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第10話 魔王エキドナ

「よくぞ来たカインよ。余が皇帝コーネリアス=ヘルマン=トライアだ」


玉座の間に大勢の人が集まっている。玉座には皇帝、その隣にはユリアがいる。俺の隣にはエリーゼがいる。


「ユリアを護衛して見事Bランク冒険者にしたそうだな。大義であった」


皇帝は俺の方を見てニヤリと笑った。皇帝は大柄な体躯をしており、とても強そうに見えた。


「貴様自身はAランク冒険者になったそうだな。Aランク冒険者は全て帝国が雇うよう働きかけている。断る奴も中にはいるがな。貴様はどうする?」


「帝国に雇われてもいいと思っています。ただ、いくつか質問にお答えしていただけたらと思います」


「構わん。言ってみろ」


「王国とは停戦中ですが帝国は戦争を再開すると言う噂を聞きました。これは本当のことでしょうか?」


俺の問いにより皇帝との戦いが幕を上げた。どこまで答えてくれるだろうか。


「いつ再開するか、それは言えぬ。停戦しているだけで戦争は終わっていない。いつ始まってもおかしくないとだけ言っておく」


「そうですか。こんな噂も聞きました。皇帝は魔王と接触し、魔物を従えて王国を滅ぼそうとしていると。これも本当のことでしょうか?」


周りがどよめく。俺は回りくどいことはしない。正面突破あるのみだ。


「誰がそんなことを…」


皇帝は隣にいるユリアに視線を向けた。ユリアは目を閉じてじっとしている。


『皇帝よ、もう隠すことはできぬぞ。本当のことを言ったらどうだ?』


玉座の間の中央、そこに突然黒い影が現れ言葉をはなった。声を聞くとどうやら女のようだ。


「魔王!余が許可するまで出てくるなと言ったであろう!」


『良いではないか。もうすぐ王国を攻める時が来るのだ。いつまでも隠していても仕方なかろう。妾は魔王エキドナ。魔物を統べるもの』


黒い影は俺の方を振り向く。黒い影の中の二つの赤い目が俺を凝視する。


『妾の望みはただ一つ。人間同士の殺し合いだ。そのため皇帝に協力することにした』


「人間同士の殺し合いだと?」


俺は思わず魔王に問うてしまった。


『左様。停戦は停滞を続けるのみ。世界を進化させるためには、人間が本来持つ暴力の欲求を思う存分振るうことだ。そうすれば秩序を失い混沌の世界が開かれる』


世界を進化させる?混沌の世界?言ってる意味がよくわからない。


「お父様、王国を攻めるのは大陸を統一して平和な世界を作るためでしょう。魔王の力を借りて平和な世界が作れるとは思えません!」


ユリアが皇帝に向かって叫ぶ。皇帝は難しい顔をしている。


「皇帝陛下、俺もユリア様と同意見です。あまりにも危険すぎます。王国を滅ぼしたとしても、その後魔王が裏切って疲弊した帝国を攻めてくるかもしれません」


『ほう、言うではないか小僧。カインと言ったか。人間が魔物を従えようとするのは劇薬を扱うようなもの。危険を承知で妾と手を組むのではないのか皇帝よ』


「むぅ…」


皇帝は黙り込んでしまった。


『妾はこれで退散しよう。妾の力を借りるか否か、よく話し合うことだな』


黒い影は音もなく消えた。玉座の間は静寂に包まれる。


「皇帝陛下、魔王の力を借りてまで王国を滅ぼすのは本当に正しいのでしょうか。魔王を利用するつもりが逆に利用されているのではありませんか?」


「ちょっとカイン。皇帝を煽りすぎじゃありませんの?」


耳元でエリーゼが小声でささやく。


「いいから、俺に任せてくれ」


俺もエリーゼの耳元に小声て答えた。


「王国を滅ぼし大陸を統一するのは帝国の悲願だ。しかし王国を滅ぼすだけの戦力が足らぬ。悩んでいたある晩、突然余の前に奴が現れた。王国を滅ぼしたいなら魔物の力を貸してやろうとな」


