5話
――「死体は壁の外に投げ捨てろ。血痕は燃やすか、土ごと抉れ」
「はっ」「はっ」
壁を乗り越えてきたモンスターを銃殺した隊員に、亜門が指示する。
新鮮な血液を残してしまうと、せっかく用意した道にトレントが湧いてしまう。故に後掃除が必須なのだ。
大幅なタイムロスに繋がるように思えるが、ただ、数時間が経過した今、彼等の進行は予定より順調であった。
というのも、
「会敵する数が予想より少ないですね」
「ああ。だがこんなものだろう。五mの壁を越えられるモンスターは、ここ近辺にはあまりいないからな」
亜門は頭部から生えるケモ耳をピクピク動かし、索敵を熟しながら答える。
「我々の事前調査で、港区域は、Lv2相当のモンスターが大半を占めている事が分かっている。そもそも、格上である我々に近づいてくるモノの方が少ない」
隊員も亜門の説明に頷いた。
(……開発部もスゲーもん作ったよなー)
千軸は彼等の話を聞き流しながら、土魔法使いの一人が持つスピードガンの様な装置をチラ見する。
仮称を、『魔素濃度及び含有魔力量想定装置』
大気や水、人体に含まれる魔素濃度を測定できる他、対象に向けることによって、凡その魔力量をレベル別に可視化できるようにした装置だ。
上限はLv7となっており、観測上最大魔力量を誇る千軸をLv5、その五倍までをLv6、その五倍までをLv7と規定している。
Lv1……無害。人間に対して敵意がなく、比較的友好。素手で対処可能。
Ex)湯煙ラッコ ヌムヌム バックリン トレント
Lv2……人間に対して明確な敵意を持つ。現代武器で対処可能。
Ex)グレイウルフ クァール グアナ ゴブリン コボルト ヒュッケバイン(子)
Lv3……魔力を纏い、現代武器での対処が困難となる。
Ex)ダイアウルフ オルトロス オーク ホブゴブリン
Lv4……魔法を使用し、現代武器での対処が不可能となる。大型兵器で対処可能。
Ex)ハイオーク ホブゴブリン強化種 ヒュッケバイン(母)
Lv5……市区町村壊滅級。大型兵器での対処が不可能となる。
Ex)ミノタウロス ミノライノス
Lv6……都市壊滅級。※調整中
Ex)未登録
Lv7……国家壊滅級。※調整中
Ex)未登録
未だ実験段階の域を出ない為、勿論例外は存在する。
魔力を纏った武器であれば、例え家庭用の包丁だろうとLv4に届き得るし、あくまでこのLvは魔力量だけを見た物である。
魔法の使い方次第で、それこそcellを入れてしまえば、危険度に天井がなくなってしまうのだ。
亜門や彦根がLv4に分類されているのも、そのせいである。
因みに、北は青森、南は鹿児島までの危険区域の大気中に含まれる魔素量が、安全区域の五倍や十倍なのに比べ、特区は、比較的安全な南方で三十倍、池袋周辺になると六十倍もの数値が計測されている。
モンスターが緑化地帯から出てこないのは、人が酸素に依存している様に、モンスターは魔素に生命活動を依存しているからだと考えられている。
千軸は没収されたDVDの安否を心配しながら、
(……早く着かねぇかな~)
と、壁をよじ登ろうと顔を出すグレイウルフの眉間を撃ち抜いた。
§
――場所は変わり、明海大学敷地内。
空が茜色に染まる中、戦闘員、一般人問わず、避難民全員が、何かを待つようにそわそわと静けさに身を強張らせていた。
……祈る様に手を組む老人。
……赤子を抱きしめる母親。
彼等彼女等が待つのは、自分達をこの地獄から救い出してくれる、たった一つの希望である。
……そこへ、慌ただしく廊下を走る音が響く。
息切れを起こし涙ぐむ彼は、ドアを開け放ち、叫んだ。
「っ来たぞ‼自衛隊だ‼」
その日初めて、どこかか陰鬱としていた大学が歓声に包まれた。
§
卒業やべぇ。




