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第12話 混沌の世界

「ううっ、ここはどこだ?」


俺が皇帝に負わせた怪我を回復魔法で癒すと、皇帝は目を覚ました。


「お父様、ここは魔王城の地下牢です」


俺の隣に立っているユリアが答える。


「ユリア?なぜおまえが…。何がどうなっているのだ?」


「お父様はカイン様との戦いに敗れ、捕虜として魔王城まで連れてこられたのです」


「ユリア、おまえも捕虜にされたのではないのか?なぜ牢の外側でカインの隣にいる?」


「いいえ、私は捕虜ではありません。私は自分の意思でカイン様についてきました」


「何を言っているのだ?」


「私は自分の欲求を叶えようとし、カイン様を追いつめてしまいました。その償いをしなければなりません」


ユリアはそういうと皇帝に背を向ける。


「行きましょうカイン様、お父様を殺さないでくれてありがとうございました」


俺とユリアは皇帝の喚き声を聞きながら、地下牢の間を出て玉座の間へ移動した。


「もう親子の対面は済んだのかえ?」


玉座に座るエキドナはユリアに話しかける。


「はい、生きているだけで十分ですから」


「ほほほ、強かな女よの」


「ユリア様、本当に良いのですか。俺についてきてしまって。俺は魔王の側近として人間の敵になったのですよ」


「良いのです。カイン様、お父様が捕虜になった以上帝国は終わりです。私も皇女ではなくただのユリアとして扱ってください。様付けも敬語も不要です」


「わかったよ、ユリア。俺についてくるということは俺と同じく魔王の手先となるんだぞ?」


「覚悟の上です。私はカイン様に私自身全てを差し上げると約束しました。あなたの意のままに使ってください」


「そういうわけです、エキドナ様。ユリアも俺たちの仲間として迎えていただけないでしょうか」


「妾は構わぬぞ。ここ千年ずっと話し相手もおらずひとりぼっちだったのだ。賑やかになって良いではないか」


魔王城には人型の魔物兵がたくさんいる。この玉座の間も魔物兵が守っている。地下牢の皇帝の世話も行ってくれる。そういった魔物兵はエキドナから一方的に命令するだけで話し相手としては見てないのだろう。


「エキドナ様、帝国に続いて王国も攻めましょう。国王は戦闘はできませんが、リシャール近衛騎士団長が強敵です。また協力をお願いします」


「妾に任せておけ、早速行こうではないか」


エキドナが俺に腕を絡ませてくる。


「わ、私も!」


ユリアも負けじと俺に腕を絡ませてきた。


「危険だユリア、君は留守番だ。すぐに戻ってくるから待っててくれ」


俺はユリアの目をじっと見つめた。


「わかりました。お気をつけて」


ユリアは俺の腕から体を離した。俺とエキドナは転移の魔法で王国の玉座の間へ飛んだ。


「な、なんだおまえたちは!」


王国の玉座の間、その玉座に国王が座っていた。周りの兵たちも突然現れた俺たちに驚いている。


「カイン!どうしてここへ?転移の魔法を使って来たのか?」


リシャール団長が俺に近づいてくる。


「エキドナ様、お願いします。リシャール団長の相手は俺がします」


エキドナの闇魔法でリシャール団長以外が漆黒の闇に包まれ苦しみだす。


「なんのつもりだカイン!」


「勝負です、リシャール団長!」


俺は抜刀してリシャール団長に斬りかかる。リシャール団長はそれを見切ってかわす。


「カイン、お前を殺したくない!やめてくれ!」


リシャール団長は攻撃してこない。ひたすら俺の攻撃をかわしていく。


「リシャール団長、覚悟を決めてください。俺と本気で戦ってください!」


俺は瞬間移動の魔法でリシャール団長の背後に回り、斬りつけた。しかしそれを知っていたかのようにリシャール団長は振り返って剣で受け止めた。


「瞬間移動の魔法と剣の組み合わせはお前の得意技だったなカイン!こうなれば仕方ない、本気で行くぞ!」


本気で戦いあう俺とリシャール団長。この戦いはかつて王国で模擬戦をやった以来だ。あの頃は勝率は半々だった。それくらいリシャール団長は強かった。俺は久しぶりに本気で戦える相手と巡り合えて高揚していた。


