17話
今巻は人とのやり取りが多いからね、情報回はなるべくまとめて出すようにするよ。
――モンスターの種類。
独断と偏見で名付けたモンスターを、動画に乗せて紹介する。
・『ゴブリン』 『ホブゴブリン』 東条を死まで追い詰めた『ゴブリンキング』
・群れを成して狩りをする『グレイウルフ』 そのボス『ダイアウルフ』
・恐らく嘗ての東条の仲間達が戦った、たまに空を飛んでいる黒鳥『ヒュッケバイン』
・東条がまだ彼等と過ごしていた頃から、屋上によく飛来してきた小型の鳥。ノエルの授業にも使われた『チーヴァ』
・同じくよく飛来してきた、カナブンもどき。ノエルの授業にも使われた『ムグラ』
・『オーク』 『ハイオーク』
・大型のムカデ『グランピード』
・黒色の大型猫モンスター『クァール』
・領空を犯した外敵全てを数の暴力で殲滅する、四枚羽の鳥『ユパ』
・そこら中に生え、木、草、蔓、花、様々な形を持つ植物型モンスター『トレント』
・と一緒によく見る、近くを通った者を捕食する植物。ノエルの授業にも使われた『カーニバル』
・風呂好きのキュートな中型生物『湯煙ラッコ』
・東条が女子大にて蹴り殺した大型爬虫類『グアナ』
・牛頭の魔人『ミノタウロス』
・サイ頭の魔人『ミノライノス』
・カバ頭の魔人『ミノポポタマス』
・二頭の犬『オルトロス』
・尾に毒蛇を持つ化け雄鶏『コカトリス』
・単眼の巨人『キュクロプス』
・そして、絶対的な魔力を纏いながらも、害意を持たず、雨や薄霧と共に移動する超自然的生物『ベヒモス』
ベヒモスの姿を見た藜組の面々は、二人の予想通り目を見開いて固まっている。
画面越しでも分かるその威容は、凡そ人類に勝ち目などない事をまざまざと突き付ける。
「……おいおいおい、なんだよこりゃぁ。よく生きて帰ってこれたな」
藜が一息つきソファに凭れる。
「敵意がなかった。だからノエル達も気付かなかった。雨が降ってる場所は彼がいると思っていい」
事実、ノエルの推測は間違っていない。
世界が変わったあの日から、山手線エリアの広範囲は何故か天気に恵まれる。
それは偏に、雨雲が常に一か所に集められているからだ。
雨雲にベヒモスがついていっているのではない。ベヒモスのいるところに雨が降るのだ。
高所から見れば確認できる。移動する暗雲の存在を。
「もし遭遇したらどうする?」
「楽しかった記憶でも愛でるといい」
「はははっ、素直にそうしよう」
諦めて天に任せろ。ノエルをして、そう言うしかない。
「そのベヒモスの動画、一般公開されてなかったけど、コピーしても構わないかい?」
「好きにすればいい。でも国にも売りたいから公表は待ってほしい」
「……俺達が買ったんだから、この情報は俺達の物でもある、って認識で良いんだよな?」
「ん。只のノエルのわがまま。もっとお金欲しい」
彼女はキラキラした目で藜を見つめる。それに反応したのは彼、ではなく、
「ボス!この目を見ろ!勿論そんなことしねぇよな⁉」
既にノエルの手中にある老爺である。
藜は使い物にならないジジイの醜態に溜息を吐いた。
「別に言う気はないさ。情報は独占してこそだ。国がどうするかは知らないけどな」
「ん。感謝」
――魔法について、知り得る情報の相互確認。
「魔法ってやつの理解は、世間一般に出回ってる認識でいいのか?」
「ん。でも安全圏の人達、強力な魔法のこと知らなかった。
多分、内と外で魔素の量が違う。
一定量を取り込んで、それと身体の適性が噛み合った時だけ、魔法が発現する。
その中でも、身体強化魔法より属性魔法の方がレアっぽい。これまさの推測」
「魔素?属性魔法?」
ボー、と聞いていた東条に、一斉に視線が向いた。
「……あ、え、俺っすか?」
彼はずっとノエルが話すもんだと思っていたせいで、慌てて説明を始める。
過去、紗命にした時と同じ様に。
――「なるほど、面白い。でも根拠はあるのかい?」
「はい。前一緒にいた人に魔素が見える人がいまして」
「へぇ、是非会ってみたい」
「……残念ながらもういませんよ」
なるべく暗くならないよう配慮して、明るい声を出す。
しかしそんな嘘は逆に、これ以上踏み込むな、という意思そのものとして伝わった。
「……悪いことを聞いた。謝罪する」
「いえ。構いません」
部屋の中を気まずさが吹き抜け、一瞬だけ静寂が訪れた。
……もきゅもきゅ、とノエルの咀嚼音だけが響く。
「……うちのボスが悪いことをしたね」
「うぇ⁉」
突然紅に肩を組まれ、その豊満なバストを押し付けられた。
感じたことのない大きさと感触に鼻を伸ばしていると、何か怨念めいたものを察知し、バッ、と我に返る。
「その身体強化の極地とやら、見せてはくれないか?」
凛然とした声に少しの甘みを混ぜ、紅が更に距離を縮める。
「ほ、紅さんも使えるじゃないすか」
若干のどもりを発揮しながらも、東条は肩から抜け出そうとするが、しかし、
「使えるには使えるが、やはりかけ直しがネックでな。永続できるならそれに越したことはない」
