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桐生家のその後の事情。  作者: manics
19/41

その後の裏事情(理子視点)

夜の食事会の時間も差し迫っていたので私は沙希に別れを告げると、電車に乗ってタクシーで目的地である住所を告げた。

本当は電車で行きたかったのだけれど、今回の食事会の場所が駅から遠い場所にあるらしく、私は悠ちゃんからお店のアドレスだけ

載った名刺をもらっていたのだ。


そういえば今日、食事するレストラン聞いてなかった。前回はイタリアンだったけど、今日はどこなんだろう。


毎回、悠ちゃんが決める食事会の場所は本当に美味しくて、予約も必要だから忙しい悠ちゃんがどうやってお店を決めてるのか

不思議だったんだけど。


タクシーがついた先に私は本当にこの場所でいいのかと持っていた名刺に目線を落す。


「これって料亭だよね。なんかドラマに出てきそう。」


思わず呟いてしまうくらいに重厚な檜の扉でできた門構えの為、中が見えないけれど、あまりにも雰囲気のある趣に驚いてしまう。

看板もなにもないけれど近くにある電柱の住所を見ると、確かにここが今日の食事会の場所なんだと確かめた私はどうやって中に入ったらいいのかと門を見上げた。


「今晩は。どうかなさいましたか? 」


大きな門の横にある勝手口から紺色の着物を着た女の人がやんわりと尋ねてくる。


「あの、予約をしたんですけど、どこから入っていいかわからなくて。」


素直にそう口にすると女の人はふんわりとした笑みを浮かべると、私の手元にあった名刺に目を落す。


「桐生様ですね?どうぞこちらへ。」


名前も名乗ってないのに、その人は私を正面の門の前へ促すと、そのまま中からその大きな扉が音を立てて開いた。

きっと見えないだけで監視カメラとかついてるのかなと思いながらも私はその女の人のあとへと続いて中へと入る。


靴を脱ぎ、専用の係りの人に渡すと私はそのまま長い渡り廊下を渡って離れへと連れて行かれた。

周りには都内だとは思えないくらいに静かで日本庭園が綺麗にライトアップされている。


障子の前でその人は一度正座すると、お連れの方がいらっしゃいました、と声をかけ障子を開ける。その人は中にはいることはせずに

私だけを中へと促すようにすると、そのまま障子を閉めて去っていった。


「よかった。場所が分からないんじゃないかって今、悠兄たちと話してたとこだったんだよ。」


中にはすでに3人の姿があり、私は見慣れた彼らがいることに幾分ほっとする。心配してくれた朱里も私を見てにこりと微笑んでくれた。


「それにしても悠ちゃん、ここすごいね。前から知っているお店だったの?」

「ええ。接待に使ったことがあって、院長に予約をお願いしたんです。」


都内の真ん中にある日本料亭の離れなんて、たしかに予約がなきゃ無理そうなところだけど。

悠ちゃんって色んな場所知ってるんだなあ。


私はそんなことを思いながらお座敷の空いていた悠ちゃんの隣に座った。


「なんか悪徳政治家との密会とかに使われそうな場所だよな。」

「ああ、それわかる。悠兄にぴったりな感じ。」


翔くんの言葉に朱里がうなずきながら結構失礼なことを言うと、悠ちゃんがむっとした顔をするので私は誤魔化すように

悠ちゃんに話しかける。


「そういえば名刺を見せただけで予約の名前言われて驚いちゃった。」

「ああ、それは一日に昼と夜の2組の客しか取らないからですよ。ゆっくり人と会わずに食事を楽しんでもらう配慮みたいですね。」


なるほど。それですぐに名前わかったんだ。でも人と会わずにって、それって、


「ほら、やっぱり密会場所にぴったり。」


朱里が私の考えていたことを言い当てるかのように口にすると、今度こそ悠ちゃんが朱里を睨んだ。


その後、初めての料亭での食事ということもあって緊張していたけれど、普段どおりに振舞う3人や気配りのきいたお店の人の配慮で

私は心行くまで食事を楽しめた。


