第17話 エルフの村
「エキドナが魔王だった頃、どうやって混沌の世界にするつもりだったんだ?」
最近のエキドナとの会話は、アスモデウスの襲撃に備える内容ばかりであった。それだけ警戒していると言うことだ。
「カインも覚えておろう。妾は帝国に肩入れし、王国との戦争を再開させるつもりであった。戦争は力が均衡していればいるほど、人間同士の殺し合いが長く続くからのう」
「今は王国と帝国の間に人魔王国を作った。王国と帝国が戦争を再開するには、この人魔王国を占領するのが必須となる。王国と帝国のどちらかをそそのかして人魔王国を襲撃する可能性はある」
「国王親子か皇帝親子をそそのかすというわけだな。父上はそんな搦め手を使ってくる性格では無かったがの。大量の魔物で人魔王国を攻めてくる可能性の方が高いと思うのだが」
「いずれにしても誰かが人魔王国を襲撃してくる可能性に繋がるな。もっと警備を強化しないと」
しかし人魔王国の守りは城にいる魔物兵しか頼りにならない。城下町には商人や住民がいるだけだ、警備する兵が足りない。
「カイン、城にいる魔物兵を全て城下町の警備にあててはどうかな?そうすれば城下町の警備する兵は十分足りるであろう」
「それはそうだが、城の守りをする兵がいなくなってしまう。エキドナとアモスの身が危険だ」
「父上はこの人魔王国に来たことが無いのだから、転移の魔法で急襲するという手は使えないはずだ。それにこれでも親子だ。娘や孫の命を取りに来るとは思えんよ。それに万一親子同士で戦うことになったとしても、元魔王である妾が最近まで隠居していた父上にそう簡単に負けるとは思えんよ」
「士官学校を作って兵士を育てるという手もあるが、時間がかかりすぎるな。それでも何もしないよりはましか。よし、士官学校を作って数年後から運用可能な兵士を育てよう」
「良いのではないか。父上が魔物を使って襲撃を考えているなら、魔物を大量に召喚する必要があるため数年はかかるだろう。十分間に合うのではないか」
こうして俺はマルディール王国とトライア帝国で士官学校の生徒を募集した。先生役は俺の名前で募集したところ、定員50名のところ200人以上集まってしまった。やはり人魔王国国王自らが先生役をするということで、注目度はかなり高かったようだ。集まった生徒候補の大半は、農地を継げない農家の次男以下の少年や少女だった。
「全員受け入れてやればよいではないか。住むところなら空き家が沢山あるであろう」
「人口が増えるのは良いことだが、学校の先生役が俺ひとりじゃ200人は無理だ。先生を務められるだけの強者が複数人必要になる。そんな人物どこにいるのか…。ギルドで大金を払えばAランク冒険者が応募してくれるだろうか」
「強者なら城の守りと先生を兼務させれば良いな。城の守りは少数精鋭というわけだ。ちなみに妾には心当たりがあるぞ」
「心当たりとは?」
「北の森にはエルフの村がある。エルフは弓の扱いに長けた優れた種族だ。説得して連れてくれば大きな戦力となるぞ。どう説得するかまではわからんがな」
「俺は北の森で何度も魔物狩りをしてきたけど、エルフなんて見たことないぞ。どこにいるんだ?」
「エルフと遭遇する確率は低いの。エルフの村に入るには、エルフしか使えない特殊な魔法で入り口の封印を解くしかないとか。だが時々村の外に出ては魔物狩りをしているはずだ。運が良ければ出会えるかもしれない」
「運が良ければねえ。今も北の森で魔物狩りをしているから、いつか出会えるかもしれないな。それじゃあアスモデウス様対策の話はここまでにして、魔物狩りしてくるよ」
「ああ、気を付けてな」
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俺は北の森で日課のごとく魔物狩りをし、魔物の死体の回収作業を続けていた。いつもと違うのは、エルフがどこかにいないか注意していることだ。
「そう簡単に会えるわけないか」