「やりますね、リシャール団長」


「カイン、おまえもな」


俺たちは笑いながら斬りあっている。周りから見たら不気味な光景だろう。それくらい俺たちは本気の戦いを楽しんでいた。


「賊はどこですの…ってカイン!そこにいるのはカインですのね!」


武装したエリーゼが玉座の間に乱入してきた。俺は一瞬気を抜いてしまい、リシャール団長の重い一撃をくらってしまう。左腕から鮮血が溢れる。


「カイン!」


こちらに突撃してきたエリーゼはリシャール団長に斬りかかった。


「な、なぜです?エリーゼ様!」


リシャールは困惑しながらエリーゼの剣を受け止める。


「今だ!」


俺はリシャール団長の背後をとり、後頭部を剣の柄で思い切り殴った。


「ぐはっ」


リシャール団長は昏倒した。


「カイン!」


エリーゼが俺に向かって突撃してくる。攻撃されるかと思い身構えたが、エリーゼは剣をしまい、俺に抱きついてきた。


「カイン!もう離れませんわ!私を置いていくなんて絶対に許しませんことよ!」


「エ、エリーゼ…」


「ほっほっほ、もてる男は辛いよの。国王も殺さず連れて帰るのかえ?」


エキドナが国王を見ながら俺に話しかける。国王は既に気絶している。


「はい、エキドナ様。帰りましょう」


俺は自分とリシャール団長に回復魔法をかけた後、エキドナ、エリーゼ、国王を連れて転移の魔法で魔王城へ戻った。


王国の玉座の間には気絶した兵士だらけの惨状であった。





********************





「儂はいったい…」


国王が目を覚ました。そこは魔王城の地下牢だ。皇帝と相部屋だ。


「貴様もやられたか、国王」


「お、お前は皇帝!エリーゼ、これはどういうことだ!」


牢の外側にいるエリーゼに国王は動揺しながら話しかける。


「お父様、誰であろうと私とカインの仲を引き裂くことはできませんの。そこで反省していると良いですわ」


エリーゼは隣に立つ俺の方を向く。


「カイン、行きますわよ」


「わかってるよ、引っ張らなくても」


エリーゼは国王のことを案ずる様子もなく玉座の間へ行こうとする。俺は腕を引っ張られながらついていった。


「もう良いのかえ?ユリアの時よりも短い親子の対面だったの」


「カインが王国を追放されてからお父様とは口を聞いていませんでしたわ。カインに城に連れ戻された時もですわ。ずっとカインが迎えに来るのを待っていましたの。お父様なんてどうでもいいですわ」


「ほっほっほ、怖い女じゃ…」


エキドナは呆れた様子でエリーゼを見ていた。


「お久しぶりですね、ユリアさん」


「私よりも先にカインと一緒にいるなんてずるいですわユリア皇女」


「もう帝国は終わりですから私はただのユリアです。皇女呼ばわりはもうしないでください」


「わかりましたわ、ユリア。ところで…」


エリーゼが俺の方を見る。


「国王がいなくなった王国、皇帝がいなくなった帝国。今頃は大陸中大混乱ですわね。カインはこれから何をしたいんですの?」


「エキドナ様は混沌の世界をお望みだ。人間たちがこれからどうするのかしばらく様子を見ようと思う」


「王国はお父様が戻られるのを待つか、お兄様を国王に擁立するか。きっと意見が割れると思いますわ」


「帝国も同じです。私にも兄がいます。王国と同様意見が割れると思います」


「ほっほっほ、これから始まる混沌の世界。見ものじゃの」


エキドナは妖艶な笑みを浮かべていた。

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