食事の間、私たちが話すのは仕事のことや大学のこととなど特別なことではないけれど、忙しい皆が集まって話すこの時間は私には

とても貴重なひと時だ。


「なあ、悠兄。俺も免許取りたいんだけど。」


食後のデザートとして出されている和菓子には手をつけず、翔くんは悠ちゃんに聞いた。

基本的に個人でしたいこと決めるのが桐生家のルールのようなものだけれど、まだ未成年の翔くんは一家をまとめている悠ちゃんに伺いをたてる。


「まあ、無事に大学にも入学しましたしね。いいですよ。私が運転できないときにも頼りにできますし。」

「僕も免許持ってるんだけど。そういえば一度も僕が運転する時、乗ってないよね。」


朱里が自分のことを忘れるなとばかりに口を挟むと悠ちゃんは笑顔で結構です、と冗談なんだかわからない返しをしている。


「ねえ、そしたら私も免許取っていい?教習所に通う時間もあるから。」


翔くんがそんなにあっさり許可がもらえるのならば、と私もついでにお願いしてみる。


「理子が、車の免許、をですか?」


別に車限定じゃないけど、とりあえずはそうかなと思いながらうん、とうなずく。

微笑みながらも次の言葉を捜すように悠ちゃんが黙っていると、かわりに翔くんが答えた。


「絶対にやめとけ。自分の運動神経のなさは理子自身よくわかってるだろ。」

「免許取るのに運動神経は関係ないじゃない。」


翔くんがあまりにもきっぱりと言い切るのでむっとしながらも翔くんを見る。


「ほら、理子は地理も苦手だしさ。やめておいたほうが僕もいいんじゃないかと思うけど。」


朱里が理由を探すように翔くんに同意するので、私はますます意固地になってしまう。


「車にはナビだってついてるじゃない。地理が苦手でも方向音痴ってわけじゃないんだよ?」


3人に比べれば運動神経だって劣るし、地図を読んだりするのは苦手だけど。でも逆にここまで反対されるとなんだか余計に免許が取りたくなってくるのは我侭なのだろうか。


「理子は小さい頃から迷子になってましたし。つい最近だって定期健診に病院に来た際に出口がわからなくて迷ってたでしょう?」


だってあれは考え事してたから、変な場所に入っちゃって。それにあの病院が大きすぎるのも問題だと思うんだけど。


屁理屈とも取れる言い訳を思い浮かべるも3人は譲る気はないらしく、妙な沈黙が私たちを包み込む。


「・・・お手洗いに行ってくる。」


私は特に行きたくもないトイレに行って気分を変えようと部屋に続く襖の引き戸を開けた。


「・・・・・。」


だけれど私はあけた襖の間から見えた光景に思わず、もう一度襖を閉じる。


「そっち手洗いに続く襖じゃないだろ。なにが方向音痴じゃないだ。絶対に無理だな、免許。」


翔くんがそら見たことか、と呆れたように言っているけれど私は今見た光景が衝撃的すぎて返す言葉もない。


「あー、そういえばそっちの続きって何になってるのー?」


妙に間延びしたような声になってるのは朱里が翔くんのどの和菓子を食べようかと選んでいるもので。

っていうよりも私はその質問に振り返り、背後にある光景をどうやって誤魔化そうかと考える。


私がぎゅっと背後で閉じた襖に朱里が翔くんの前にあったお団子をひとつつまむと私の前と立つ。


「はい、理子にもおすそわけ。」

「あ、ありがと。」


翔くんのなんだから、おすそわけもないんじゃないかと思ったけれど、そのまま目の前に出された小さなお団子を両手で受け取る。


「理子って隠し事したいときって顔に出ちゃうんだよね。」

「あっ!ちょっと朱里っ。」


襖を抑えていたはずの両手はお団子にあるので、朱里はそのまま何の抵抗もなく私の背後にあった襖を思い切り開けた。


「うわあ、ドラマみたいだねえ。 」


そう朱里が感心したように言った先には畳の上に一組の布団が敷かれている部屋だった。


次話、ちょっと好き嫌い別れるかもしれません。

(性的意味合い含むので。)

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