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第一二話 知らない神様

「…………なさい、起きなさい」


 誰かの声がする。

 聞こえてくる声に、ゆっくりと自分の中に思考が浮上した。

 この声、聴いたことがある。

 アニメやゲームでも、聞いたことのある名の知られた声優さんの声。

 呼びかけられた声に、(まぶた)を開ける。


「…………レム、嬢?」


 私は瞼を開けると、不思議な空間の中で本編の彼女が目の前いた。

 陶器よりも白い肌も、青い髪も瞳もドレスも、全部全部ゲームで見た通りの彼女だった。

 そう、二次元の美少女が目の前にいたこと、それはどんな人にだって驚愕すべき展開だ。

 彼女は自分を揺すって起こそうとしてくれていたのか、彼女は手を止めるとふぅと、息を吐いた。

 

「やっと起きたわね、貴方」


 状況が読み込めない中、上半身を起き上がらせて辺りを見渡す。

 どこをどう見ても、コンラッドに殺された廃墟と全然違う。

 暗く、息苦しさすら覚える真っ白な世界だった。


「あ、ごめんなさい……って、あれ。私の声、死ぬ前の時に戻ってる!?」

「……それだけではないようよ、少しじっとしていて」

「え? あ、はい……?」


 レム嬢は、私の目の前でギフトで空中に氷を作り出す。

 なぜ氷が空中に浮いたままあるのだとか、そんな疑問よりも強い衝撃を見てしまえば、気にならなくなると言うのが人間というものだ。

 氷の反射で私の顔が映る。

 旦那と一緒にゲームショップに行く前の、交通事故で死ぬ前の、私の姿だった。


「私だ、私だぁ……!!」


 私は目尻から涙が止まらなくなる。

 本当の自分の姿を見て、安心してしまったのだ。

 レム嬢の姿が嫌だったわけじゃない。

 だって、好きな推しキャラの姿になれるのは夢の中や妄想の中くらいしかないだろう。

 ああ、でも本当に嬉しい。

 もう一度、自分の姿になれたことが本当に嬉しい。

 レム嬢は氷を消すと、そっと呆れるような視線を向けてくる。

 

「生き汚いカラスと相違ないガラガラ声を出す暇があるなら、これからどうするかを考えるべきなのではないかしら」

「え、す、すみませんレム嬢……!! ここって、いったい」

「私はよく知っているわ、とってもね」

「それって、どういう……?」


 レム嬢はとても嫌そうな顔をする。

 レム嬢のそんな苦虫を潰したような顔、ゲーム本編でもそんなに見られたことはないな。

 むしろ、ゲーム本編ではどんな時も余裕そうにしていたし……いったい、どうしたのだろう?


「はじめまして、かな? お嬢さん方」


 白いローブで纏っている顔の見えない人物が、空気の中から溶け出るように現れた。

 声からして、ハスキーだけれど女性な気がする。

 …………空吾の作品でも、こんなキャラいたっけ?

 まるで覚えがない。


「ああ、安心してくれ。俺は怖い女神じゃないぞー?」

「それをいうならスライムでしょう!?」

「…………スライム? とは、なんなの?」


 あ、そうだった。ラディウスフロースではスライムとか出てこないんだった!!

 レム嬢が知らないのも当たり前だ。

 ローブの女性は、愉快そうに話し始める。


「異種族とのエッチをするなら、女の子ならスライム派と触手派で別れたり別れなかったリ――」

「…………エッチ?」

「やめなさい!! 純粋なレム嬢にそんな変な知識入れないで!! レム嬢、聞かなくていいからね!?」


 私はレム嬢を抱きしめて、目の前の女性にキッと睨みつける。

 女はとっても楽しそうに笑う。


「釣れないなぁ、実はドスケベなお前だったら絶対そういう系の本読まされただろー?」

「教えるわけないでしょ!? バカなの貴方!!」

「えー? ざんねーん。どうせだから今聞けると思ったのになぁ……見てないとは言わないんだよなぁ」


 小声で、ちぇーと言いながら何か呟いた気がするが無視しよう。

 このノリ、なんだか旦那と似てる気がする……? いや、気のせいか?


「まぁ、安心してくれって。俺、女神だから」

「でも、貴方みたいなキャラなんて、色花シリーズには……?」


 女神が登場するのは確か他の色花シリーズに出てきたことがあるから、このキャラがいた可能性も微レ存……か? いや、それにしても見覚えがない。

 こんな重要そうなキャラの外見をしていたなら、覚えていそうで間違いないのである。

 旦那のファンとして、妻として、彼の作品で知らないことがあるとしたら次回作のある程度のネタバレとかくらいだ。

 ああでも、変な話題を振ってきたこの女に他の特殊性癖そうな話題を聞かせないことに集中しなくては……!! レム嬢がそんな女性に目覚められたら絶対いけないと私の本能が告げている……!!


「悪い悪い、冗談はここまでにしよう――――――今から言うことは、お前たちが決断してもらわなくちゃいけないことだからさ」

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