イジメられっ子中学生による復讐のススメ
川崎証生。
彼の名だ。
今、彼はとあるマンションの屋上から飛び降りようとしている。
「ふぅっふぅっふぅっ」
だが、最後の一歩を踏み出すことが出来ないでいた。
(怖い)
これから死ぬつもりで何が恐ろしいというのか。
生きることより死の方がマシだから死のうとしているのであろうに。
『ちょっとちょっとお兄さん』
そしてふいに掛けられる声。それは不思議な声。脳に直接染み込むような、耳から頭へと反響する女性の声。
「ふぇ!?」
勢いよく振り返るも誰もいない。
「わぁっ!」
そして片足を踏み外し、あわや落ちるところであったが手を柵に伸ばして一命を取り留めた。
「危なっ」
血の気が引き、睾丸がひゅっと上がる。
『君、死のうとしてたんだよね?』
また響く声。幻聴だろうか。どちらにしても笑いを堪えたような物言いに腹が立ってくる。
『いや、ごめん。でも、笑うでしょ普通』
人様の死を前に笑うとはどんな人格破綻した普通だ、と証生は気恥ずかしさを感じつつ心の中で悪態をつく。
『ねぇ、君まだ中学生でしょ?』
声に答えるつもりはない。
『若い子が死のうってんだから、まぁ大体はイジメか家庭内暴力』
前者である。
『どうせなら復讐してから死ねば?』
何度考えたことか。だが、殺せば良いのか? 殴れば良いのか? どうやろうとも残った家族に迷惑がかかる。
そう思い、証生は何もあらがわずに死を選ぼうとしていたのだ。
『私が、手伝ってあげる』
証生は半ば呆然としつつも喜びを感じていた。宝くじで大当たりすれば似たような感覚を得られるかもしれない、とどこかで浮かれた。
この声の主が何なのか、そしてどうして自分がそれほど驚いていないのか、理由は証生自身には解らない。
だがそんなことは今はどうでもいい。
復讐。
復讐だ。
今から復讐せねばならない。
この声の主が手伝ってくれるという。
『私がアドバイス、してあげる』
なんだ、特別な能力とかをくれるとかじゃないのか、と少しガッカリした。
証生は親の転勤に合わせて転居。中学一年生となった。
転居先は、田舎というほどド田舎でもなく、都会にはほど遠いがスーパーやコンビニ、郊外型のショッピングセンターはある。大手通販を使えば生活には何も困らない。
若者にとっての刺激は乏しいが、だがほどほどに過ごしやすい気候もあって『住むには十分良い。丁度良い』と住人達の多くが思っている。
そして、少子高齢化の煽りで、小学校の卒業生がそのまま全員同じ中学に上がるような地域であった。
転校生がほぼ存在しなかった地域の学生たちに、証生という人物は異物にしか見えなかったのが悲劇の始まりである。
何の特徴も無い、むしろ自己主張も乏しく平凡で無害に見える、ということが少年少女たちにとっては逆に浮いて見えた。余所者を受け入れた経験が乏しいが故に、特徴のなさが取っかかりの無さに直結してしまう。
入学してきて一ヶ月もしないうちにそれは始まった。
あまり積極的ではない証生は、既に完全にグループが決まっているクラスにおいて、早々に孤立した。
仲間に入れてやろう、と考えるクラスメイトも居なかったのがどちらにとっても不幸なことであった。
村社会のような閉鎖性と証生のコミュニケーション能力や努力の欠如。
群を成す生物は、異物を残酷に排除するようになる。己の群を守るために、無関心ではいられない。それが若い精神であればなおのこと。
『なぁ、なんか臭くね?』
『確かにくっせぇな!』
『あ』
『あ、かっこ察し、みたいな。ぎゃはは』
証生を席の目の前に陣取ったクラスメイト男子三人組が笑う。
毎日入浴はしているし、ワイシャツや肌着もしっかり交換している。だが、幼稚な精神の彼らにとっては実際に臭いが漂っていようといまいと結果はさほど変わらない。
『おい、川崎。おめぇくせぇよ』
『ちゃんと風呂入れって』
『え、あ』
『なんだぁ? 文句あんのかてめぇ!!』
机を強打され驚きで仰け反る証生を笑う三人、と他のクラスメイトたち。眉をひそめる人間も何人かは居たが、関わりたくないのか興味が失せたのか、すぐに視線が逸れる各々の行動を続ける。
『ビクッとした! 今超ビクっとした!』
