表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/40

第二四話 難関な父

 私は今、どうしようもなく困っている。


「レイク、お兄ちゃんだぞー」

「あー!」

「あはは、レイクはやっぱり可愛いなぁ」

「あーい!」


 赤毛の幼い少年は私の頬を軽く突く。

 私自身としては、内心ポーカーフェイスを保っていなければ冷や汗が顔面から滝レベルで出ている。赤ん坊だからか、彼は私の頬の柔らかさを堪能しているのだろう。

 その少年は一体誰かって? それはもちろん。


 ――……攻略対象キャラでもあり、レムの兄であるアイザックご本人様だ。


 ゲーム本編でも、外伝小説でもこんな泥甘と評してもいいほどの鼻を伸ばした顔に突っ込みを入れたくなる自分がいるわけで。いや、しないと無理なわけで! 

 というか、鼻を伸ばしたって言ってもイケメンが維持されている程度なのは乙女ゲーとして必死なわけだけども、だとしてもだ。明らかに彼の様子はおかしい。

 ゲーム本編で、こんなスチルの場面なんて、一度も見たことがないのに。


「ふふふ、このこのぉ」

「うー!」

「あはは、レイクは拗ねた顔も可愛い」


 ……レムとアイザックの年齢差は5歳ほどだ。

 だからゲーム本編ではフィリーネがある選択肢を選ぶことで彼の攻略ルートが提示される。

 基本的にゲーム本編では好感度確認用のキャラな彼だけど、彼がこんな表情を見せているのは、本編も外伝でも見たことがない姿だ。

 いや、フィリーネの時もカッコいいスパダリお兄様のはずなのに。

 ……ちょっと、空吾が頭の中で考えていた裏設定資料集を見せられている気分だ。


「あはは……お父様はいつ帰ってくるんだろう」

「うー?」

「ああ、ごめんね。レイク。最近、お父様は仕事で忙しいみたいで、中々帰ってこれてないんだ。はやくレイクも会いたいよな」

「うぅ」

「大丈夫? って? ……レイクはいい子だなぁ」


 アイザックはレークヴェイムの頭を優しい手つきで撫でる。

 私は軽く頷くとアイザックは少しほっとしたのか、不安も滲ませた目を少し伏せる。

 会いたくないです、と素直に直接言いたいけどここは我慢だ。

 少なくとも、ゲーム本編外の知識は今の私じゃなければ集めきれない。

 だからといって、下手な選択肢を踏まないようになんて転生したのだからそれは不可能だ。

 この世界はもう、選択肢を選んで生き延びられるゲームじゃないんだから。

 キィと、扉が開く音が聞こえてくる。


「アイク?」

「あ、お母様」


 リリスフィアが部屋に入ってくると、アイザックは音に反応して振り返った。

 ゆっくりと扉を閉じると、リリスフィアは屈みながらアイザックを見つめた。


「まだアイクはお勉強の時間だったと思うのだけど、抜け出してきちゃったの?」

「……ごめんなさい」

「いいのよ、誰にだって得意不得意はあるのだから、貴方は自分ができることを伸ばした方がいいわ」

「でも、お父様は俺が騎士になるのを望んで……」

「きっとあの人もわかってくれるわ、大丈夫よ」


 アイザックはリリスフィアの言葉と彼女の指で頭を撫でられて、胸の中にあった不安感を少し拭われたようだった。

 ほっと息を漏らして、「……そうですね」と囁いた。


「ほら、アイク。お父様が帰ってきて褒めてもらえるように勉強に集中しないと!」

「はい! じゃあ、またね。レイク!」


 アイザックは軽く手を振ってから部屋から出ていく。

 少し、疲れたせいか眠気が襲ってくる。


「あら、レイク眠たいの?」

「うぅ……」


 ……私、なんとかこの家族をどうにかしなくちゃ。

 私にしか、できないことなんだから。

 レムが本当に求めていた結末を、私が捕まなくちゃ。

 彼女になった意味がないのだから。

 リリスフィアの優しい手つきにより眠りに誘われる。


「ふふ、ゆっくりおやすみなさい」


 レークヴェイムはゆっくりと瞼を閉じて、眠りの世界へと思考を連れていかれる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