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第二二話 私たちの本当の転生

 さっきまでレム嬢の部屋だった場所が白紙にも似た白の世界へと移り変わる。

 それに驚きもせず、私はレム嬢を庇うように白ローブ女の前に出た。


「記憶の回収を終えられたみたいだな。奥さん」

「その言い方、やめてくれる? 旦那を思い出すから」

「……シズカ」


 私は彼女に振り返らず、白ローブの女を見据える。


「大丈夫、レム嬢……私は絶対に、貴方を助けるから」

「っはは、その悪役令嬢様を本当に助けたいか?」


 ……レム嬢として転生しなかったら私の魂は無の世界で彷徨う、と口にしたのは貴方でしょうに。嫌味も込めて鎮花は白ローブ女を睨みつける。


「どっちにしても私が彼女に転生しなくちゃ、私のことをちゃんと説明する気もないんでしょう?」

「っはは、俺が嘘をついている可能性はないってか? 純粋な奥様だ」

「私はもう決めたの、どんな言葉を投げかけられようと変わらないわ」

「……もう、決心したんだな?」


 さっきまでの軽快な口調にわずかな圧を感じる。

 私は強く顔が見えない白ローブ女に向かって言い放った。


「そうよ――――私は悪役令嬢、レークヴェイム・オルトリンデ・アマリュリスになる。これは女神の貴方にだって邪魔させない決定よ」

「旦那がアンタのために作り上げた世界を壊すことになっても?」

「……空吾なら、私がレムを助けないなんて思うようなクズな男じゃない。私の最高の旦那を馬鹿にしないで」

「っはは、そうかよ。愛されてんなぁ、俺たちの創造神様は……じゃあ、ゲームスタートだ」


 パチンと白ローブの女は指を鳴らすとそこには大きな扉が現れる。

 神聖な扉という印象で、白と青を基調にしたアマリリスの花の模様が刻印された扉は、それはおそらくレムに転生するための扉、と言ったところだろう。


「……まだ、まだ引き返せるわっ」

「……レム嬢?」


 レム嬢は私が立ち上がろうとすると私の腕を掴む。

 その瞳には涙で潤んでいた。気高い彼女がゲームでも見せたことのない表情に私は不覚にも固まる。


「私にならなければ、貴方は旦那さんに、私たちの創造神に出会える。そうなんでしょうっ?」

「レム……」

「気軽に許可もしていない愛称で呼ばないでっ、私は、私は貴方なんか好きじゃ――――っ?」


 私はレム嬢を強く抱きしめる。


「レム、私はあなたのことが大好きだよ」

「シズカ……?」

「だって、ほうっておけないよ。自殺しようってした時の私と、今の貴方はそっくりな顔してるもの」

「……そんな顔なんて、してない」


 彼女の声は震えている。彼女を抱きしめているから顔は見えていないから、レムの意見は正しいのかもしれないけど、でも私にはわかるから。


「大切な誰かのために嘘を貫こうとした貴方の生き方は、きっと気高いなんて他人が認めなくても私は認める。私だけは評価する。他人がどれだけ否定したって、私が貴方に手を伸ばすよ」

「そんなこと、願ってないっ!!」


 レムは抱きしめている私を押し出して俯きながら叫んだ。


(わたくし)は、(わたし)は!! 誰かの助けなんていらないの!! 私は悪役で、誰にも助けてもらえなくて! ひとりぼっちで!! みんなから憎まれるような最低な女なのよ!!」

「じゃあ、なんで一人で泣いてたの?」

「……っ!! それは、」


 レム嬢が強く私の服の掴む。

 彼女は言葉を詰まらせるのを見て、私は本当に社会人になる自分と彼女がすごくリンクしている。


「……嬉し泣きの間違いです」

「嘘、辛いって泣いてたくせに」

「……貴方は何がしたいの?」

「貴方を助けたいの、それ以外に特別な理由いる?」


 モデルが私だから当然って言っても、ゲームのレム嬢も素敵だったけど、今のレム嬢はきっと他人だったら目も当てられないほど不快だったりするんだろうな。

 でも、でも、私は貴方を理解したいから。


「私は、これから貴方になってゲームに出てきたみんなに復讐してあげる」

「復讐……?」

「そう、だから転生するまでの間、手を握っててくれるかな」

「……わかったわ」


 レム嬢は顔を上げて潤んだ目で私を見る。

 あ、推しの泣き顔、リアルで見られるってそんなに多くなくないかな?

 ちょっと可愛い。私の推しは、やっぱり素敵な女の子なんだと思えて、嬉しくなる。

 私はそのままレム嬢の腕を掴んだ。


「ほら! レム嬢、行こ?」

「シズカ、勝手に――――」


 私はレムの腕を引っ張って抗議してくるレム嬢の言葉を無視し私たちは扉の前に立つ。


「……貴方がこんなに強引な女とは思ってもなかったわ」

「旦那の影響かも、でも最後にレム嬢と話せてよかったかも!」

「……そう」

「だから、もし転生した時にレム嬢の意識があったら、って可能性を賭けてなんだけど……いいかな?」


 私はレムにそっと小指を立てた腕を見せる。

 レムは不審げに私の指を見る。

 ……まあ、中世の世界に、ゆびきりげんまんがあるなんてことは、あまりなさそうだもんね。

 

