第11話 魔王の側近
転移の魔法でマルディール城へエリーゼを送り届けた俺は、再び転移の魔法を使ってひとり北の森の前に来ていた。俺はもう王国にも帝国にも居場所が無い。エリーゼを巻き込みたくなくてエリーゼを置いてきたのだ。
「これからどうすればいいんだ?どこへ行けばいいんだ?」
王国と帝国の両国間の北にある森には多くの魔物が住んでいる。奥へ行くほど強い魔物が出現する。さらに奥に行くと魔王がいる土地があると言われているが、実際に行って帰ってきたものはいないらしい。俺はひたすら森の奥を目指していた。なんのために?魔王に会うために?わからない。とにかく俺は自分の居場所を求めていた。
「誰でもいい、誰かいないのか?」
俺は森の奥へ進みながらいるはずもない人を探していた。偶然冒険者に出くわしたところで帰る場所なんてないのに。森を進むといろんな魔物が襲い掛かってきたが、全て返り討ちにして死体を空間魔法で異空間へ飛ばした。
「もう買い取ってくれるギルドには行けないのにな」
俺は習慣となっていた魔物の死体の回収をしながら、ひとり力なく笑った。歩き疲れた俺は休憩するべく異空間から机と椅子、料理を異空間から取り出した。
「ギルドカードは没収されたけど、これらは返せなかったな」
ひとりで食事をとるなんていつ以来だろう。俺はエリーゼたちと食事をする風景を懐かしんでいた。食料の備蓄は大量にあるし、無くなっても魔物を解体して肉を焼いて食えばいい。水は水魔法で出すことができる。餓死することは無さそうだ。俺は空になった皿と机と椅子を異空間に送って再び歩き始めた。そうして3日が経った。
『こんなところでひとり何をしておる?』
背後から声をかけられ俺は身を構える。そこにはかつて帝国で見た黒い影の魔王がいた。
「おまえは魔王!」
俺は剣を構えた。
『武器をしまえ。妾はお主と戦うつもりは無い』
「なんだと?」
『たしかカインだったな。仲間はどうした?どうしてこんな奥までひとりで来たのだ』
「それは…」
『妾に話してみよ。吐き出せば楽になるかもしれんぞ』
俺は魔王相手に何をしているのだろう。誰かと話したくておかしくなってしまったのだろうか。王国での出来事、帝国での出来事を全て魔王に話した。両国で国外追放されて行くあてもなくさまよっていたことを。
『お主は手練れのようだが相当な女難よの。国王や皇帝に恨みはあるか?』
恨みは無いと言えばうそになる。俺は王国のために尽くしてきた。それなのに国外追放された。俺は帝国の欲する強者になった。それなのに国外追放された。
「全ては平民である自分の出自が悪い。高貴な身分のエリーゼやユリアに好かれてしまったのが原因だ」
『人間は身分などと言って区別するなどくだらぬことをしておるな。弱者が強者に従う魔物の方がよっぽどましだぞ』
王族皇族貴族平民、生まれなんて選べないのにどうして区別されるのだろう。人間は実にくだらないことをする。魔王の言う通りだった。
『くだらぬ制度など壊してしまえ。お主にはその力がある。妾が協力してやろう。妾の側近にしてやろう』
「わかりました。魔王エキドナ様」
俺はこうして居場所を得ることができた。魔王の側近として。
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エキドナは俺を連れて転移の魔法を使い、魔王城まで移動してきた。城内は妖しい雰囲気に包まれている。
「妾の城へようこそ、カイン。歓迎するぞ」
城に着くなりエキドナは黒い影から実体を現した。セミロングのウェーブがかった銀髪に赤い瞳、豊満でセクシーな体形をしている美女であった。
「ここは、森の奥にあると言われている魔王が住む土地ですか?」
「人間どもがなんと言ってるか知らぬが、妾は千年も前からここで暮らしておるぞ」
「なんでも、数百年前に人間を攻めた時があったそうですね。その時は人間側に追い払われたとか」
