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第16話 前魔王アスモデウス

国作りが完了してから約1か月後、俺は父親になった。最初に産気付いたのはエリーゼだった。翌日にはユリア、翌々日にはエキドナという3日連続出産だった。


「よくやった、エリーゼ」


「ありがとうですわカイン。立派な男の子ですわ」


「よくやった、ユリア」


「ありがとうございますカイン様。かわいい女の子です」


「よく頑張りましたね、エキドナ様」


「うむ、男の子じゃな。立派に育てて見せようぞ」


マルディール王国、トライア帝国、魔王の跡取りができたわけだ。いや、魔王は1か月後にエキドナが魔王の座を返上するので違うか。エリーゼとの子はアレン、ユリアとの子はエレナ、エキドナとの子にはアモスと名付けた。


「子供が生まれたばかりで嬉しいが、あと1カ月で前魔王アスモデウスが魔王の座を取り返しにくるから、その対策をしなければならない。気持ちを切り替えるしかないな」


エリーゼとユリアには優秀な部下がいるため、育休の間は政務を任せても大丈夫だそうだ。問題は人魔王国と魔王城だ。魔王の座を返上するなら当然魔王城も明け渡さなければならない。


「1か月後に父上が魔王城を訪れる。その時に妾も立ち会わなければならない」


「その時はアモスも連れて転移の魔法で魔王城に飛びましょう。エキドナ様の父親なら俺の義父になるわけですから、俺と孫にあたるアモスの顔を見せるべきでしょう」


そして出産から1カ月後、ついに魔王返上の日が訪れた。俺はアモスを抱いたエキドナを連れて転移の魔法で魔王城に飛び、玉座の前でアスモデウスを待った。そしてついに現れた。


「1年ぶりだな、エキドナ」


「はい、父上」


「隣にいるのは例の人間、たしかカインと言ったか。そしてお前が抱く子供、それはまさか…」


「はい、父上。妾とカインの子供アモスでございます。父上の孫になります」


「我の孫…我はおじいちゃんになったというわけか!アモスと言ったな、抱かせてくれ!」


エキドナはアモスをアスモデウスに渡した。アモスはアスモデウスに高い高いされているがまだ生まれたばかりで笑ったりとかの反応は無い。


「アスモデウス様はじめまして。カインと申します」


「うむ、エキドナと番になったのだな。人間が相手とは予想外だったが」


「アモスの名前はアスモデウス様の名前から拝借しました。似た名前にしようと」


「殊勝な考えだな、気に入ったぞカイン」


アスモデウスが抱いていたアモスが突然泣き出した。おろおろするアスモデウス。


「父上、アモスにおっぱいを上げる時間です。さあ、こちらに」


「うむ、わかった。アモスよ、たくさん飲んで立派に育つのだぞ」


俺とアスモデウスはアモスにおっぱいを上げるエキドナから視線を外し、2人で会話することになった。気まずい…。


「カインよ、エキドナと番になるまでの話を聞かせてくれ」


「はい、アスモデウス様」


俺はエキドナとの出会いから馴れ初めを話した。王国と帝国を国外追放されて、あてもなく歩いていたところを拾われたこと。王国と帝国を急襲して、国王と皇帝を捕虜にしたこと。王国と帝国が内乱を起こし、大変混乱したこと。内乱に勝った国王の長兄と皇帝の長兄も急襲して捕虜にし、さらに混乱させたことを話した。


「その頃はお主とエキドナが協力し、混沌の世界を作っていたのだな。魔王の責務をよく果たしておった」


「父上、アモスはお昼寝の時間です。そろそろこの辺で」


「うむ、それではなエキドナ。アモスの顔また見に来るでな」


「それではカイン、帰るとしよう」


「わかりました、エキドナ様」


なんか忘れている気がする。


「ちょっと待てい!肝心なことを忘れておったわ!」


アスモデウスが突然叫ぶ。


「どうしました、父上」


「今日はお前から魔王の座を返上させるために来たのだった。孫の顔を見てたら忘れるところだったわ!」


「やはり覚えておられましたか父上」


「当たり前だ。エキドナよ、この1年間混沌の世界を作らず、人魔王国なる新しい国作りをしとったそうだな」


「はい、父上。妾は産休していたので、国作りはほとんどカインに任せておりました」


「1年の猶予をやったのに、早々に混沌の世界を作るのを諦めて新しい国作りとは。魔王の座は惜しくなかったようだな」


「はい、父上。千年前に父上から魔王の座を引き継いでから、魔王の義務を果たしてまいりました。しかし、カインとの出会いから妾は変わりました。カインとともに過ごす時間こそが、妾にとっての幸せなのです」


