表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失楽園の哲学者  作者: ニート侍
2/2

DIVE TO BLUE

 


 落ちて行く。物理的にも、精神的にも、社会的地位という意味でも。超高速で深く……深く……落ちて行く。向かう先は奈落の底だ。



 下から上へと吹きすさぶ風の中。纏った(ころも)が激しく(なび)く。次第に高まる胸の鼓動。猛烈な風音(かざおと)よりもドクン、ドクンとハッキリと聴こえてくる。だが、それは決して取り乱しているからではない。むしろ、清々(すがすが)しいくらいの冷静さの境地に達しているから……。



 ゆっくりと(まぶた)を閉じて、呼吸を整え、五感を研ぎ澄ます。普通なら、この絶対絶命の状況下、恐怖で全身の筋肉が強張るところ、フランシスは逆に全身の力を抜いていた。弛緩(しかん)し切った手足は、まるで軟体動物のそれそのもの。しばらくして、覚悟を決めたようにパッと双眸(そうぼう)を見開く。



 次の瞬間、腰に携えた4本の剣の中から1本を、脱力しきった左腕で電光石火の如く抜刀。晴れ渡る青空にかざした。この間わずか0.5秒。



「〝知は力なり(ノヴム・オルガヌム)〟!!」



 凛々(りり)しい眼差しでそう唱えると、体中から蛍火(けいか)のような、無数の淡い虹色の光が溢れる。彼の周囲を包み込み、神聖さを醸し出す、(まばゆ)いばかりの輝き。光が残像を残しながら落ちていくその光景は、(きら)めくほうき星のように美しい。その後、フランシスは何をするでもなく、そのまま地面に墜落した。



 ドンッ……。



 勢いよくうつ伏せに倒れた。体は指先1つピクリとも動かない。



「し、死んだのか……!?」


 近衛兵達は予想外の状況に狼狽(ろうばい)している。焦燥に駆られ、やがてその焦燥が冷や汗となって、肌に現れる。そして粉々に破られた窓から、恐る恐る地上を(のぞ)き込んだ。



「いや、生きている。これくらいで死ぬような奴ではない。してやられた……。」


 蒼い鎧の騎士は表情ひとつ変えずにそう言った。地上に落ちたフランシスを、窓から一瞥(いちべつ)もせずに。


「天気晴朗なれども波高し……。さぁ、急ぐぞ!!」


御意(ハハァ)!!」


 目の前の出来事を凝視している近衛兵達。それに対して、蒼い鎧の騎士の瞳は、どこか少し先の未来を見据えているかのよう。そして平静を保ったまま的確な判断を下して兵士達に再び指示を出した。



 ――――――――――――――――――――――――――



 冷たい地面の感触を全身でじっくり確かめながら、自分が着地したことを再認識した。吹き返す呼吸。それと同時に倒れ込んだ体の上半身が、小刻みに膨張と収縮を繰り返す。



(ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……危なかった……理論上は可能だったが、こんな状況でこの能力を使うの初めてだったから、どうなることかと思ったぜ……。)



 フランシスの魔法(イデア)、〝知は力なり(ノヴム・オルガヌム)〟は自然を支配する能力を持つ。腰に携えた4本の刀にそれぞれ自然に関する固有の能力を宿し、抜刀することで能力が発動する。たった今発動したのは、そのうちの1つである「物理法則を操る力」



 押すと押し返され、引っ張ると引っ張り返される現象を「作用⋅反作用の法則」という。対になっている2つの力は、大きさが等しく、向きが反対で、同一作用線上に存在する


 この物理法則を〝知は力なり(ノヴム・オルガヌム)〟で改変し、落下するエネルギーの反作用だけを無くす。これで地面に着地する時のダメージを0にまで軽減。なんとか死を免れた。



 もし能力を発動するタイミングが遅ければ、発動する前に地面に直撃。逆に早ければ、発動しても効果が地面にまで適用されずに直撃して死んでいた。



「着地する一瞬だけ、時の流れがスローになった気が……。もしかして、これが走馬灯ってやつか?」


  そんな考えがふと頭の中を(よぎ)る。フランシスは能力を解除し徐々に起き上がると、再び全身の力を抜き深い安堵のため息をついた。


(こうしちゃいられない。奴らはきっとまたオレを血眼(ちまなこ)で追ってくる。もし捕まれば弁明の余地などなく極刑は免れない。今はただ逃げる他ないな。)



 抜いた剣を鞘に戻し、脇目も振らず、全速力で城下町を駆け抜けた。



 薄茶色でできた風情ある建物の数々と、大勢の行き交う人だかり。それらを何度か通り過ぎ、しばらく大通りを走っていると、横から何者かに激突された。



「痛っ!!」



 すぐに横を振り向くと、少女が尻餅をついている光景が目に入ってきた。


 少女の身長はフランシスよりも一回り小さく、レフ板のように白い、(つや)のある肌がよく目立つ。ツインテールに束ねられ、上品に揺れる、山吹色の透き通るような髪の毛。ちらりと見えるセクシーな胸元は、少女の女らしさを物語っていた。そんな彼女の風貌を一言で形容するならば、「艶麗(えんれい)」という言葉がふさわしい。



 不機嫌そうに、顔を歪めてこちらを見てくる少女。



「いった〜い! あんたどこ見てんのよ! 」


 怒気を含んだ口調で少女が言った。その態度から、少女が自身の小さい体にうるわしさだけでなく、したたかさも内包しているのが(うかが)える。



(いや、それは割とこっちの台詞だゾ……。)


 自分からぶつかってきたにも関わらず、逆ギレ気味の少女に対し、フランシスは眉を(しか)め、(ほとほと)呆れ果てた様子で少女の目を見返す。



「いたぞ! あっちだ! 」



 大通りで飛び交う雑音の中、確かに聞き分けられる大きな声が聞こえた。声のする方向に2人とも視線を向けると、少女が来た方角から先程とは別の近衛兵10人程が、遠くからこっちに迫ってくるのが見えた。その距離約30メートル。



「おいおい、またかよ……。」


読んでいただきありがとうございます。

3話でいよいよ本格的に異能力バトルが始まります。(予定)これからもっと面白くなるのでよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