「そんなこともあったな。あの時は人間側は争いもなく停滞していた。世界を進化させるためには混沌の世界にする必要がある。そのため妾は人間を攻めたのだ。もともと滅ぼすつもりは無く、一通り暴れて帰っただけだがな」
「混沌の世界?」
「混沌は秩序とは対をなす意味を持つ。人間が争ってこそ生まれるのが混沌の世界だ。妾が攻めた後の人間界を見よ。王国と帝国に分かれて争い始めたではないか。これこそが人間が本来持つ暴力の欲求だ」
「世界を進化させるとは?」
「先ほども言ったが、魔物は弱者が強者に従う世界だ。世界を進化させるとは、人間界も魔物と同様強者が君臨する世界にしたいということだ」
「エキドナ様は俺に協力してくれるとおっしゃいました。俺が人間界の強者として君臨できるよう協力してくださいますか?」
「もちろんだ。カインがそのような行動をとれば人間界は大変混乱し、混沌の世界になることだろう。お主にはその力がある、見ものだな」
「いくら俺が強いと言っても大軍を相手にするのは無謀です。転移の魔法で玉座の間まで飛びます。その時にエキドナ様の協力をお願いしたいです」
「良かろう。王国と帝国、どちらから先に攻めるのだ?」
「帝国は王国を滅ぼしたがっています。王国を先に滅ぼしてしまったら帝国が横取りにくるかもしれません。先に帝国を攻めようかと」
「そうだな。お主を追い出した張本人である皇帝の前に姿を現したら、どんな顔をするであろうな。楽しみよの」
エキドナは妖艶な笑みを浮かべている。その美しさに俺は胸が高鳴った。
「それでは早速ですが帝国に行きましょう。転移の魔法を使います」
「うむ」
エキドナは俺の腕をつかむ…のではなく絡ませてきた。豊かな胸の感触が伝わり、俺はドキドキした。
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帝国の玉座の間、そこには皇帝が座っていた。突然現れた俺とエキドナの姿を見て周りは騒ぎ出す。
「貴様はカイン!転移の魔法を使ってきたのか。国外追放を命じたはず。その命惜しくはないようだな」
「ほっほっほ、妾のことも忘れんでくれよ」
「その声は魔王か?それが貴様の実体か!なぜ貴様がカインと一緒にいる?」
「妾はカインと共に進むことにした。皇帝よ、貴様の命運もここまでだ」
「人間のくせに魔王側にいるとはなんて奴だ!」
周りの誰かが俺を非難する。
「おまえらが追い出したからこうなったんだろ!」
俺は当然とばかりに反論をする。
「エキドナ様、俺は皇帝と戦います。周りを抑えてください!」
「妾に任せておけ」
エキドナの闇魔法で皇帝以外が漆黒の闇に包まれ苦しみだす。その様子を見て皇帝は慌てている。
「おまえの相手は俺だ!行くぞ!」
俺は剣を構え皇帝に向かって突進をし、袈裟斬りにする。皇帝はそれを剣で受け流す。そして反撃を繰り出す皇帝の剣が俺に襲いかかる。しかし斬ったのは俺の残像だ。
「なんだと!」
俺は瞬間移動の魔法で皇帝の後ろに回り、剣の柄で皇帝の後頭部を思い切り殴った。皇帝はたまらず昏倒した。
「陛下がやられた!」
周りの誰かが悲鳴を上げた。
「カインよ、とどめは刺さんのか?」
「エキドナ様、殺すよりも生かしておけば使い道はあります。皇帝は人質にして連れ帰りましょう」
俺はエキドナと皇帝を連れて魔王城へ転移しようとした。
「待ってください!」
そこに現れたのはユリアだった。俺が護衛していた時の格好である戦闘用のドレスを着ていた。
「私も連れて行ってください!」
「どういうつもりですか、ユリア様」
意外な発言に俺は驚く。
「あなたとの約束を果たせておりません。私はあなたと共に生きたいのです」
「いいでしょう。転移の魔法を使います。俺につかまってください」
俺はエキドナ、ユリア、皇帝を連れて転移の魔法を使い、魔王城へ帰還した。残された人たちは呆然とするばかりであった。




