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妖しい銀  作者: 月猫百歩
波紋ノ輪
32/63

序ノ怪



 水底に落ちていく体と心。

 赤く染まった水の中、灰梅が見せるのは過去の鬼の姿たち。

 

 見える光景から血の匂いがするのは、気のせいなのか。それとも赤い水のせいなのか。

 歪んだ水面に、歪んだ自分の顔。そして苦しげに呻いていた紅い鬼の表情。

 どれもこれも歪んで捻れていびつに映る。

 

 

 流れる鬼の血はわたしに見せる。

 過去の血塗られた惨状を。見たくもないのに、瞳の灰梅を通してわたしに押し付ける。


 泡に紛れて入り込んでくる記憶。

 血で染まる川に、人に、魚に、鬼に。恨みも辛みも汚泥の様に、腹の底へと溜まっていく。

 冷たい暗闇で膝を抱えている時ですら寂しさもなく、ただ暗くて重い、冷たくも煮え滾る、恨みの渦を巻いて膨張させていく。


 共に水底へ沈んでいく灰色の鬼。鬼から魚へ、魚から鬼へと変わった妖。

 優しい微笑みをしても、瞳の灰が銀へと変われば悪鬼の本性を現して,

わたしに血濡れた手を差し出し、欲しい欲しいと強請って切望する。



 沈む前。水の向こうに見えた、血に濡れた紅い鬼。

 真名を呼ばれて苦しみ膝をついた貪欲の鬼。

 灰色の鬼が抱く想いと、あの紅い鬼がわたしに向ける想いは同じなのだろうか。

 

 思考の波が押して引いても、わたしには分からない。

 



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