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序ノ怪
水底に落ちていく体と心。
赤く染まった水の中、灰梅が見せるのは過去の鬼の姿たち。
見える光景から血の匂いがするのは、気のせいなのか。それとも赤い水のせいなのか。
歪んだ水面に、歪んだ自分の顔。そして苦しげに呻いていた紅い鬼の表情。
どれもこれも歪んで捻れて歪に映る。
流れる鬼の血はわたしに見せる。
過去の血塗られた惨状を。見たくもないのに、瞳の灰梅を通してわたしに押し付ける。
泡に紛れて入り込んでくる記憶。
血で染まる川に、人に、魚に、鬼に。恨みも辛みも汚泥の様に、腹の底へと溜まっていく。
冷たい暗闇で膝を抱えている時ですら寂しさもなく、ただ暗くて重い、冷たくも煮え滾る、恨みの渦を巻いて膨張させていく。
共に水底へ沈んでいく灰色の鬼。鬼から魚へ、魚から鬼へと変わった妖。
優しい微笑みをしても、瞳の灰が銀へと変われば悪鬼の本性を現して,
わたしに血濡れた手を差し出し、欲しい欲しいと強請って切望する。
沈む前。水の向こうに見えた、血に濡れた紅い鬼。
真名を呼ばれて苦しみ膝をついた貪欲の鬼。
灰色の鬼が抱く想いと、あの紅い鬼がわたしに向ける想いは同じなのだろうか。
思考の波が押して引いても、わたしには分からない。