そろそろ人魔王国に帰ろうとしたとき、遠くから戦っている音が聞こえてきた。冒険者が戦っているのだろうか、苦戦していた場合手助けをしてやろうと思い、音のする方へ走っていった。
「手助けする!」
冒険者と思われる少女が犬の魔物であるケルベロスの集団に追われていた。俺は剣を構え、ケルベロスの集団を瞬殺した。ケルベロスたちの死体を空間魔法で異空間へ飛ばす。その様子を少女は驚いた表情で見ている。
「大丈夫か?」
少女は足から血を流している。結構な深手だ。
「俺は回復魔法を使える。治療してあげるよ」
俺の回復魔法でみるみるうちに傷跡すら消えてしまった。
「あ、ありがとう」
初めて少女が声を発したので俺は少女の顔を見た。セミロングにしたエメラルドグリーンの髪と瞳、そしてなにより目を引かれたのは耳が長く先が尖がっていることだった。
「君は人間じゃないな。もしかしてエルフか?」
「そうよ、あなたは人間ね。助けてくれてありがとう。矢が尽きて逃げていたところだったわ。あのままだったら助からなかった」
美しい顔をした少女は俺を見て頭を下げる。
「俺はカイン。この森の南にある人魔王国の王だ」
「あたしはリッシュ。この森の南にはなにもなかったはずだけど、人魔王国って?」
俺は人魔王国を作った経緯をリッシュに話した。そしてエルフの村を探していたことも併せて話した。
「ふーん、あたしたちエルフは弓が得意なのは本当よ。でも人間に協力する理由が無いわね。あなた個人には感謝しているけど」
リッシュは申し訳なさそうな表情をして答えた。
「協力はできないけど、助けてもらったお礼にあたしたちの村へ案内してあげるわ」
リッシュはそういうと、何やら魔法を詠唱し始めた。すると空間がゆがみはじめ、この怪しげな北の森とは違う穏やかな森が顔を出し始めた。
「ついてきて。ようこそエルフの村へ」
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「リッシュ、隣にいるのは人間か?どうして村に連れてきた?」
「兄さん、カインは私を魔物から助けてくれたのよ。矢が尽きて逃げていたところを魔物を瞬殺したのよ。強いんだから」
「矢が尽きただと?いつも言ってるだろう。狩りをするときは奥まで行きすぎるなって!」
「ごめんなさい。逃げた時に獲物を置いてきちゃった。今回の獲物は無しだわ」
「ケルベロスで良ければ俺が狩りました。差し上げましょう」
俺は空間魔法で異空間からケルベロスの死体を取り出した。
「空間魔法の使い手か。剣を持っているから剣士だと思ったが、魔法も使えるんだな」
リッシュの兄は驚いた様子でケルベロスの死体を見ていた。
「私はフィッツ。リッシュの兄だ。この度は妹が世話になった」
リッシュと同じ、エメラルドグリーンの髪と瞳を持つ美青年のフィッツが俺に頭を下げた」
「カインです。助けられたのはたまたま通りかかっただけですから。気にしないでください」
「兄さん、カインの話を聞いてあげて。エルフに用事があるみたい」
「エルフに?ともかく家に戻ろう。話はそこでしよう」
俺たちはフィッツの家に向かった。村には木造平屋建ての家が点在していた。そのうちのひとつの家の中に招き入れられた。そこで俺はエルフの強者を人魔王国に招き入れたいことを話した。
「私たちエルフは誰もが弓が得意だ。妹を助けてもらったのはありがたいが、わざわざ人魔王国とやらに行く理由が無いな」
やはり駄目か。どうにかして人魔王国へ連れていきたいが理由が思いつかない。悩んでいると、突然バーンと家の扉が開かれた。
「フィッツ、リッシュ大変だ!魔物が村の中へ入ってきた」
エルフの青年が慌てた様子で伝えてきた。
「なんだと!どうして村に魔物が?」
「もしかしてあたしが村に入る時についてきちゃったのかしら?」
「リッシュ!ともかく迎え撃つぞ!カイン、君も協力してくれ」
「わかった!」
俺たちは家の外に出て魔物が出たという方向を見る。そこには驚くべき魔物が襲いかかろうとしてきた。