「人間は百年足らずで死んでしまう生き物だ。それと番になるということは、先に逝かれて悲しむことになるのだぞ」


「覚悟の上です、父上。気付いた時にはカインを愛しておりました」


「そこまで言うなら仕方がない。約束通り今日をもって魔王の座を返上してもらう。我が混沌の世界を作ってみせよう」


そう言うとアスモデウスは玉座に座った。


「エキドナよ、魔王の座を返上した以上魔王城に居座る権利は無い。早々に立ち去るがいい。ただし、時々孫の顔を見せに来ることは許してやろう」


「わかりました父上。それではまた」


「アスモデウス様、失礼します」


俺たちは転移の魔法で魔王城から去り、人魔王国へと帰ってきた。


「カインよ、妾は魔王の座を返上した。ただのエキドナだ。もう敬語も様付けもいらんぞ。カインは魔物の側近から人魔王国の国王となったのだ」


「わかったよ、エキドナ。これからはともに人魔王国を支えていこう」





********************





「というわけで魔王の返上は緩やかな雰囲気で行われた」


「わかりましたわ。アスモデウスが何をしかけてくるか、備えなければなりませんわね」


エリーゼはアレンにおっぱいをあげながら答えた。


「国王親子はどうなった?」


「もうお父様もお兄様も王ではありませんわ。王国城外の屋敷に軟禁状態にしてありますわ。いわゆる飼い殺しというやつですわ」


「アスモデウスがどんな方法で混沌の世界を作るのかわからない。この城が急襲されることがあるかもしれん。用心してくれ」


「わかりましたわ。産後とはいえ、私も剣士としていつでも戦えるようにしておきますわ」


「無理はしないでくれよ、それじゃあユリアのところに顔を出してくる」


「いってらっしゃいですわ、カイン」


俺は転移の魔法で帝国城へ飛んだ。


「そうですか、アスモデウスは混沌の世界を作ると」


ユリアは眠っているエレナの顔を撫でながら答えた。


「皇帝親子はどうなった?」


「2人とも大人しくしています。反逆したら殺されると脅された以上大丈夫だと思います」


「エリーゼにも言ったが、この城が急襲されることがあるかもしれん。用心してくれ」


「わかりました。妊娠中も魔法の鍛錬は欠かしておりませんでした。いつでも戦えます」


「無理はさせたくないが、その時は覚悟しておいてくれ。それじゃあ人魔王国に戻って対策を考えるよ」


「またきてくださいね、カイン様」


俺は転移の魔法で人魔王国へ飛んだ。





********************





「そうか、エリーゼもユリアも元気そうだったか」


エキドナは眠っているアモスを優しい眼差しで見つめながら答えた。


「できれば今は親子の時間を大切にしたいが、アスモデウス様が何をしてくるのかわからない。落ち着いていられないな」


「仕方あるまい。父上は千年以上前の現役魔王だった頃は、人間に何度も魔物を送り大変混乱させていたらしいぞ」


「人間界には500年前のエキドナの襲来のことしか記録に残っていない。大昔はそんなことになっていたんだな」


「父上が操る魔物の数も限度がある。王国、帝国、人魔王国の3か所同時攻めは無いとは思うがの」


「王国も帝国も近衛騎士団がいるからそう簡単には負けないだろう。一番手薄なのはここ人魔王国だな」


「カインは人魔帝国が急襲されると予想しておるのか?」


「わからない。急襲されるとしたらここが一番もろいからな。ただ急襲以外の手を使ってくるかもしれない」


俺とエキドナは終わらない問答を繰り返す。アスモデウスが何をしてくるのかで頭がいっぱいになり、怯えて過ごすのであった。

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