序ノ怪
揺れる波間に揺れる光り。
きらきら、きらきら。白く銀色に輝く綺麗な煌きが、白い現世と黒い常闇を行き来する。
鬼が作った花溢れる豪華絢爛の箱庭。
そこの池に放たれたのは、異なる色を持つ小魚たち。
優雅に泳ぐその水底。銀に輝く魚がゆらり鱗を煌めかせる。
それは昔見た灰の輝きによく似ていて、わたしの心の底を泳いでいく。
白い籠の中。頭上を泳ぐは紫の煙。
香炉から語られるのは静かな御伽噺。眠る前に紡がれることもあれば、鬼の居ぬ間に語られる。
目を伏せて梅の花を隠せば、小川の和流ように優しくわたしを窘め、雫を無くすよう囁きかける。
極彩色が広がる酒の席。隣で頬を撫で、髪を梳くのは紅い鬼。
顔半分に広がる朱の模様は雨模様。妖しい紅でわたしを見つめ、指を絡めて繋ぎとめる。
毎夜毎夜、澱のように沈んでいくわたしの心を、赤銅色の腕を伸ばして追いかけてくる。
妖しい旋律を思い浮かべ、妖しい馨を身に纏えば、まるで漂う水の中。
妖しい紅に捉えられ、ゆらゆら、ゆらゆら、心も体も揺れ動く。
涙を流せば雫となって盃の水面に波紋を作る。
波が立ったのは水か、心か。
わたしには分からない。