その後の裏事情(理子視点)
私には三人の兄弟がいる。とはいっても血は繋がってないのだけれど。
彼らには眉目秀麗、容姿端麗といった言葉が似合わないほうがおかしいくらいの器量の持ち主に加え、優秀な彼らはそれぞれの道で
活躍している。
そんな私が彼らからの思いを受け止めたのは少し前のこと。
ある人からのプロポーズをきっかけに私は自分の気持ちに気づいたのだけれど、3人同時に思いを受け止めるという好意が世間一般で受け入れられないということは私も知ってる。
でも、それでも私には彼らが必要で、今まで以上の関係に移行していくことを考えれば家族として一緒にすごしてきた分、戸惑いが生じるのも仕方ない、とは思うんだけど。
時々、ふいに自分に向けられている彼らの愛情がいつまで自分にあるのかと不安になることもある。
私は人に自慢できるような特技があるわけでも、誰もが振り返るような外見の持ち主でもない。
まったく『普通の』大学生だ。
そんな私がどうやって彼らの愛情を自分のもとへ引き留めるかなんて考えたことがない私は結局、いつものように流されるままに毎日を送っていた。
「なんだかふたりとも眠そうだね。夜、寝れなかったの?」
今朝は珍しくみんな揃って朝食を食べているなか、朱里と翔くんは何度もあくびをしていたので気になって聞いてみる。
「翔里が負けず嫌いでさ。裏山を何度も走らされるから寝付いたのは明け方だよ。」
そう言って朱里は何度目かのあくびをすると手元にあったコーヒーを飲むと、応戦するかのように今度は翔くんがあくびをしながら朱里に言う。
「あんな獣道を朱里が走るからだろ。ついてけるか、あんなの。」
寝不足の理由はわかったけど。なんで、競争?
すると夜勤から帰ってきていた悠ちゃんは新聞から視線をあげ、二人を見る。
「何を考えているのか知りませんが、ふたりとも怪我なんかしないでくださいね。」
「悠兄が僕たちのこと心配してくれるの珍しいね。どういう心境の変化?」
少し驚いたように朱里は悠ちゃんに尋ねると、隣に座っている翔くんも同じように悠ちゃんを見ている。
「いえ、怪我なんかされると理子が看病しなくてはいけませんからね。それが嫌なだけです。」
子供のような答えに朱里と翔くんは呆れた顔をするも、悠ちゃんはまったく気にしてなさそうだ。
時に3人とも見事に息があったかと思うような行動をするかと思えば、なんだか仲が悪そうだったりと私には男兄弟ってこんなものなかと不思議に思う。
「あ、そういえば土曜日でいいんだよね、食事会。」
「ええ。私は午後まで検診があるので直接向かいます。」
両親が亡くなったあと、悠ちゃんは家族のためにと年に数回、レストランで食事会を開いてくれる。今回の名目は少し遅れたけれど、翔くんの大学入学祝いだ。
「朱里と翔くんも大丈夫そう?」
悠ちゃんも朱里も仕事で忙しいので、事前にスケジュールは空けてもらうように言っておいたけれど、それでも急に変更になったりするので私はもう一度確認する。
見ると朱里はフレンチトーストを頬いっぱいに食べて口をもごもごとさせている。隣に座る翔くんはそんな朱里に呆れながらも訳してくれた。
「取材があるけど時間には間に合いそうだってさ。俺も大学の奴らと会うけど、直接行くから。」
翔くんが朱里の言いたいことを言ってくれたのか、そのまま満足そうに次のフレンチトーストにシロップをかけている。
・・・男兄弟ってほんと、不思議。
私はそんなことを思いながら朝食を食べる3人の姿をみていた。
そして数日後の土曜日。
私は食事会に参加する前に友達の沙希の買い物に付き合うために繁華街へと来ていた。
「どっちがいいかなあ。可愛い系か、セクシー系か。理子はどう思う?」
「どう思うって言われても。沙希が好きなほうでいいんじゃない?」
ランジェリーショップでさっきから沙希は二組の下着を手にとってはずっと悩んでいる。
「あのねえ。彼氏と最初のお泊りで私の趣味で選んでも仕方ないでしょ。」
そんなこと言われても、私にだって沙希の彼氏の趣味なんてわかるわけないし。大体、今日の買い物が全て沙希のお泊りに関してっていうのもどうかと思うんだけど。
やっと決心ついたのか、他にもいくつか下着を買うと店員に渡して包んでもらっている。
「なに、理子。興味あるの?」
「え?かわいいなあって。値段もそんなに高くないしね。」
色んなデザインの下着は可愛くて、値段も手ごろなこのランジェリーショップは沙希のお気に入りだっていうのも分かると思って答えたんだけど。
「やっぱり相手によって変えたりするの?一番上のお兄さんはセクシー系かなあ、それで朱、」
「ちょっとっ、なんてこと考えてるのよ!」
沙希がとんでもないこと言い出したので私はそれを慌てて遮ると、不思議そうな顔で沙希は私を見た。
「だって付き合ってるんでしょう?そういう関係になるのも時間の問題じゃない。」
至極当たり前と言ったふうに沙希は言うけれど、そんなことを人に思われていると思うだけで恥ずかしい。
沙希には兄弟3人から告白されたことは言ってある。詳しくは言ってないけれど、3人の思いを同時に受け入れたということも沙希は知っているみたいだ。でも付き合ってるとか、恋人なのかと問われれば自分でもよくわからなくなる。
3人のことはそれぞれに好きだし、キスだってしてる。でもそれ以上となると経験値が浅い私にとっては想像するのも恥ずかしくて、うやむやにしてるんだけど。
「あんないい男たちに囲まれて、告白されて、何言ってんのよ。普通じゃありえないくらいに羨ましい状況にいるんだよ。」
「そんなこと言われても・・・。」
沙希は普通ではない私の選択にも白い目をむけることもなく、時折相談に乗ってくれる。
とはいってもその興味津々な目で聞かれるのも困るんだけど。
「いざっていう時にはちゃんと色々と教えてあげるからちゃんと言うのよ。初めての時は思い出になるような下着つけてなくちゃね。」
親切心なのか、好奇心からなのか答えに困りそうなことを言うと沙希は包まれた品物を満足気に店員から受け取っていた。
中途半端な終わり方ですが、3話ほど続きます。