳しい内容もあるから、途中で脱落する者もでてくるかもしれない。だが無事卒業できた者は人魔王国の兵士として雇う。期待しているから頑張ってほしい」
生徒総勢200人超を前にして俺が代表して話をした。俺の隣には先生役としてリッシュ、ナディア、そしてエキドナもいた。エキドナはアモスの育児は家事奴隷のマルシェが手伝うようになってから余裕ができたため、魔法の先生役として立候補してくれた。
「事前に伝えてあるが、成績優秀で卒業した者は学費を全額免除する。免除に該当しなくともここで兵士として3年働いた時点で学費を半額こちらが負担する。金のことは気にせず思う存分励んでほしい」
生徒に募集してきたのは、大半が農地を継げない次男以降の少年や少女だ。俺よりも年上な者もちらほら見かける。学費の半額相当を兵士として働いて3年で返せば元手0でも入学できるということで、貧乏な者たちが集まっていた。
「まずはクラス分けを行う。俺とリッシュ、ナディアと戦ってもらう。もちろん手加減はするから安心してほしい。全力でかかってこい」
生徒の中には戦闘経験がある者から武器を持つのが初めてという者まで多岐にわたる。それぞれの実力に合わせて教育するための目的である。そうして実力に合わせた4つのクラスに分けた。
「最初のクラス分けをしたが、ずっと同じクラスというわけではない。実力に応じてクラス替えを行うから、ずっと上のクラスにいられると思わないように」
俺は一番実力上位のクラスの50名の前で話をした。この生徒たちは戦闘経験があったり魔法適性が高いものばかりの優秀クラスだ。卒業までに立派に教育したい。
「カイン校長、質問よろしいでしょうか?」
元気そうな少年が手を上げる。
「いいぞ、何かな?」
「僕は人魔王国の近衛騎士になりたいです。成績優秀で卒業出来たらなれますか?」
「やる気があっていいな。今のところ卒業後にどこに配置するかは考え中だが、実力に見合う職場を与えるつもりだ。もちろん近衛騎士も含まれる」
「先生、私も質問です。平民でも近衛騎士になれるんでしょうか?」
「この人魔王国はマルディール王国やトライア帝国のように、貴族で近衛騎士を固めるということはしない。実力を重視することを約束しよう」
生徒たちの大半は平民だが、中には貴族の子もいる。しかし血筋だけで選ぶことはしない。かつて俺がマルディール王国で国外追放をされた悔しさを、他の誰かに味合わせるような真似はしない。
「ここの学校はとにかく実践を重視する。まずは剣の扱いから教えるぞ」
武器と言っても剣・槍・斧・弓など多岐にわたる。どれが一番適性があるかは生徒次第だ。一通り武器を触らせて、もっとも得意なものを伸ばすことを目的としている。俺は一日かけて武器を一通り触らせた。
「よし、今日はここまで。学校で教わるだけで満足するなよ。寮に帰ってからも自己鍛錬を欠かさないように」
こうして俺たちは先生として生徒たちを導いていった。そうこうしているうちにあっという間に1カ月が経った。1カ月も経つと、生徒たちの実力に差が開いてくる。一番上のクラスでも顕著だ。
「カイン、そちらのクラスは順調かえ?」
俺とエキドナ、リッシュとナディアは城で共に晩御飯を食べていた。
「ああ、実力差に開きが出てきたな。優秀な者はもう卒業でいいんじゃないかってくらいの強さがある。卒業後が楽しみな逸材だ」
学校では2年かけてじっくり教育する予定でいたが、ある程度の強さをもって入学している者もいたため、一律2年で卒業というのも考え直した方が良さそうだ。
「強さが一定に達した者は順次成績優秀で卒業という形にしようと思う。近衛兵になりたがっている者が多かったから、その席を準備しないといけないな」
「あたしのクラスはみんな平均的かな。2年かけてじっくり育てないといけないと思う」
「あたいのクラスは平均以下だから、脱落しないように目をかけてやるつもりさ」
「妾のクラスは魔法に特化した者を集めたから、みんな宮廷魔術師になろうと躍起になっておるぞ」
「学校が休みの日は冒険者として働いている者もいる。いちいちマルディール王国やトライア帝国に戻るのも大変だろうしな。人魔王国にも冒険者ギルドを作ろうと思う」
俺は以前から人魔王国にも冒険者ギルドを作ることを検討しており、その事を帝国のグランにも話してあった。人手は引退した元Aクラス冒険者を紹介してくれるとのことなので、その辺は大丈夫だろう。
「カイン、妾は明日父上にアモスの顔を見せに行こうと思う。ついてくるか?」
「そうだな、アスモデウス様がどんな方法で混沌の世界を作ろうとしてるか調べたいしな。ついていくよ」
翌日、俺とエキドナはアモスを連れて魔王城へ転移の魔法で飛んだ。
「久しぶりだな、エキドナ、カイン。アモスの顔を見せに来てくれたか」
「はい、父上。アモスは最近笑うようになりましたぞ。是非抱いてやってください」
アスモデウスはエキドナからアモスを受け取ると笑顔で高い高いをした。アモスはキャッキャと笑っている。
「いつ見ても孫は可愛いの。エキドナよ、数カ月に1度とは言わず、毎月来ても良いのだぞ。子供はすぐに大きくなるしな。ところで、カイン」
「はい、なんでしょうか」
「今日は我の偵察に来たというところかな?」
「は、はい。そうです」
俺は図星をつかれて正直に答える。
「人間と違い我の種族は長寿だ。今すぐにどうこうすることは無いから安心するが良い。孫の成長を見たいしな。混沌の世界を作るためにはしばらく準備が必要だとだけ言っておく」
「そうですか、数年は何もしてこないということでよろしいでしょうか」
「ああ、そうだ。その間にしっかり対策をしておくことだな」
アスモデウスの言質を取れたことで、俺は安心して学校教育に励むのであった。
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学校を始めてから1年がたった。そして飛び級で卒業する者が現れた。
「ランス、アリス、卒業おめでとう。おまえたちはもう十分強い。近衛騎士として迎えさせてもらう」
「先生、今までありがとうございました」
「先生、卒業してからも先生のお傍にいたいです」
ランスは剣、アリスは槍の成績が特に優秀で、1年で卒業と言う名誉を得た。そして彼らの望み通り近衛騎士として迎えることにした。
「もう生徒じゃなくてひとりの騎士として働くんだから、先生呼びは今日で終わりだぞ。これからは王と呼んでくれよ」
「「はい、カイン王!」」
「近衛騎士が2人増えたから、リッシュとナディアは先生専任にすることができるな。2人とも、エキドナとアモスの護衛しっかり頼むぞ」
「「はっ!」」
こうして俺は先生として初めての卒業生を送り出したのであった。
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「カイン王、好きです」
アリスは与えられた城の自室に戻ると、誰に聞かせるわけでもなくつぶやいた。
「絶対にカイン王を振り向かせてやるんだから!」
アリス15歳、彼女の淡い恋心は叶うのであろうか。またしてもカインの女難が始まりそうな予感。