何も言えずにうろたえ耐える証生。
『ぎゃっはっは!』
『超ウケるんですけどー!』
『なーにビビってんですかぁ? あっはっは!』
そして徐々にエスカレートする。
靴や持ち物が隠され、黒板に悪口を書かれ衆目の目に晒される。
足を蹴られ、尻を蹴られが続く。問題にならない程度に。
それに少年たちが慣れると、次は腹を殴られ、蹴られ、跡が残らない程度にいたぶられる。
若い彼らには二ヶ月もあれば十分だった。
何の抵抗も見せない、見せられない証生に、彼らは調子に乗ってしまった。
不幸という概念に質量が有るとすれば、最終的には少年たちのそれが証生のよりも巨大な物になる。
だが、禍福とは個人的な認識でしかない。
復讐は何も生まない、という綺麗ごとは、復讐される側の理屈でしかない、といずれ証生は考えることとなる。
復讐の火蓋が切って落とされた。
『そもそもね? 彼らにとってイジメって認識じゃないんだと思うよ?』
(だったら何だよ)
証生は、声の正体を明かすことなど一切しなかった。そんなことには興味がない。求めるのは結果だけだから。
いつしか証生の頭の中で会話をするようになっていた。
『イジリっていうか』
(イジリも可愛がりも弱いもん相手ならイジメでしかないだろ)
『すっかりやさぐれちゃって。別にだから許してあげて、ってことじゃなくて、自分たちが【犯罪】を犯してるって認識、無いんじゃないかなってこと』
(厳密に言えば犯罪だろうけど、誰が裁くんだよ。ちょっとからかっただけって言われれば終わりだよ。俺が死ねば問題になってあいつらにもダメージあるかもっては思ってたけど)
『遺書は残してないよね?』
残していなかった。何故かは解らない。ただ、ダメージを与えられるかも、という消極的な理由は後付けであった。逃げることに対する言い訳でもあった。
ダメージを与えるという意味合いであれば、遺書は必須であった。
『それは悪いことなんだよーって先生とかから言って貰うってのは?』
(……駄目だった)
既に教師には相談していた。そして、教師を交えて握手をした。だが、何も変わらないどころか、陰湿な物に変わっただけ。
『家族には?』
(…………言って、ない)
言えない。銀行の支店長となったばかりの父。無口な人だが、ほどほどに厳しく、そして不器用だが優しい父親だと思う。
父がちゃんと稼いで、母が家を綺麗に暖かく維持し、たまに家族を旅行に連れていってくれて、特別過不足ない生活どころか、むしろ裕福な方であろう。
父も母も、普通の範疇にしっかりと入る。
故に、虐められるような人間だ、と知られるのが怖かった。相談しようとも思わなかった。家族の一員で居られなくなるのではないかと畏れた。怒られるだけならまだ良い。親に殴られた記憶もないがそれならばまだ良い。
家族に否定されるのではないか、という不安が証生にイジメられている事実を告白する選択肢を奪ってしまっていた。
飼い慣らされた奴隷は抵抗する選択肢を失う。それは生物の本能であり、当事者にしか解らない抑圧である。
『君のお父さんお母さん、どんな人? 時間は死ぬまで有るんだから、小さな時の思い出とか、教えて欲しいな』
証生は語った。そして、いつしか、眠りについた。
『お父さんに相談しない?』
(それは、嫌だ)
弱い自分を見せたくない。失望されたくない。イジメられっ子の殻からまだ抜け出せない。
『パパー、助けて~って言うんじゃなくて、これから言う方法で手助けして貰うように説得するのはどうかな? イジメにあったけど自ら立ち向かう息子を君のお父さんは恥ずかしく思うかな?』
(う…………だけど……その方法ってのを断られたら)
『それならそれで良いじゃない。お父さんがきっと他の方法を考えて、何とかしてくれると思うよ? 少なくとも君のお父さんって、そこで自分で何とかしろ!って怒るタイプには思えないんだけど』
(そう、かも、だけど)
『むしろさぁ、自分が助けるタイミングも与えられずに君が自殺しちゃったら、お父さん絶対一生後悔すると思うよ? どうせ死ぬにしてもチャンスあげようよ』
証生からはまだ死なない、という選択肢は生まれていなかったのをこの声の主は見抜いていた。
(……どんな方法なの?)
