来世ポイント
「何だここは?」
目を開けると俺は雲の上に立っていた。
「ここは? つうか俺は確か」
そうだ俺は確か交通事故で……死んだ!? じゃあここは!
俺が辺りを見渡すと明らかに天国臭ムンムンだった。最初に気付いたとおり地面は雲みたいなもんで出来ていて、めっちゃいい天気だ。
「はーい、順番ですよ順番。割り込まないでくださいよ」
そんで、何やら天使だか神様だか良くわからないが、翼を生やして薄地の白い布をまとったオヤジ達が、青くて丸っこい魂みたいな奴らの列を監視している。
「なんじゃこりゃーー!?」
ふと、俺は自分の姿も青くて丸っこい魂みたいなもんだと気付く。
「あ、そっか。死んで魂になったんだ」
だが俺は冷静に今の状況を受けとめる。
どうも死んでここに来ると今までのここでのことや、前世でのことも思い出せるみたいだ。
ここに来たのは初めてじゃない。
確か俺はついこないだまで人間だったらしい。そして交通事故で死んだ。その前は犬だった、その前はカブト虫。
……カブト虫っておまえ。
まあとにかく記憶をたどっていくとキリがないので止めとこう。
「はい93052325869658番さんどうぞ」
ありえない程たくさん並ぶテーブルには、ありえない程たくさんの天使みたいな格好をしたおっさん達が座っていて、俺たち魂の手続きを行っている。
俺は少し耳(耳は無いが)を傾けてみようと決意した。
「そこをなんとか」
「いやいやいや、そんな事言われてもポイントが足りてないからね」
「ええ、じゃあ僕どないしたらいいんですか?」
「さあね、次の機会にどうぞ、ゴキブリなら一回で100ポイント貯まるよ」
とある魂は天使らしき格好をしたおっさんに食い下がる。
「ちょっ、嘘でしょ? なんで俺こんだけしかポイントないの?」
「よっぽど良い人生送ったんだね、ごくろうさん」
とある魂も天使らしきおっさんに食い下がっていたが、全く相手にされず。
「そこをなんとか」
「しつこいねあんたも、後ろつかえてんだから」
と、どうやら揉めているところばっかりだ。
だんだん俺の番が近づいてきた。
何やら近くのテーブルでやたら揉めている。面白そうだから目を傾けてみた。
「あのねえ、人間になるには500ポイント必要なんですよ? なんですのあんた? 20ポイントしかないじゃないの」
「いやだからそれは」
「あのねえ、20ポイントしかなかったらこんなもんしかなれないよ」
天使は溜め息混じりにリストが書き出された紙を取り出した。
「ええと、ダニ、ノミ、ゴキブリ――いやあああああああああ」
碌でもないものしか書かれてないリストを見た魂は、たまらず大声を出す。
いやしかし他人の不幸はなんとやらだ、笑えるな。
「ゴキブリにしなゴキブリに、ゴキブリはいいよ! 生命力強いし何でも食べれるし、あったかい家にもはいれちゃいうよ」
こいつらやたらゴキブリ勧めやがるな。
「あれ良く見たら21ポイントあるじゃないのあんた?」
「え?」
「21あったらもっとマシなのあるよ」
「マジで?」
「よかったなあんた、20と21の間にはものすごい差があるんだから」
「よかったあ。で、何になれるの?」
優しい笑顔で天使がじらす。
「……フナムシ」
「え?」
「いや、だからフナムシ」
「いやあああああああああ」
フナムシって、(ダンゴロ虫+ゴキブリ)÷2したようなあの生き物? ほぼゴキブリとかわらねえじゃねえか 。
さて、隣のテーブルも見てみよう。
「700ポイント! 頑張ったね、確かあんたゴキブリでポイント貯めまくってたもんね。で、どうする?」
「じゃあ人間で」
「最近人気なんだよね、数が増えちゃって増えちゃって。まあいいや、じゃあこちらに残った200ポイント振り分けて」
そう言うと天使は紙を出した。
そしてそこにはいろんな項目があった。
顔、性格、身長、運、知能、健康、富、家庭環境、おもしろさ、異性運、運動神経等等。そう、俺の記憶が正しければ確か自分の好きなようにポイント振り分けられんだったな。
「うーん、とりあえず顔に50、性格にも50だな、いやまてよ運動神経あったほうがいいか」
いいな、あのポイントを振り分けてるときが楽しいんだよな。
俺は前回、顔と身長と富ばかりにポイント振り分け過ぎて運に1ポイントも入れてなかったっけな。だから交通事故なんかに遭うんだよ。今度はミスらないぜ。
「はい次」
ようやく俺の番が来た。
「あれあんた」
天使がなんか薄笑いを浮かべている 何だろうか?