「……何その指は?」

「ゆびきりげんまん、約束をする時にするまじない? みたいなやつだよ。レム嬢になるための契約? みたいなっていうか」

「……なら、そのレム嬢と呼ぶのはやめて。レムと呼びなさい」

「いいの?」

「貴方はこれから私になるんでしょう? なら、当然じゃない」

「うん! レムっ」


 私はレムとゆびきりげんまんをした後、彼女の手を掴む。


「……転生したら、レムも一緒に転生しない?」

「無茶を言わないで」

「あははごめん。でも、楽しみ!」


 私はレムの手を掴むと彼女はそっと握り返してくれた。

 鎮花はびっくりしてレムの方を見るが彼女の視線は扉の方だった。

 素直じゃないな、なんて、モデルの私が言えた義理じゃないかな。

 私はレムに微笑んで、二人で一緒に手を繋ぎながら同時に扉に手をかける。

 扉が開かれ、涼やかな風が私たちを包み込む。

 そこからは、あまり覚えていない。

 でも、二人で繋いだ手が離れていないことを強く願った。


 視界が眩んだと思うと、そこには黒い空間が私の目の前を占めた。

 光も何も見えない黒い世界に、一つ私の目の前にあの白ローブの女が座っている。 


「よう、奥さん」

「……私、転生するのよね?」

「ああ、もちろん。お前は今、リリスフィアの体から赤ん坊として出かかってる。その間の時間ってわけだ」

「……本当に、私レークヴェイムに、レムになるのね」


 このたった数分の間かもしれない時間にこの女は私に何の用なのだろう。

 せっかく、レムとあんな綺麗な別れ方をしたのに。

 まるで、ゲームのチュートリアルの時間というか、漫画や小説で言うなら最初の導入というか。


「不安か?」

「全然、と言ったら嘘になるけど……もう、決めたことだもの。やりきるわ」

「はは、流石俺たちの創造神の奥様だ。慎重だなぁ」


 この女が私に何のつもりでこの時間を設けているのかうまく察せられない。

 赤ん坊として生まれる瞬間の間に、この女は私に何を企んでいるのだろう。

 

「悪役令嬢様がいて話せなかった話をしようと思ってな……異世界転生物らしくチート能力を与えてやるよ、ありがたく受け取れ」

「キャ――――!」


 白ローブの女が私に杖を向けると、虹色の光が私の体を満たす。


「……今のって」

「お前が転生したら、レークヴェイムが主役のストーリーになる。要するに、悪役令嬢物の主人公ってところか……まあ? その得点だと思ってくれて構わないぜ」

「どんなのなの? そのチート能力は」

「それは転生してからのお楽しみだ、まあ、可愛いおまけもつけてやるから安心しろ」

「おまけ?」

「それは転生してからのお楽しみだ、ウキウキしてろ。どこで会うかもどんな姿なのかは、自分で気づくんだな」

「それって、どういう――――」


 ――――さぁ、お目覚めの時間だ。


 白ローブの女が杖を黒い空間に向かって打ち付ける。

 黒い空間に罅が入っていき、私はまた眩い光に目を閉じた。


「――――奥様、女の子ですよ!」


 誰かの、声がする。知らないいい年そうなメイドの声だ。


「おぎゃあ、」


 あれ、今声上げたの、私? ……いや、私以外、いないはず。

 さっきまでのレムとのやりとりも覚えている。私が、天手鎮花だったのも覚えている。

 そして、メイドの腕の中で、私はしっかりと今世の母をその目にした。

 私はより彼女を認識するためにメイドの腕の中で暴れた。


「おぎゃぁ、おぎゃぁああ!」

「きゃっ、暴れないで? 奥様、ほら抱きしめてあげてくださいな」

「え、ええ……」


 そっと私はメイドの腕の中から今世の私の母親であるリリスフィア・ヴィーゲンリート・アマリュリスの腕の中に自分はすっぽりと収まる。リリスフィアを見て、本当に私がレムに転生したのを自覚させられたのと同時に、赤ん坊のころから記憶がある状態にこれから絶望的な現実を突きつけられるのに戦うためにも、彼女をよりしっかりと見つめた。

 ……私、本当に赤ちゃんになったんだな。


「……ああ、可愛い。私の愛しい赤ちゃん」

「あぎゃ、うぅっ」


 言葉がうまく喋れないから、今の私は本当に赤ちゃんなんだと再確認する。


 ――――私、本当に転生できたんだ。レムとして、彼女本人として。


 転生したら急に赤ちゃんらしからず、普通に喋れる、なんてすごいパターンではなかったのに少なからず感謝した。だって、いきなり赤ちゃんが普通に喋り出したら怪談物の恐怖だよ。

 今ははじめての発声を連続することしかできないのは当然で、それでもリリスフィアの反応を見ようと私はリリスフィアに両手を伸ばした。


「おぎゃぁ、おぎゃぁ」


 ようやく落ち着いてくるとリリスティアが嬉しそうに微笑んでいた。


「あぎゃあ、うー、あぁっ」

「ああ、私の愛しい子。貴方の名前は決まっているのよ……レークヴェイム、お父様が決めてくださった名前よ。嬉しいでしょう?」

「あぁ、あぁいっ」


 あ、しまった。返事してるっぽい感じに言っちゃったっ!! だ、大丈夫、か……?


「ああ……お父様も、きっと貴方が産まれてきてくれたことを喜んでくださるわっ」


 リリスフィアは私の頭を優しく撫でると、その瞳から小さな涙が落ちた。

 ……私も、これから自覚していかなくてはいけない。

 レークヴェイム・オルトリンデ・アマリュリスとして。

 私の復讐劇は、転生した今日からスタートするんだから。

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