抜けない。というかビクともしない。
分かってはいたが、この女性、自分より桁違いに魔力が多い。それこそキュクロプスと張り合える程に。
これは最早勝ち目などない、あぁ、仕方ない。
そう、仕方ないのだ。決して自分の意思ではない。
「おや、これは了承してくれた、と判断していいか?」
「ほえにあらはうなほふはのうへふ。スーーハーースーーハーー」
胸に顔を沈め、接地面だけ漆黒を解くという妙技を発揮しながら、全力で感触を楽しむ。
菊模様の悪寒はますます大きくなるが、知らんぷりを貫き通す。
そんな時、脇腹に衝撃が走った。
「…………」
「グっ、ぐぇ、ノエルさんっ、無言で蹴るのはっ、やめて頂きたいっ」
ノエルはゴミを見る目で東条を見下ろしながら、脇腹に蹴りを打ち込み続ける。
「それ、金になったよな?あ?」
「おっしゃるっ、通りっ、ですっ、だがっ、男はっ、おっぱいには勝てない!げふっ」
可愛い声でドスの効いた口調を再現する彼女に、老爺はデレデレ、東条はビクビク。
見かねた紅がその足を受け止めた。
「それくらいで許してやれノエル殿。男とはそういうものだ」
自分でやっておいて何を、とノエルは紅に半眼を向けるも、やはり全面的に東条が悪いと考え直す。
「……度し難い」
「そこが男のいいとこさ。……さて、見せてもらおうか?」
紅は胸の中で深呼吸を続ける東条を引きはがす。
「喜んで」
精神的にも充足した彼は、今までで最速、最高精度の身体強化を披露して見せるのだった。
――cell
「あとはそうだな、君達のcellについては?」
「却下」
藜の質問をノエルが一刀両断する。
「当たり前だな。じゃあ他のcellに関する動画とかないかい?」
「ない、ことはないけど……」
彼女は一瞬躊躇い、ちらりと東条を見る。
「大丈夫だと思うぞ。あの動画はこういう人達の方がすんなり受け入れてくれるもんだ」
ノエルも、確かにその通りではあると思うのだが……、
「何だ?そんなことを言われたら気になるな。ほれほれ」
「俺は、俺はもう屈しないっ」
未だ胸に拘束される相棒はあのざまである。
(……ダメ。今のまさは思考力がミジンコ以下になってる。ノエルが考えなきゃ)
下半身に脳のいった仲間を切り捨て、ノエルは例の動画を渡した際のメリットとデメリットを考える。
その様子を、藜は興味深げに見ていた。
「その動画を見せてくれるなら、君達のつける制約を全て呑むよ?」
「……高くつく」
「構わない」
金なら幾らでも払う。そう言い切る藜にノエルも決意する。
はなから売る為に撮った動画だ。彼等に売れないのなら、今後も自分は躊躇ってしまうだろうと考えた。
「別料金で三億。口外禁止。それと、ノエル達は悪くないというのを前提で見て欲しい」
思ったより少ない要求に、藜は拍子抜けする。
「……確かに高いが、それだけで良いのかい?」
「いい」
「……そうかい。それじゃあ見せてくれ、君達が渋る動画を」
ウキウキと催促する藜を横に、ノエルは例の、快人との戦いを収めたSDカードを取り出した。
――見終わった三人は、一度ソファに深く腰かけ、視線で説明を求める。
「……何?」
ノエルは自分に向けられる視線に気づき、首を傾げた。
「いやいやいや、説明なしじゃ理解できないよこれは」
藜は今見た物を思い出す。
突然攻撃してきた男が何か喚き散らし、返り討ちにあい、突然苦しんで血を吐き死んだ。
何をどう解釈すれば正解なのだろうか?甚だ見当がつかない。
そこで、何かを思い出したように老爺が手を叩いた。
「この男、動画で恥晒した奴じゃねぇか?」
血を吹き出す場面で停止されたスクリーンを指さす。
「……あぁ、いたなぁそんな奴」
藜も思い出した。確か二人に拠点の全貌を晒され、動画内でボロクソに叩かれていた男だ。
「つまるところ、復讐的な何かか?」
「ん」
その答えに紅が鼻を鳴らし、藜がせせら笑った。
「バカだねぇ。後ろめたい事してる自覚あるなら、さっさと切り捨てればいいのに。
……ま、俺達がそれを言っちゃいけないか」
彼のドライな意見こそ、東条とノエルが持つものと同じだ。
一先ず二人は、快人に同情する者がいないことに安心した。
「で、何で死んだんだ?ノエルは殺してないんだろ?」
「ん。
……Cellは、自分の中にある概念的何かが、具現化した物だと思ってる」
「へぇ」
「cellは自分自身であり、自分の本性。無理矢理引き出そうとすれば、表面だけの存在なんて呑まれるだけ」
言うなればそれは、個の崩壊に他ならない。
物質的に言う、死と同義。
「……呑まれたら皆こうなるってか?」
「こいつのcellは恐らく感覚強化系。暴走した情報量に脳が追いつかなかった結果。だと思う」
「なるほどね……」
藜は理解する。要するに、無理なご使用はお止め下さいということだ。
それを破れば、能力に応じた死に方があなたを襲います、と……。
彼は自分の左足をちらりと見て、薄笑いを浮かべた。
「大体分かった。三億の価値も、おいそれと見せたくない理由も」
「ん」