証生も父親を信頼していた。そんな父を悲しませる結果になったとしても、確かに何も機会が無いのは申し訳ない、と斜め上な考えに誘導される。
『詳細は都度教えるよ。まずは証拠集め! 動画で君が虐められている証拠を! 話はそれからだよ! お父さんに相談するのはそれが準備出来てから!』
(わかった)
スマホと、通販サイトで六千円ほどで売っていたペン型ビデオカメラを購入し証拠集めに乗り出した。
一ヶ月程して宣言された。
『証生、私は復讐が好きだ』
(なんだ、急に)
『証生、私は復讐が大好きだ』
(おい)
『蹂躙戦が好きだ 殲滅戦が好きだ 相手を不幸のどん底に突き落とすための防衛戦が大好きだ』
(おい、どうした?)
『学校で 通学路で たまたま会った町中で この地上で行われるありとあらゆる復讐行為が大好きだ』
(好戦的過ぎないか?)
『優位に立っていると思い込んだ敵を吹き飛ばすのが好きだ 自分が狩られる側だと認識したときの絶望の表情など心が踊る!』
(人間性に問題有るぞ)
『我らの放つ弾丸が脆弱な敵の精神を粉々にするのが好きだ 味方だと思っていた敵家族が互いに疑心暗鬼となる姿など胸がすくような気持ちだ』
(これ長くなります?)
『焦った敵が矛先を我らに向けようとも逆に粉砕し蹂躙するのが好きだ 恐慌状態の敵が責任転嫁しようとする様など感動すら覚える』
(えーっと……ちょっと僕の話も聞いて頂けませんかねぇ)
『敗北主義の逃亡者を世間に吊るし上げていく様などもうたまらない 泣き叫ぶ敵が我らの振り下ろした手のひらとともに金切り声をあげる阿鼻叫喚も最高だ』
(性格悪すぎない?)
『哀れな抵抗者が雑多な言い訳で健気にも立ち上がってきたのを法律や証拠の破壊力でもって木っ端微塵に粉砕した時など絶頂すら覚える』
(絶頂て)
『必死に守り育ててきた息子が自殺をしようとしていたなど両親にとってはとてもとても悲しいものだ 死ぬほど悲しいことだ』
(…………ああ……ああ、そうだ……きっと、そうだ)
『このまま奴らに蹂躙され地べたを這い回るのは屈辱の極みだ』
(ああそうだっ)
『証生』
(なにっ)
『私は復讐を地獄のような復讐を望んでいる 私の指示に従った君はいったい何を望んでいる? 更なる復讐を望むか? 情け容赦のない糞のような復讐を望むか? 敵全てを地獄の業火で燃えつくすような復讐を望むか?』
(当然だ! あいつらのせいで、どれだけつらかったか! あいつらのせいで! 学校もあいつらも、絶対に許さない!)
