11話
「っ何や?」
壁を伝う地鳴りの振動に、ボスとダラスは動きを止める。彼等は今、ボスしか知らない隠しルートである広間へと向かっていた。
そこから伸びているもう一つのトンネルからなら、安全に地上まで出れる。
部下は一人も連れて行かない。真狐に唆され裏切った者がいる以上、最早新旧問わず信用出来る部下はいない。モンスターを使い足止めしろという命令を下し、時間を稼がせているのだ。
「今のは、区域内の方からです」
「チィッ、カオナシかっ。急ぐぞっ、アイツ等には数百匹のモンスター共を向かわせたっ。多少は保つ筈や!」
「はい」
「っクソッ、あのペテン野郎必ず殺すッ!」
ダラスはサングラスの下で眉間に皺を寄せ、重い口を開く。
「……ボス、すみません」
「あ?お前の所為やないやろ!」
「……はい」
二人は逸る気持ち抑えながら、目的地へと走るのだった。
「……」
「……」
そして到着した広間。目当ての裏道を前に、しかしボスは思わずその足を止めてしまった。
「あれか?」
「せや。あれがここのツートップ。部下は見捨てて来たらしいですわ」
「成金みたいな服」
「動き辛そ」
何故ならそのトンネルの前に、最も警戒すべき対象が座っていたのだから。
ボスはコートを地面に叩きつけ、唾を飛ばし吠える。
「――ッッ真狐ォオオッ‼︎何でテメェがここにおるッ⁉︎」
「おお怖、そんな怒らんで下さいよ」
ヘラヘラと笑う真狐に、ボスは冷や汗を垂らす。
どう考えても速すぎる。モンスター共は何をやっている?そもそも、この場所はダラスと自分しか知らない筈。バレるわけが
…………まさか、
「……すみません、ボス」
「なっ」
ボスは自分から距離を取る相棒に、今度こそ放心する。いやまさか、そんな筈がない。何年一緒に過ごしてきたと思ってる?
「おま、嘘やろ?」
「……ボスは覚醒して変わってしまいました。前はカッコよかったんに、今はモンスター弄って喜んどる変態になっちまった。俺は別に、大阪を壊したいなんて思ってないです。それなりに稼げれば良かったんですよ」
「……」
ボスは額に手を当て、項垂れる。
一体いつから、どれだけの人間が自分を裏切っていたのか。もう考えるのも面倒臭い。
やはり最初から、信用出来るのは自分一人なのだ。
……殺す、殺す、全員殺してや
「この紋所が目に入らぬか!」
「……あ?」
静かな空間に響く、場違いな程に明るい声。
顔を上げれば、幼女が嬉しそうに家紋のレプリカを掲げていた。
ただでさえ苛ついているのに、意味の分からない状況にボスは目眩を覚える。
「……何言ってんだテメェ?」
「この紋所が目に入らぬか!」
「……馬鹿か?時代劇ごっこなら他所でやれやクソ――「目に、入らぬか!」っがグァあ⁉︎」
ボッ、と投擲された紋所が、ボスの目玉に直撃し生々しい音をさせる。
「クッソがぁあ痛ぇえ」
片目を潰されたボスの身体から、怒りと共に魔力が立ち上り臨戦態勢に入る。
「やっておしまいなさい!」
「へいへい」
瞬間、
「悪ぃけど抵抗しないでくれ」
「ガっ⁉︎」
一瞬で近付いた東条がボスの顎を蹴り上げ、無理矢理立たせる。流れるように抜刀し、
「お遊びだと思って、付き合ってくれよッ」
「ごォえッッ⁉︎」
逆刃で思いっきり腹を殴った。
ベキボキゴシャッ、
と鈍い音を響かせ、ぶっ飛んだボスは壁にぶち当たり血を吐く。
対する東条はボスが倒れ伏す動きに合わせ反転し、ゆっくりと刀を鞘に収める。まるでテレビの中のワンシーンの様。
「……安心せい、峰打ちじゃ」
捨て台詞も完璧。
少し違うのは、後ろの役者が悶え死にかけている事だけだ。
パチパチと拍手するノエルと真狐に、東条はお辞儀する。そんな彼を見て紫苑は呆れる。
「で、これからどうする?外出る?」
「いや、軍の人達来るだろうし、ここで待ってようぜ」
「助けに行かんでええの?」
「嫌だよ面倒臭い。ノエルは?」
「紋所無くなった。もういい」
「だそうだ。ゆっくりしてようぜ」
「……はぁ」
協力的なのか薄情なのか、二人の行動原理が読めない。紫苑は危機がない事を悟りナイフを仕舞った。
一段落し、東条がダラスに目を向けると、ダラスはゆっくりと両手を上げ無抵抗を示す。
「両手は頭の上、地面に伏せてろ」
「ああ、分かった」
「少しでも魔力の気配感じたら、手足二本ずつ落としてくから」
「あ、ああ」
「うーし」
携帯が使えずカードゲームを始める四人を、壁際で血を吐くボスは充血した目で睨みつける。
何でこんな事になった?何で俺が倒れている?