「新記録だよ、2ポイントってあんた」
天使が俺の肩(肩ないけど)をバンバン叩く。
「え?」
「いやあ、前回随分無駄遣いしたんだね」
え、ちょ、待て、え?
「これはポイント無しのもんにしかなれないよ残念」
「ポイント無しって」
「はい、これリスト」
天使がリストを出してきやがった
「豚コレラ、ピロリ菌、歯を痛くするばい菌、鳥インフルエンザ……わあ、まだまだたくさんあるっ!――って舐めてんのかテメエっ!! なんだ鳥インフルエンザって? ウィルス系じゃねえかハゲ! 生きものなのこれ!? しかも歯を痛くするばい菌ってアバウトだなおい!」
「あっはっはっ、ウィルスはれっきとした生きものだよあんた」
「そういう問題じゃねえんだよハゲ、分裂しろってか? 予防接種で死ねってか? せめて昆虫にしてくれって!」
俺は半狂乱になって天使に襲い掛かった。
「うお、こいつ狂暴だぞ!とっとと地上に送れ、何でもいい、早く!」
俺の体が青白い光に包まれた
「いやーーー!!」
* * *
「はあはあはあ、やっとここまできた」
俺は再びこの場所にやって来た。
人間に生まれ変わる気まんまんだったのにポイントが無いという理由でノロウィルスに生まれ変わらされた。
ふっ、あれから本当に大変だった。五回もノロウィルスをやったんだ! 五回も!
なぜそんなにノロウィルスをやったのかと言うと、意外とノロウィルスはおいしいからだ。
ノロウィルスになって現世に行ったと思ったら薬であっという間におだぶつなことしばしば、しかし加算されるポイントは多い、俺は遂に人間になるための500ポイントを貯めたのだった。
まあおかげでノロウィルスは規制がかけられ最近では、なり手が少なくなった。現世でも一時に比べて流行らなくなったろ? そういう訳よ。
「おい、93052325869658番、なに一人でぶつぶつ言ってる? とっとと並べ!!」
くっ、この腐れお役所天使が! いつか眼球にフリスクぶちこんでやるからな。
しかしいつもどおり、受け付けの天使と何やら揉めてる魂が多いな。ちゃんと俺みたいに計画立てないからだよまったく、まあ人の不幸はなんとやら、耳を傾けてみるか。
「てめえ、ざけんな。俺は必死こいてポイント貯めたはずなのに何で減ってんだよ!」
「ん? 知らないの? それぞれの生きものには減点ポイントがあるんだよ」
「は!? 俺がいつ減点されるようなことした!?」
「お前前世で犬の時、サラ金のCM出たろ? あのせいで不幸になったオジサン激増したのよ」
「知るかそんなもん!! こうなったらヤケだ、くらえーー!」
おお、あの魂天使に突撃したよ、終わったな。
「はい、さよなら」
「ぎゃーーす」
おっ下界に飛ばされた何にされたんだろ?
「はいはーい、僕に逆らう奴はインキンタムシにするからね」
何て恐ろしい天使だ!
「次!!」
遂に俺の番が来た! 遂に来たぜ、今度こそは幸せなヒューマンライフを満喫してやるのだ。
「あ、あの500ポイントあるんで人間にしてください」
「うーん」
「え? どうしたんですか?」
「いやね、別にいいんだけどさあ、500ポイントぴったりしかなかったら顔や性格にポイント振り分けられないじゃない」
わ、忘れてたーーー!! そうかそっちに振り分けるポイントもいるんだ! 人間になることだけしか頭になかった。
「い、いや、しかし俺はもう限界だ、もう昆虫だのバイ菌だのうんざりなんだよ!」
「いやだから別にお前なんてどうでもいいけど振り分けポイント0で人間やるって結構チャレンジャーよ」
「わ、わかりやすくお願いします」
「まあ君一回人間やってるからこう言えば分かると思うけど、振り分け0ポイントで行ったら最低でも
超不細工な上に性格最悪、体臭はファブリーズでも消せないくらいすごく、友達はいない、彼女いない歴=年齢=生涯童貞、おまけに超貧乏で頭はすこぶる悪い、運動神経は笑える程悪く、性格は最悪、ポケモンで催眠術ばかり使ってくる近所のガキにまで卑怯者呼ばわりされる始末、まあこんなとこかな」
そ、そそそそんな、生き地獄じゃないか! みすみすポイントドブに捨てるようなもん、いやしかし人間であることに変わりはないし、いや、でも!
「さあどうすんの?」
どうする? どうすんのよ俺?
…………
「ゴキブリでお願いします」
~Fin~