表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Real~Beginning of the unreal〜  作者: 美味いもん食いてぇ
第3章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/1049

36話

 

 ――「凄い量ですね、」


 ノックに鍵を開け、佐藤は彼等の姿に目を見張る。


 階段の下に物資を下ろし終え、


「俺まだ用事あるんで、」


 東条はもう一度扉を出ようとする。


「用事?」


「ズボン欲しいんですよ」


「「「あぁ……」」」


 その切なる願いに同情せざるを得ない二人。


「分かった。俺も行こう」


「了解っす。次行くとこちょっとヤバいかもしれない場所なんで、筒香さんもリュックは二つまででお願いします」


「葵獅でいいぞ。何処に行くんだ?」


「八階です。奥のレストラン街にモンスターが(たむろ)してるかもしれません。様子見ておきたいし、スポーツ用品店もその階なんすよね」


「分かった。慎重に行こう」


 再び中へ入った。



 ――「……見えます?」


「あぁ、あれはヤバいな」


 一番端の階段を下り、徐々に目的地へと近づく二人。以前より強化された彼等の視力は、ずっと奥に見える悍ましい光景を捕えていた。


 緑色の身体が蠢き、レストラン街を埋め尽くしている。ここから見えるだけでも、数は優に四十を超えている。


 東条は感じていた。その中にヤバいのが複数いる。数は分からないが、恐らく今の自分では勝てない。


「東条、急ごう」


 気付けば、握りしめた手が白く変色するほど力を込めていた。葵獅に促され、目についたラックに掛かっている品物を手当たり次第に詰め込む。


 距離は充分に開いているが、音を立てないよう最善の注意を払わずにはいられなかった。



 ――「それじゃぁ、もう一度行ってきます」


 戻ってきた東条はスポーティなズボンを履き、又もや中に行こうとする。緊張に休んでいた葵獅は驚きに顔を上げた。


「な、あそこにか?」


「違います違います、今度は十一階です。俺が今日一番やりたかったのは特訓の試運転なんすよ。あの場所から一番遠い所でやりたいし、運が良ければ実験台もいると思うんで」


「なるほど、紗命の言っていたやつか。……興味がある」


「それじゃ、」


「あぁ、」


 荷物を手放し軽くなった身体をほぐし、どんな特訓なのかを話し合う二人。


「……アグレッシブな方達だなぁ」


 再び嬉々として出ていく彼等を、佐藤は呆れ半分尊敬半分といった目で見送った。



 十一階に到着した彼等は、物陰から三匹のゴブリンを見ていた。


「基本スリーマンセルなのか」


「多分そうっすね」


「どうする?」


「俺が殺ります。見てもらった方が早いんで、」


「分かった」


 東条は一度深呼吸し、身体中に魔力を循環させる。


「……行きます」


 クラウチングの姿勢を取り、眼前を見据えた。


「あぁ、――っ‼」


 葵獅は彼の姿を追い、急いで視線をスライドさせる。目の当たりにしたその初速は、凡そ人間の出せる限界値を軽く超えていた。


「――ッハハっ、」


 走る上で感じたことのない速さで景色が流れる。


 ヒュゴゥッ、と風を切る中、迫るゴブリンが驚きに目を見開き、咄嗟に武器を構えようとするが、


「ッ!?グギぇ――」


 遅い。勢いに任せて喉を掻っ切り、そのまま直線上にいる一体に突っ込む。


「グゲェッ‼」「ゲアッ‼」


 二体がそれぞれ、正面、右斜め後ろから殴りかかってくる。


 跳躍し棍棒を振り被ったゴブリンを前に、武器を持ち替え、走行からステップを踏み投球のフォームに移す、


「フッ‼」


 ぶん投げたフライパンが棍棒と衝突、へし折り、ゴブリンの顔面を陥没させた。


 すぐに反転。跳躍寸前の三体目をあえて待ち、包丁を右手に持ち替え、漆黒を出し空中で受け止める。と同時に横へ回り込み、脇腹を突き刺し斜め上に切り上げた。


 広がっていく血溜まりの上で藻掻く一体を後に、白目を剥いた陥没ゴブリンへと向かう。


 牛刀を逆手に持ち、喉に突き刺し止めを刺した。



「ふぅ……」


 自分の起こした惨状を前に、軽く息を抜く。


 東条が思ったことは一つ、


(……慣れたな)


 血の臭いに。

 肉を貫く、骨を断つ感触に。

 何よりも、生物を殺す恐怖に。


 目の前の光景に何も感じないわけではない。

 只、敵を殺す昂揚感の方が、何倍もデカい。

 うまく戦えた達成感の方が、何倍もデカい。

 自分は今ファンタジーの中にいるという歓喜の方が、何倍もデカい。


 知らぬ内に変わっていく自分を、しかし彼は快く受け入れ、その光景に背を向けた。



「……途轍もないな」


 近づいてくる葵獅が、彼の特訓の成果に舌を巻く。


「あと三十秒が限界ってとこかな。上手くできて良かったですよ」


「動体視力には自信があるんだが……、体感、時速六十前後か?よく身体がついていくな」


「それなんですけど、この魔法使うと、判断、伝達、ブレーキ、身体の機能全てが速さに対応できるようになるんすよ。肉体強化ってより、身体強化の方が合ってますね」


 そう、これこそがこの魔法の真価である。


 筋力向上に留まらず、五感の強化、果てには細胞の活性化や、神経系統にまで、魔力に見合った影響を及ぼす。


 モンスターと戦う上で、必須とも言っていい魔法。


「葵獅さんちょっと俺のこと全力で殴ってみて下さい」


「……大丈夫なんだろうな?」


「えぇ」


 両手を広げる東条に狙いを定める。


「ふんッ」

「ぶグっ」


 顔面にクリーンヒットした拳はそのまま彼を押し飛ばした。


「いや、顔面て。躊躇なさすぎでしょ」


 倒れた先でむくりと起き上がる。


「む、すまん。……凄いな、防護性もあるのか。固い粘土を殴った様だ」


「俺の魔力が葵獅さんの魔力を上回った証拠ですよ。

 普段なら今のところ差は筋力で埋められると思いますけど、ここまで開くと傷すら負わせられなくなるんです。

 自身の魔力量は、そのまま物理的な鎧と思ってもらって間違いないです」


 彼は、これが自衛隊が手こずっていた銃の効かないモンスターの秘密だと考えていた。


 要するに、魔力に対抗できるのは魔力しかないのだ。


「紗命の言っていた通り、勉強になることが多いな」


「そうっすか?照れますね」


「……不躾ではあるが、その技、教えてはくれないか?」


「勿論ですよ。てかその為についてきたんじゃないんですか?」


「ハハハっ、そうだな。断られたら見て盗もうと思ってたが、これは無理だ。是非ご教授願う」


 頭を下げる葵獅には、格闘家らしい潔さが見て取れる。


「交換と言っちゃなんですけど、俺にも格闘術教えてくれませんかね?ずっと頼もうと思ってたんです」


「勿論だ。ならば今日からは互いに師だ、敬語はいらないぞ?」


「……慣れねーけど、了解」


 獰猛に口角を上げる二人。


「おっしゃ。気張ってこうぜ」


「おう」


 心の底に戦闘慾を持つ者同士、彼等は互いに通ずるものを感じ合った。



見えぬ敵。

身体強化。

通じ合う二人。


面白いと感じたら、評価とブックマークをお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