30話 5巻最終話
――「おい、キラービー共の数が減ってへんか?」
地下に造られた大きな巣を見上げる、サングラスを掛けたスキンヘッドの男。
「え?見間違いやないすか?アイツ等一万匹くらいいるし」
「……いや、ちゃう。女王がいねぇ」
サングラスは眉間に皺を寄せ、歩き出す。
「ボスに報告するぞ。ついて来い」
「ぅえ〜、絶対怒られるやないすか」
カツカツと歩く二人の進む先には、無数の檻、飼育スペース、地底湖が広がっていた。
檻の隙間から覗く、怪物達の瞳孔。
絶えず響く低い唸り声。
今にも襲いかかってきそうなモンスターの間を、二人は何食わぬ顔で歩いて行く。
サングラスは扉を開け、大広間へと足を踏み入れる。
「グルァァアア‼︎」
「ギシャァアア‼︎」
そこはコロシアム型の闘技場。中心では今正に、二体の歪なモンスターが血みどろになりながら殺し合っていた。
「ギャハハハっ」「やれ!」「殺せ‼︎」――
客席では数十人のギャラリーが罵詈雑言を吐き散らし馬鹿笑いしている。
「うへ〜、また派手にやってるっすね」
「……」
サングラスは客席の一番上、一人殺し合いを静観していた男の前まで行き、お辞儀する。
「ボス、お話が」
派手な金髪、派手な服装、派手なアクセサリーをジャラジャラとつけたその男は、しかし目付きだけは獣の様に鋭く凶悪。
「どうしたよダラス、そないに畏まって」
ボスと呼ばれた男は、立ち上がりダラスに肩を組む。
「お前も見てけよ。今日のは何やったかな、ホブゴブリンとグレイウルフ混ぜた奴とー、あ、グランピードと骨齧り混ぜた奴や!雑魚同士頑張っとるぞ」
ケラケラと笑うボスを、ダラスはサングラスの奥から見つめる。
「キラービーの女王が帰ってきていません」
「…………あ?」
ボスの纏う雰囲気が変わり、ダラスの隣にいた下っ端の肩が跳ねる。
「巣を見てんところ、働き蜂も半分程減っとりました」
「……そうかそうか。……ふぅ」
ダラスの肩に回された腕に、段々と力が籠っていく。
「なぁダラスよ、アイツ等は俺の命令に逆らえへん。日が暮れるまでには、狩りは終わらせろって命令した筈やねん」
「はい」
「やのに何で帰ってきてへん?」
「……殺されたのかと、っ」
「アハハっ、五千匹が、半日で?馬鹿言っちゃいっけねぇよダラス。……あの軍隊作んのに、俺がどんだけ苦労したと思うよ?」
「ぐっ、はい」
「ん?おお済まねぇ!」
苦しそうなダラスに気付き、ボスはパッと腕を離す。
「すまんな、大丈夫か?苦しくなかったか?」
「……はい。大丈夫です」
ボスに気付かれないように、ダラスは堰き止められていた空気を吸い込む。
「しっかし、キラービーがねぇ……」
闘技場の中心では、グランピードと骨齧りの混合種が、敵の死体を掲げ雄叫びを上げている。
それを見たボスは、
「へ?」
ダラスの横にいた下っ端を引っ掴み、闘技場へと飛び降りた。いきなりの事態に、ギャラリーも声を止める。
「ギシャァ」
「ボ、ボス、何を?」
「……いやね、俺今クッソムカついてんやけどさ、ダラスは大事な仲間やさかい」
「ひぃッ」
ボスは逃げ出そうとする下っ端の首を掴み、もう片方の手でモンスターに触れる。
「ッや、やめ「すまんなぁ」
途端、下っ端とモンスターが互いに引き寄せ合い、細胞レベルでグチャグチャと混ざり合ってゆく。
新しい生命の誕生と呼ぶには、あまりにも悍ましく、惨たらしい光景。
「……ぎ、ギェぇ」
出来上がったモンスターは、ボスに向かって数度泣き、その場に倒れ伏した。
「……やっぱり人間と混ぜると、すぐに死んじまうな」
ボスは頭を掻き、辺りを見回す。
「真狐っ、いるか?」
そう呼ぶと、暗がりから狐目の男がヘラヘラと姿を表す。
「はいはい、どしたんボス?」
「何か知っとるか?」
「いやぁ、今日は外でたこ焼き売ってたさかい、キラービーの事は何も」
「なら調べて来てくれ」
「はい〜。明日調べてみるよ」
ボスと真狐が互いに笑い合う。
「……」
「……はぁ、分かったて。今行けばええんでしょ今行けば」
「ハハっ、悪いな。緊急や」
背を向ける真狐に笑いかけ、ボスはモンスターを踏みつけ自室へと戻るのだった。
しばしお待ちを




