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桐生家のその後の事情。  作者: manics
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その後の2

理子の通う大学まではバスと電車を乗り継いで1時間半ほどかかる。

当初迷っていた乗り継ぎは今では頭で考えなくても体が勝手に動くほどに電車通学に慣れた。

理子は定期券で大学最寄の駅を降りると、そのまま大学への道を歩いていく。


理子が通う大学は女子大で、特に将来何になりたいという希望もなかった理子にしてみれば

別に入れる大学であればどこでも良かったのが本音だったのだが、今では打ち解けられる友人も何人かできて、この大学を勧めてくれた兄弟たちに感謝していた。


とはいっても彼らがこの大学を勧めた本来の理由は自宅に比較的近い女子大であることが主だった理由であることに

理子はいまだ気づいてはいないようだが。


課題であるレポートを担当の窓口に渡すと、腕時計を見て待ち合わせまでまだ時間があることを確認してから時間つぶしのために

大学のカフェに立ち寄ることにした。


カウンターでアイスティーのグラスをもらうと理子はカフェテリア内の空いている席に座る。

ランチ前の時間ということもあって混雑した様子もなく、理子はゆっくりと窓の外の景色を見ながらアイスティーを飲んでいた。


久しぶりのゆったりとした時間に理子はリラックスしたように伸びをする。

少し前まで理子を取り巻いていた環境は普通の大学生のそれとは違っていた。


大学の非常勤務講師として心理学を教えていた人物が理子を婚約者として仕立て上げ、理子は流されるまま、その人物の屋敷で彼の父親と出会う。

その父親というのは実は理子の母親の兄、つまり伯父にあたる人物で理子に強い執着心を抱き、息子を使って理子を手に入れようとしたのだ。

同時に彼らの思惑とは別に物事は進んでしまい、ある人物によって理子は刺され怪我を負う。

しかし、結局はそのことがきっかけで理子は彼らとともに過去から解き放たれ、兄弟たちの思いを受け止めることができたのだ。


一時は理子と大学の講師でありながら国内有数企業の御曹司である彼と婚約破棄したことで大学内で噂されたこともあったが、幼い頃から兄弟たちのことで常に人目に晒されてきていた理子にとっては慣れるとはいかないまでも、気にしない素振りを見せているうちに世間は理子のことを忘れているようになってきていた。


目をつむって少しのざわめきの中、理子はふんわりとした時間を楽しんでいるとメールが届いた着信音に理子は気づいて、そのまま携帯電話をみる。それは友人の沙希からだった。

内容といえば最近できたという新しい彼氏についてのノロケがほとんどだったが、最後には兄弟たちの関係の進展についてで締めくくってあり、理子は軽いため息をつく。


大学内で理子が人気俳優の朱里の妹であることは言っていない。それは理子が幼い頃から桐生家の兄弟たちと常に比べられてきたこともあり、地元を離れた大学では秘密にしておきたかったのだ。ただひとり仲の良い沙希だけには成り行きで理子たちとの関係を知られはしたが、それ以降秘密にしておいた負い目がなくなり、気分的には軽くなった。

ただ理子と彼ら兄弟の仲がどうなっているのかは気になるようで時々尋ねられはするものの、理子自身、どうやって答えたらいいのか分からず曖昧な返事を返している。


理子は最後の質問には答えずに適当にメールを返信すると、飲み終わったグラスをカウンターに戻してからカフェテリアを後にした。


女子大とはいえ、大学内には学生と付き合っていると思われる男性の姿を理子はよく目にする。

彼氏を大学にまで迎えにこさせる彼女たちには少しの優越感が垣間見られ、理子は何となく不思議な面持ちで彼らを見ながら通りすぎた。


異性ときちんと交際した経験を持たない理子にとっては世間一般でいう『彼氏』がいたことはない。今は兄弟たちから恋愛感情を持たれてはいるものの、家族として17年も一緒に暮らしてきた理子にしてみれば家族として彼らを愛していることもあり、正直これからどういうふうになるのか想像もつかなかった。


彼らと一緒に歩けば必ずと言っていいほど世間の注目を浴びてしまう。それは優越感といったものではなく、逆に自分が何故彼らの隣にいるのかと見咎められているようで理子は積極的に彼らと一緒に外出することはなかったのだ。


しかしそれが家族ではなく、恋人としての関係ならばどうなのだろうと理子はふと考える。

意識の変換をさせることで理子の考え方が変わるのかは理子自身にも分からないが、これからはきっと自分をというものをきちんと持たなければいけないように理子は何となく感じていた。


理子が向かった先、悠里と待ち合わせたのは大学から電車で2つほど乗り換えたところにある繁華街の駅前の広場だ。

近くに米軍基地の跡地があるらしく、その名残で街には外国人向けと思われるお洒落なショップやレストランが立ち並んでおり、現在では若者の街として雑誌によく取り上げられているのは理子も知っている。


場所を指定したのは悠里だったので理子は何も考えずに来てしまったが、よくよく考えると悠里は夜勤明けで疲れているはずだ。こんなところまで出てきて大丈夫なのだろうかと理子は思いながらも待ち合わせをしている噴水前へと向かった。


理子は待ち合わせの時間より10分ほど早くに着いた為、どこで悠里を待とうかと目線を噴水前へと向けると、そこに今日の待ち合わせ人である悠里の姿を難なく見つけた。

すでに噴水前には待ち合わせをしている人が沢山いるにもかかわらず、悠里だけがひとり抜きん出ているような存在感に理子は思わず足を止めてしまう。


悠里は人よりも頭ひとつ分背が高く、そのすらりとした体格と身長はまるで雑誌から抜け出してきたモデルのようだ。

着ている服もゆったりとした白いシャツに首には理子が以前プレゼントした淡いグレーのストールを巻き、カジュアルなチノパンにワークブーツと普段、仕事に行く際には着ることのない格好をしているのを理子は遠目ながらに見つめる。


明らかに周りから視線を向けられているにも拘わらず、悠里はといえばそんな視線をまるで気にせずにゆったりとした空気を身にまとわせながら待ち人である理子を待っている。


こうやって外で悠ちゃんを見るとやっぱりすごく目立つ存在なんだなあ。

朱里や翔くんと違って、悠ちゃんは表立って目立つような行動はしないけれど、立ってるだけで人の注目を集めちゃうんだもん。


ぼうっとそんなことを考えていても仕方ないと理子はとめていた足を再び、悠里のほうへと歩みを進める。


あと数メートルほどで悠里のもとへと辿り着く前に悠里が理子の存在に気づく。

それと同時に穏やかだった顔に待ち人が来たことへの嬉しそうな表情が現れた。


「理子、早いですね。大学へは行ってきたんですか?」


自分のほうが先に理子を待っていたというのに悠里はそう理子に尋ねると理子は悠里に笑みを返しながら答える。


「うん。レポート提出してきただけだから。悠ちゃん、それで今日はどこに行くの?」

「まずは映画でも観に行きましょうか。」


そういうと悠里は理子の隣りに立ち、人の視線がふたりに集まっているのにも気にせずに映画館のある方向へと足を向けた。



あらましも含めた文章内容なのでなんだか文章が文字だらけになってしまいました。

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