皇帝が魔王と接触したのは魔王からの働きかけが原因だったのか。


「余は魔王の提案に乗った。そしたらどうだ、自然発生する魔物の数が増え、民への被害が増えてしまった。これは余の本意ではなかった。だが奴は言った。余に従う魔物を増やすには時間がかかる、その一方で自然発生し民を襲う魔物も増えてしまうとな。余は悩んだ。この選択は本当に正しかったのかと」


「お父様…」


ユリアが悲しそうな表情で皇帝を見つめている。


「カインよ、本当なら魔物の力など借りず貴様のような強者のみで王国を攻め滅ぼしたかったんだがな」


「皇帝陛下、戦争が再開すれば多くの人が死にます。そこに従えたはずの魔物が人間を襲うようなことがあれば、世界は破滅してしまいます。魔王と手を組むのは考え直してくださいませんか?」


俺は皇帝に懇願した。


「そうだな。余は何を焦っていたのだろうか。魔物の力を借りるなど言語道断。魔王とは手を切ろう」


皇帝が折れてくれた。この戦いは俺の勝利で終わった。


「やりましたわね、カイン」


耳元でエリーゼが小声でささやく。


「お父様、ありがとうございます」


ユリアは涙を流しながら皇帝に抱きついた。


「すまぬユリア、心配をかけてしまった」


「お父様、報告しなければならないことがあります」


「なんだ?」


「お父様と魔王が手を組んでいることをカイン様に教えたのは私です。それに加え、お父様が魔王と手を組むのを止めさせたら、報酬として私自身の全てを捧げると約束しました」


「な、なんだと!」


「私はカイン様をお慕いしております。私がカイン様のものになること、承諾してくださいませんか?」


「ならん!ならんぞ!いくらカインがAクラス冒険者の強者とはいえ、どこの馬の骨とも知らぬ平民に皇女を渡すわけにはいかん!」


皇帝は怒りの表情で俺を睨み付ける。


「貴様、自分の身分をわきまえずよくもユリアをたぶらかしてくれたな!」


「お待ちください皇帝陛下、俺はそんなつもりは…」


「黙れ!言い訳など聞く耳持たぬ!ユリアは渡さぬ、今すぐこの国から出ていけ!」


なんてことだ。王国に次いで帝国からも国外追放を言い渡されてしまった。王国にも帝国にも俺の居場所はなくなってしまった。


「カイン行きますわよ!」


エリーゼが俺の手を引っ張って玉座の間から退室する。


「カイン様!」


遠くから聞こえるユリアの叫び声に俺は振り向くことなく別れた。


「カインさん」


玉座の間から出た俺にミゲルが声をかけてきた。


「預かっていた剣はお返しします。しかし、身分証明となる冒険者ギルドカードは没収させていただきます。エリーゼさん、あなたもです」


俺とエリーゼは抵抗もせず、素直にギルドカードをミゲルに渡した。


「私もこんなことをしたくありませんが上からの命令です。ご容赦ください」


「ミゲルさんは悪くありませんから」


俺は力なく答えた。


「帝国城郭の正門まで馬車でお連れいたします」


俺とエリーゼは馬車に揺られている間、一言も発することは無かった。そして正門に到着する。


「カインさん、エリーゼさん、あなた方を皇帝の名のもとに国外追放といたします」


俺たちは帝国の外まで歩いて出て行った。


「これからどうするんですの?」


エリーゼからの問いに答えようがない。王国にも帝国にも俺の居場所はないのだから。そして俺はやるべきことを決めた。


「エリーゼ」


俺はエリーゼを抱きしめてキスをした。


「えっ?」


エリーゼは俺にされるがままキスを続けた。そして空間がゆがむ。


「んっ…ここは私の部屋?」


俺から唇を話したエリーゼは周りが変化していたことに気付く。


「転移の魔法を使ったんだ。さようならエリーゼ」


俺は再び転移の魔法を使った。


「カイン!」


エリーゼの叫び声を聞きながら俺はこの場から消え去った。


「カイン!」


エリーゼの泣き声がいつまでも響いていた。

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