俺の壮大な計画は、たまたまここを通りがかった奴の暇つぶし感覚で、片付けられていい物じゃないっ。
こんな終わり方であっていい筈がない!
「ヒュー、ヒュー、――っ」
ボスが地面に手をつき、cellを発動。と同時に
「――ッ⁉︎がぁあ⁉︎」
「抵抗すんなって」
その腕が肩口から吹っ飛んだ。投擲された刀が壁面に深々と突き刺さる。
「何?モンスターでも呼んだの?」
「ガハっ、ひひひっ、ああそうやっ。本物の化物を呼び起こしてやったっ!ひひっ、お前ら全員死ぬぞ」
東条は真狐を見る。
「その情報は知らんわ。堪忍や」
「ククっ、当たり前や!誰にも言ってへんからな!」
「とりあえず止血」
「グァああああっ⁉︎」
東条は漆黒を伸ばしボスの肩に押し当て、ジュゥウ、と焼いて血を止める。
「一応紫苑と真狐さんは逃げる準備しといて。ノエル、場所は?」
「……探知圏内にいない。遠い」
「ここよりも更に深い場所とか、それもう封印じゃん」
ボスが玉の汗を流しながらもニヤリと笑う。
(せや、これは封印や。あらゆるモンスターを混合して偶然生まれたアレは、俺ですらまともに制御出来へん程に強力な個体になった。危険過ぎる所為で地下深くで眠らせとったが、もうこうなったらなりふり構って居られへん。全員死ぬか俺だけ生き残るか、賭けや)
「マサ」
ノエルが顔を跳ね上げる。
「コイツ魔力グチャグチャで探知乱される。キモい」
……何か想像よりヤバそうじゃね?
「俺今日そんなに働くつもりなかったんだけど」
東条は刀を壁から抜き、ボスから距離を取ろうとした。その時、足元から微かに地鳴りが響き、
――刹那、地面が弾け飛んだ。
「――ッ⁉︎速す――」
パァンッ!
「マサ!」
「「「――っ⁉︎」」」
何か巨大なモノが地面を食い破り、馬鹿げた速度で広間を通過して行った。
床と天井に空いた大穴から、それが十mを超す巨体だと推測出来る。
それがどんなモンスターであれ、地下数㎞を秒単位でぶち抜く奴がまともである筈がない。
「ノエルっ?」
「マサ追う!」
垂直の穴をジグザグに跳び、ノエルは地上を目指す。
あの巨体と速さ、恐らく素の肉体性能なら自分や『逢魔』ですら敵わない。一体なんてモノ生み出してくれてんだ。
ノエルは地面が弾け飛んだ時に一瞬見えた白いタテガミを思い出し、大きく顔を歪めるのだった。
強敵はいつも突然に。