『よろしい』
ならば復讐だ
謎の声の演説が終わったあと、計画について説明を受けた証生は父の居る書斎に赴いた。
「どうした?」
普段、父が書斎に居る時に証生が訪れたことはなく、息子のただならぬ雰囲気に戸惑いを隠せない。
「お父さん、俺」
「まずは、座ろう」
何かを察した父は、イスから立ち上がり、応接セットに息子を座らせる。
中学入学という切りの良いタイミングではあったが、知り合いも居ない土地での新生活である。父も忙しい中ではあったが息子のことを当然忘れてなど居なかった。
そして最近妻から「あまり元気がない。聞いてもはぐらかされてしまう」と聞いていたのでそろそろ自分からも息子に聞こうと思っていたので好都合であった。
「どうかしたか?」
証生は、ゆっくりだが、詰まりながらだが、これまでのイジメの経緯を話した。
こんな自分が息子として、家族として情けなく、恥ずかしく、涙が溢れてくる。泣くことさえ恥ずかしい。
だが、彼は一人ではなかった。何者かも解らない心の声が『頑張れ! 頑張れ!』とずっと応援してくれていたから、経緯を全て話すことが出来た。
周りに、聞こえるまで、助けて貰えるまで、叫ぶ。
その第一歩が彼には踏み出せた。死への一歩ではなく、生きるための一歩。それは並大抵の努力や決意ではない。まさに死より重い覚悟であった。
「……そう、だったのか」
聞き終えた父は、怒りと悲しみで叫び出しそうになっていた。
それは息子を虐めた連中に対してだけではなく、今の今までその事実をつらいであろう本人の口から聞かせて貰えるまで、気付かなかった、知らなかった己に対しての憤慨がほとんどであった。
「すまない。気付かなくって、すまなかった」
父親が、テーブルを乗り越え、静かに涙を流す息子を抱きしめる。
「父さんが悪かった。すまない。話してくれて、ありがとう。本当にすまない」
転勤命令を受けたこと。もっと積極的に息子と接しなかったこと。
一つ一つに事情も有る、父親だけの責任ではない。だが、証生の父親にとっては結果が全てであり、まだ未成年の息子に背負わせる罪は一切ない。自己責任など成人してからの話だと。
「情けない父だが、ここからは父さんに任せろ」
「あ、あの、これ、が」
使命感に燃えた父が行動に移す前に証生はビデオと遺書を見せ、四苦八苦しながら説明する。
「証生、お前、ここまで、どうして」
おとなしい印象の強い息子の行動にしてはその行動と計画は過激にも見えた。
過激だが、間違ったことはしていない。間違った準備でもない。そこに違和感があった。
「お前が、考えたのか?」
だが、腑に落ちなかった。親に相談するまで出来れば子供として上等過ぎる、と父は考えていたところに、報復のための弾丸まで用意されていたのだから当然である。
「あ、えと……ね、ネットで、相談したら、いろいろ。あの、22chとか」
合点が行った。父である己とはインターネットに対する違う感覚を息子が有していても、不思議ではなくむしろ自然なことだと思った。それに、22chくらいならば自分も馴染みがある。
例え画面の向こう側でも息子のために相談に乗ってくれた人が居る、ということに感謝の気持ちが溢れてくる。
「その名無しさんたちには、事が終わったら父さんからもお礼を書きたいから、あとで教えてくれ」
「う、うん。えと、DAT落ち、してなければ」
父は、仕事よりもやりがいと、情熱をもって事に当たった。
弾丸は用意されていた。息子本人が文字通り身を粉にして命がけで生み出した殺傷弾。
一発残らず叩き込んで地獄を見せてやる
証生の父は、息子以上の復讐心を燃やした。
己の命以上に大事なものを奪われようとしていたのだ。誰が許そうとも自分が許さない。
虐めっ子達の始めは小さな、本当に小さな嗜虐心が、残虐なまでの復讐鬼を産んだのである。
父に相談する少し前のこと。
『まず、遺書を書いて。血判入りで! 大量コピーあんどスキャン!』
あまりの転調に驚かざるを得ない。
(遺書、かぁ)
『遺書です! 君の実名と学校名、関係教師全員と相手の名前全部書いて、何をされてきたのか、その証拠もあってネットにモザイク無しで公開してやる、してやったって内容で。それを証拠と共にお父さんに見せてこう言うの』
