52話
「――ッッ⁉」
腹に響くような音が鳴り、瞬間、すぐ隣の機器類がコンクリートごと削れ飛んだ。
遅れて途轍もない破壊音が耳を焼く。
(なッ、んだ⁉)
咄嗟に音の鳴った方を見てみれば、かち割れたガラスの奥、バスローブ姿の二人が立っている。
その内一人が、アンチマテリアルライフルを自分に向けて。
(――っあれを、撃ったのか?人に向けて⁉)
その躊躇いのない狂気に、朧は自身に身体強化(通常)をかけ、迷わず物陰を飛び出した。
彼の姿に東条とノエルも気付く。
「お、いたいた」
「逃がさない」
ノエルが右手を翳す。
対する朧はライフル弾を躱す為、高速でジグザグに走りながら魔力を練る。
そして、
(――っメランジェ)
一瞬にして姿を消した。
「っ透明化かよ。スゲェな」
「追える?」
「愚問」
姿が消えたと言えども、魔力の軌道は必ず残る。
並みの生物なら混乱する技でも、魔力に慣れ親しんだ二人には効果ない。
という事など、朧とて理解している。
(――ッ!落ち着けっ、落ち着けっ!)
彼は屋上を貫き生える無数のうねる植物を躱しながら、cellを発動する。
その変化に、東条が目を凝らした。
「ん?何だ?」
「チっ」
一気に存在が薄くなる朧にノエルは焦り、巨大なハエトリグサを顕現。
屋上を巻き込み、彼の足場ごと捕食した。
しかし瞬間、バチチッと鋭い音が鳴り、植物に青白い線が駆けると同時に一部が焦げて弾け飛ぶ。
電撃。
そう二人が理解するよりも前に、彼は準備を終えていた。
(――ペルフェクシオンッ‼)
ハエトリグサから飛び出した彼の、魔力、気配、全てが消えた。
朧を完全に見失った東条が瞠目する。
「消えた!スゲェ!」
興奮する東条を遠目に、空中で朧はほくそ笑む。
自分の力は、彼等をも欺き得た。それは自分が、魔境の第一線で生存できるということに他ならない。
さっさと帰って大学を出よう。
そう思考を切り替える彼は、……またも彼女の力を読み違えた。
ノエルが大きく腕を広げるのに呼応し、地響きと共に巨人の手が大地から生える。
「……甘い」
朧の浅慮を笑う様に、彼女は思いっ切り両手を組み合わせた。
動き出す腕。
閉じる掌。
「……ははっ」
未だ中空の彼は、迫りくる巨腕を避けることが出来ない。
その威容を、ただただ唖然と眺めていた。
「……蚊って、こんな気分なのかな……」
そんな朧の思いは轟音にかき消され、マンションの上階全てが両手の中に収まった。




