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第15話 新しい国

「カイン大変だ。妾の父上から魔王の座を返上しろとの連絡が来た」


その日の魔物討伐を終え魔王城に帰ると、慌てた様子でエキドナが伝えてきた。


「エキドナ様の父親?ご存命でしたか。どこにいらっしゃるのですか?」


「父上は前魔王アスモデウスだ。千年前に妾に魔王の座を譲ってから、魔王城のさらに北で隠居していた。今日転移の魔法で突然現れ、魔王の座を返上しろと言ってきた」


「なんでそんなことを?」


「妾は魔王として世界を進化させるため、混沌の世界にしようとしていたことは前に言ったな。その妾が魔王の義務を放棄して、カインとねんごろしているのがばれてしまったようだ」


「他には何を言っていたのですか?」


「1年後、魔王の座を返上してもらうためにこの城に再び現れると言っていた。そして自らが混沌の世界を作ると言っていた」


「1年ですか…結構猶予ありますね。エキドナ様はどうなさるおつもりですか?」


「父上は1年以内に妾が魔王の義務を果たしていれば、再び隠居生活をすると言っていた。だが今の妾は、魔王の義務よりもカインとともにいたい気持ちが上回っている」


エキドナはそういうと俺に抱きついてきた。


「もう我慢ならん。一緒に風呂に行くぞ」


「エ、エキドナ様。腕を引っ張らなくてもついていきますから」


俺はエキドナと一緒に風呂に入った後、エキドナの私室でたっぷりと求めあった。


「エキドナ様、さきほどの話の続きなんですが」


俺はベッドの隣で横になっているエキドナに話の続きを促した。


「妾は魔王の座を返上するのは仕方なしと思っておる。カインとの今の生活で満ち足りているからな」


「それでは1年以内に混沌の世界を作るという選択はしないということでしょうか?」


「左様。妾の最も叶えたい願いはカインの子を孕み、産み育てることだ。カインは人間だ。早くしないとすぐに老いて死んでしまうからな」


エキドナは潤んだ瞳でまっすぐに俺を見つめている。


「1年後、父上に魔王の座を返上する。その後父上が世界を混沌とするため、争いの火種をしかけてくるであろう。そうなれば妾はカインの子を育てている場合ではなくなる」


「1年以内に魔王城以外でエキドナ様が住む場所を確保しなければなりませんね」


「妾の住む場所は王国も帝国も嫌だ。魔王とばれれば人間の敵として見られ、子育てどころではなくなる」


「魔王城以外でエキドナ様が安寧に生活できる場所がありませんね。それならば新たに国を作りましょう」


「新たな国?どこに作るつもりだ?」


「王国と帝国の間は徒歩で3日かかる距離です。王国と帝国の中間地点に新たな国を作りましょう。王国と帝国を繋ぐ新たな拠点として、経済活動も捗ると思います。城や他の家などは俺の土魔法で作れます。エキドナ様は土魔法は使えますか?」


「使えるぞ。聖魔法以外ならなんでも使える。妾も国作りのために汗を流すとしようかの」


「幸い、王国も帝国も復興作業は一段落して落ち着いています。国作りのための人手は金で集められるでしょう。目標は1年以内に城と城下町を作ることです」


「魔王である妾が、平和に過ごすために国作りとは魔王失格だな。それでもカインとともに過ごす幸せな時間には変えられない」


「エリーゼとユリアには俺から話しておきます。戦後処理は彼女らに任せておけば大丈夫でしょう」


こうして俺は3日に2日は国作りのため、エキドナとともに土魔法を使いまくって城を作り始めた。金で雇った人手は民家や店、水回り、畑作りをしてもらった。ちなみに残りの1日は、いつも通り金稼ぎのために魔物討伐である。


「エキドナ様、国作りは今のところ順調です」


国作りを初めて3カ月、俺とエキドナが城作りに、他の人手の協力もあって国としての形ができてきた。城の大きさは王国城や帝国城、魔王城と比べると小さいが、大勢で住むわけでもないしこんなもんでいいだろう。