ごくり、と証生は唾を飲みこむ。
『お父さん、イジメられてるからやり返してイジメを止めさせたいんだけど、手を貸してくれない? 証拠は有るからって』
脳内の謎の声は、勝利を確信しているようであった。
その声にのせられたのも事実ではある。だが、証生は自分で選んだ。
助けてくれ
と周囲に伝えることを選んだ。伝えられるだけの勇気を貰った。支えられた。背中を押して貰った。
結果としては、多く語ることはない。
父は弁護士を伴い、証拠を元に学校と虐めっ子達の保護者たちに事実を突きつけた。
そして遺書を提示しながら「息子はここまで思い詰めていたんだ。そしてこんな遺書を残そうとしている。お前ら、覚悟しろよ」と宣言した。
虐め主犯たちの実名の拡散は彼らの人生に大きな陰を落とす。まともな高校に入ることも危うい。少なくとも、この微妙に狭い地域で親が働き続けられるか、というと無理な話で、転居は免れない。
ここから、父のしたたかな面が出た。脅迫にならない程度で経済制裁を加えることにしたのだ。
「校長、教頭、学年主任、担任、そして虐め主犯の三人の全員に、それぞれ一千万円の損害賠償を請求すると共に、全校生徒の前での土下座を要求する」
請求額は自由である。払うかどうかは任意の話であるからだ。何とか一般人でも払えそうな範囲での金額設定が特に始末が悪い、と弁護士は苦笑いせざるを得ない。裁判となればかなり額も変わるものの、その場合は社会的地位や立場、そしてイジメっ子達にとっては将来を対価に払わなければならなくなるので加害者側にはそもそも勝ち目が無いのである。
「また、従わない場合は、我々も引けない。息子は文字通り死ぬ気で戦っている。あの息子が、ここまで追いつめられて引く訳がない。息子が何をするか私にも予想が付かない」
遺書のコピーを全員に配っていた父親は、トントンととある文章のあたりを指で叩く。
「きょ、脅迫するつもりか!? こんなことが通る訳」
あまりの状況に謝罪よりも先に激高した保護者が大声をあげたところで弁護士が割って入った。
「落ち着いて下さい。ここまで虐められて、自殺しようとまでした子供の行動に予想がつく訳ないでしょう。学校側だってこの通り満足に対応出来ていない、どころか助長する結果になっています。共犯みたいなものですね。せめて保護者に連絡していれば違った形になったでしょうに、やり方が間違っていた。その結果が今です。
脅迫だなんて不名誉なこと迂闊に言わない方が良いですよ? いろいろ、追加されますので」
最終的にはそれぞれ、保身のために何とか支払うこととなる。減額は一切受け入れず、期限を切っての一括支払い以外に認めなかった。
それぞれ家などの財産を売却する、貯金を崩す、借金をすることとなる。
その殆どに父親の職業が絡んできたのが父本人にとっても予想外のことだったのが皮肉であった。
全校生徒の前での土下座は譲歩された。何事か、と父親の仕事にも悪い面で影響が出かねないため、証生も譲歩に躊躇することはなかった。
そして、証生は違う学区の中学校に転校することとなった。
(意外と、あっけなかったなぁ。まぁお父さんが全部やってくれたんだけど)
『過ぎたるは及ばざるが如しってね。証生君だって頑張ってたよ』
(その言葉、使い方合ってるの?)
『さぁ? 中学中退だから知らなーい』
証生はあえて正体を聞くことはしない。
この声が、どんな事情を抱えて居ようとも、自分の恩人であり味方なのは身に染みて解っているから。
(そっか。じゃあ俺と一緒に卒業しようよ)
『そだねー。どうなるか解らないけど、しばらく一緒に居るよ』
(テストの時とか助けてくれない?)
『それ、絶対努力しなくなるってば』
(あー。そうなる自信あるわぁ。ははは)
『でしょ~? 私だったら勉強しなくなるし。あはは』
二人の笑い声が、証生の脳内に響き渡る。
証生は、復讐によって助けを求める勇気と心の友を手に入れたのであった。
評価など頂けますと励みになります。
気が向いたらで結構ですので宜しくお願い致します。