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桐生家のその後の事情。  作者: manics
16/41

その後の14

映画祭オープニングの日。


その日はホテル内も映画祭開幕にむけて最後の準備に追われ、関係者のみならず、ホテルの人間たちも忙しさと緊張感に

包まれていた。


そんななか理子は何故かキムと一緒に朝食を監督の部屋で一緒にとっていた。


『理子、昨晩のことキムから聞いたよ。私も時間があれば行きたかったんだが、打ち合わせで忙しくてね。朱里は終わったと思ったらすぐに消えてしまうし。』


監督はダイニングテーブルの上に並べられた朝食に手をつけながらも、機嫌良さそうに次々に理子に話題を振ってくる。


『それと聞いたんだが、夏に着る着物があるそうだね。』

『ええ。浴衣のことですよね。』

『そう、それ。それを自分用に土産に買って帰りたいんだが時間がなくてね。悪いんだが、私の代わりに買ってきてもらえるかな。』


日本滞在はこの映画祭の為のみなので確かに監督自身に買い物に行く時間はないだろうと理子は快諾した。

監督はそのまま朝食を終えると、用事があるのか挨拶だけするとそのまま別室に去っていく。


『さっき・・・急にごめん。』

『迎えにきてくれたこと?別にいいよ。ひとりで食べるよりも美味しいし。』


キムがぼそっと呟くように理子に謝るのは、キムが父親から昨晩の礼を言いたいと理子の部屋を知っているキムに朝食を一緒にとろうと迎えに行かせたのだ。


『これ食べたら一緒に買い物に行こうか。ホテルのフロントで聞けば浴衣が買える場所も教えてくれるだろうし。』


こくん、と頷くキムをみると理子は自分も残りの朝食を食べてしまおうと止めていた手を動かした。



ホテルのフロントで浴衣を購入できる老舗の呉服店を教えてもらうと理子は中心街にある店へと来ていた。


教えてもらった呉服店は毎年の映画祭にあわせて外国人観光客も多く訪れるのか、本格的な着物から手ごろに買える浴衣や、

それにあわせた小物などを数多くそろえてある有名な人気店のようで店内には理子たち以外にも多くの観光客で賑わっていた。


浴衣といっても監督自身には着付けは無理だろうからと理子はガウン代わりにもできるようなデザインの浴衣と帯を探そうと男性物の渋めの浴衣を眺めていた。キムはというと反対側にある女性物の浴衣を興味深そうに眺めているのに理子は気づいて声をかける。


『キムもお土産に買うの?』

『・・・ん。でもサラに着せたらすぐに汚しそうだ・・・。』


妹のことを考えているのか、キムは少し考えたように浴衣を見ている。妹思いのキムがなんだか微笑ましくて理子は少し離れたところにある小物コーナーを指差す。


『それだったら小物にしたら?巾着袋とか髪飾りとか。それだったら気軽に持つこともできるし。』

『・・・いっぱい種類がありすぎでわからない。』


確かにデザインや大きさなど女性物の小物は多種多様で選びきれないのかもしれない。

困ったように呟くキムに理子はそれならば自分が選んであげるからとサラの好みを聞きながら彼女に似合いそうな小物を

いくつか選んだ。


監督用の浴衣と帯も決め、すべて一緒に包んでもらうことを店員につげると、少し時間がかかるからと和室の一角にある場所に案内され、簡単な茶菓子と緑茶が出され、二人は腰を下ろしながら一息ついていた。


『そういえば夜のオープニングにはキムも行くんでしょう?』

『行きたくないけど・・・日本に連れてきてもらう条件がオープニングにでることだったから。』


気乗りしないような顔でキムは目の前の茶菓子を口に入れる。

目立つような外見の持ち主はけして公の場に出ることを望んではいないようだと理子は感じると話題を別のものへと変えようとするが、

それはある人物によって遮られる。


「またお会いしましたね、桐生さん。」


そういって現れたのは以前、家の近くで待ち伏せしていた新城カズオだった。突然現れたその人物に理子は驚いたものの、落ち着いた声で対応する。


「偶然ではないようですけど、何のご用件でしょうか。」

「ええ、ずっとつけてましたから。ホテルには関係者しか入れませんしね。」


悪びれた様子もなく、新城はあっさり告白すると隣にいるキムに視線をちらりと向ける。


「新しい彼氏ですか?今度は年下ですか。ひとりだけでは満足できないようですねえ。」


意味ありげににやにやと笑う新城に理子は不快な気持ちになりながらも落ち着こうと自分に言い聞かせる。


「何が言いたいのかわかりませんが、以前も言ったように朱里に関して私から言うことはありませんから。」


そういって席をたつと、隣にいるキムもそのまま理子のあとへと続く。それを引き止めるかのように新城は胸元から何枚かの写真を取り出し、理子へ差し出した。


「昨晩のデートの様子です。暗めですが、お互いの顔がちゃんと写ってますでしょう?」


新城の声がぞわりと理子の背中を駆け上がる。それと同時に新城の手元にある写真に理子は言葉を失った。


「まさかこんな写真が撮れるとは思っていませんでしたよ。ずっとあなたを張っていた甲斐がありました。」


ひとり満足気に話す新城の手元には昨晩、祭りの際に朱里とキスしている模様が何枚も映し出されていた。あきらかに望遠で盗撮されてはいるが、角度を変えて撮られたそれには朱里も理子の顔も写っていた。


「兄と恋人関係にある桐生理子さん。このことが世間にばれたら大変なことになりますよねえ。」


ねっとりとした声で話しかける新城に理子はぎゅっと目を閉じてから、ふたたび新城を見る。


「何が目的なんですか?私に先に見せる意味があるんですよね。」


世間にばれたら大変なことになる、という言葉から察するに新城はマスコミにまだ言っていないことになる。とすれば、先日も理子にコンタクトをとってきた意味があるのだろうと考え、問いかけた。


「話が早くて助かりますね。そうですね、早い話、金ですかね。マスコミ関係者に売ったところで私のような商売は足元見られてますから。それなら本人に伺うのが一番でしょう?」

「私はただの大学生です。あなたに払うお金などないこと知っているんじゃないですか?」


ここまで執拗に調べている新城のことだ。自分がたんなる大学生だということくらいすでにわかっているのだろうと理子は冷静に答える。


「あなたはそうでも、相手はあの人気俳優の朱里だ。しかも一番上のお兄さんは医者だそうじゃないですか。それにあなたの元婚約者、彼から相当貢いでもらってたんじゃないですか?」


当時、理子が藤堂グループの跡取りである藤堂雅人と婚約していたのは世間でも知られている。

その後、朱里が理子の婚約解消を狙うためにわざと自分たちの関係をばらそうとしたことがあるが、それを雅人はマスコミに圧力をかけて朱里の相手が理子だということを隠し通したのだ。


しかし新城はどこから嗅ぎ付けたのか、理子がその人物であると確信し、こうして証拠となる写真まで手に入れている。最後の理子を嘲るような物言いにも確固たる自信があって言うのだろう。


「とにかく、この写真は記念にあなたに差し上げますよ。あとは彼とよく相談してください。またこちらから連絡しますんでね。」


新城は持っていた写真をぎゅっと理子の手に握らせると、そのまま店をあとにする。

残された理子はざわざわと嫌な感覚がまるで毒のようにゆっくりと身体全身に巡るのを感じ取っていた。




次話、あの人登場です。

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