「そうか、ううっ」


エキドナが突然苦しみだし吐いた。


「大丈夫ですか、エキドナ様!」


「どうやらできたようだの」


「えっ、なにがですか」


「お主の子を孕んだという意味だ。もう2ケ月生理が来ていない。つわりが来た以上間違いあるまい」


「俺の子が…」


突然のエキドナの妊娠宣言に驚く俺。父親になる、その実感はまだ無い。


「おめでとうございます!エキドナ様」


「褒めてくれるのか、ありがとうカイン。立派な子を産むから任せておけ。しかし今の体調だと城作りは難しそうだな」


「城作りは俺に任せてください。城の外観はすでにできてますし、家具さえ運べば今からでも住めます。エキドナ様は子を産むまで転移の魔法は使わないでください。子に悪い影響があるかもしれませんから」


「わかった。頼んだぞ、カイン」


俺は急いで魔王城と新しい国を往復し、魔王城にあるエキドナの私室の家具を空間魔法で回収し、新しい国の城へ移動させた。


「これで新しい城に住めます。魔王城の魔物兵に声をかけてきますので、手を上げた魔物兵はこちらに移動させましょう」


俺は主のいない魔物城にいる魔物兵たちを集め、新たな国に雇いたいことを伝えた。その結果、約半数が手を上げてくれた。すぐに転移の魔法で移動させ、新しい国の城で働かせる。


「これで身の回りのことは魔物兵がやってくれます。エキドナ様は容体が安定するまで休んでてください」


「すまんの、カイン。言葉に甘えさせてもらおう」


俺はエキドナが妊娠したことを伝えるため、転移の魔法で王国と帝国に飛んだ。そこで重大な発言を聞くことになる。


「妊娠したみたいですわ」


「赤ちゃんができたみたいです」


なんとエリーゼとユリアからも妊娠宣言をされてしまった。2人とも2か月前から生理がなく、つわりが始まったという。驚きの3人同時妊娠だ。まあやることはやってるわけだから、できるのは時間の問題であったが。


エリーゼとユリアは、戦後処理を信頼できる部下に任せて休むこととなった。


「俺が父親か、感慨深いな。とにかく今は国作りに集中しないとな」


俺は新しい国の城作りを精力的に行った。他の人手のおかげで城以外の建物や水回り、畑も次々と出来上がっている。3人の妊娠が発覚してから3カ月が経ち、彼女らは妊娠安定期に入った。


「体調がよくなったでな。妾も城作りを手伝おう」


大きくなったお腹をさすりながらエキドナが復帰した。


「エキドナ様!無理はしないでください。もしお腹の子に何かあったら…」


「カインは優しいの。安定期に入ったから大丈夫だ。あと数カ月は無理しない範囲で働けるから力になれるぞ」


ちなみにエリーゼとユリアも安定期に入ったため、政務に復帰している。3日に1度しか会えないが、2人ともお腹が大きくなっていくのを嬉しそうに話してくれる。


「ここが新しい国ですか。ここで商いをしたいのですが」


新しい国は王国と帝国の中間地点にあるため、王国帝国間を行き来する隊商が通る。今回初めて商いをしたいとの申し出があった。初めは宿屋、次に酒場など次々と商人が集まり、形だけだった国は人を受け入れて国として始まりを迎えていた。エリーゼとユリアに頼んで、新しい国に移住したい人を募ったりもした。条件は畑を耕すことができる農民である。


「ついに完成したぞ!」


新しい国を作り始めて10ヵ月、ついに完成した。城に店、井戸などの水回りも完璧だ。畑を耕す農民も次々と移住してきた。商いをする商人も大勢いる。


「やったなカイン。あとは妾が子供を無事産むだけだな」


エキドナたちは妊娠9か月目に入り、すっかりお腹が大きくなっていた。


「あと1カ月くらいで俺が父親ですか。まだ実感がわきませんね」


「産めば嫌でも実感することだろう。子供の顔が楽しみだの。ところでカイン」


「なんでしょうか、エキドナ様」


「新しい国が完成したんだ。そろそろ国に名前を付けたらどうだ?」


確かにそうだ、いつまでも新しい国呼ばわりしているわけもいかない。


「それじゃあ人魔王国という名前にしましょう。人間と魔物が共存する国だからそう名付けます」


実際にこの国はすでに魔物と人間が共存している。城は魔物兵が働いているし、城下町は人間が働いている。移住してきた人間たちは城の魔物兵に最初は驚いていたが、人間に敵意が無いことを知るとあっさりと馴染んでくれた。


「人魔王国か、その初代王がカインというわけだな」


人魔王国の歴史が始まった。そして約1カ月後、俺はついに父親になるのであった。

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