狂った銃弾Ⅴ――入学二日目1
生徒の朝は早い。まず最初に、五時半に起床する。それから朝飯前のトレーニングが始まるのだ。
それは、毎日同じもので、各自グラウンドをノルマ20週することである。ノルマ以上やれば、その分だけ朝飯のグレードがアップしていく。
誰も居ないそうだが、Sランクになれば、売店に売っているのも全てがタダになるそうなのだ。
20週以上したひと、というか、全員分何周したかは科学的に集計されているそうなのだが、どうやっているのか、それは見ただけじゃ判別できないだろう。
ノルマプラス100週で、Cランク。プラス500週でBランク。プラス1000週でAランク。プラス3000週がSランクになる。
過去にいた人、先輩には三年生でBランクを取った人が最高なのだそうだ。3000なんて気が遠くなりそうな数、できるわけがない。いや、できるのだろうが、毎日毎日朝に全力で走りたくないだろう。
ランクが上がると、それは指紋認証のカードをくれる。それを提示すれば、そのランクに見合った食事を出してくれる。皆は、Bランクを狙って走るそうだが、そんなにビュッフェがいいのだろうか?
ホテルの朝食みたいに、自分で取りに行くのは苦手なのだが。それはいつもマリアの手料理だったので、多分、カロリー調整とかできないだろうから。
まぁ、一年間でCランクに上がれればいいほうだと思う。今日は生憎何もしたくないので遠慮しておくが。
時間は、起床して、七時までの間。それを達成してないものは朝飯抜き状態になる。別に、朝を食べない人は参加しなくていいそうだ。
このトラックは、一周が350mである。それを20週となると七キロ。可哀相に。可哀相に。
現在は、六時二十三分。アイギスと一ノ瀬は競り合っていた。
「貴様、ただのホモでは無かったようだな」
「おまえも、研究者という割に、体力がありすぎて少し驚いてるぞ。だが、俺はまだまだイケる」
既に、あの調子で40週を超えている。他学年から、邪魔だと苦情がでているが、走っているので、教師も注意は出来無い。しかし、どうしてこうなったかは、知らない。
霧雨信夜は21週でやめた。身体がおもすぎて、動かなかったし、まず付いていか無かったのだ。
マリアは信夜の隣に座っていて、猪瀬もその横にいる。グラウンド20週したものは、帰ってもいいし、そこに居てもいいし、自由に開放される。しかし、アイギスと一ノ瀬は帰ろうとする素振りなど見せない、というか、終わろうとしない。
「なんかね、シンヤくん。私達が入学して直ぐなのに、凄く大きいイベントするらいいのよ」
マリアが呟いた。どこからの情報か、今は入学して二日目である。
「それは、教師を皆殺しにしよう、とかそんなやつか?」
昨日見た、教師の銃殺死体をイメージしながらシンヤは返す。猪瀬は、黙ったまま、アイギス、一ノ瀬ペアを、レンズ越しに覗いている。
「違うわよ。なにそれ?シンヤくん頭とか打ったの?やっぱり、部屋を変えてもらうべきだわ」
「打ってない。昨日な……」
と、話だそうとして自重する。野次馬は沢山いたのだが、結局あの死体について、報告も何も無かったのだ。しかも、シンヤ自身そこまで信じてもいない。もし、マリアに話すなら証拠も何もかもを提示してからにしようと思ったのだ。
そして、息を飲み込んで、別の話題に切り替えようとした。
「あ、違う。違う。で?そイベントって」
「シンヤくん。何を隠そうとしているのかな?」
「そうだよ。霧雨くん。愛妻に隠し事をしてはダメなんだよ」
いつの間にか、そこに葉隠がいた。首から下げているカードはCランクのそれで、――アイギスたちとは別に一人で100週してきたとは思えないほどに息切れしていなかった。
というか、一時間そこらで100週できてたまるか。それは世界大会でも通用というか、真っ先にドーピングで疑われるぞ。
「まぁ、なんでもない。なんでもないぞ。それと、葉隠、そのカード」
シンヤが胸のあたりを指しながら言う。マリアに隠し事をあやふやにするためだ。言及はやめて欲しい。割とマジで。
すると、葉隠が、エヘンと胸を逸らしながら
「どう?初めて一日でカード貰った人は僕が初めてなんだって。記録に残るんだって。嬉しいね」
「そうだろうね」
シンヤは素っ気無く返して、それで一息ついた。
葉隠は、シンヤのマリアとは逆の方に腰をおろした。それで、マリアに「今の話って?」って聞くのだ。良かった。多分、隠し事のことを忘れてもらえるだろう。
「あのね、昨日の夜ね、教室に忘れ物したから取りに行ったのよ」
一人でだろうか。俺に言えば着いて行ってのに。と少し思う。
ウンウンと葉隠が頷く。マリアは続けた。
「そしたらね、迷路を作る―とか、私達のクラウドがなんたらかんたら言ってたのよ」
多分、「それで、何でイベントだと思った?」とか「誰が話てたの?」と聞くべきなんだろうけど。
シンヤが「誰か知んないけど、迷路を作って、俺らが注目されてんのか?」と聞く。
「知らないわよ」
「は?」
呆れた。理由がないなんて。葉隠は笑う。突拍子も無い話。多分伝わってないだろう。
彼らは、ずっと走る。まぁ、それ以上の俊足が此処にいるのだが。それを知らずにずっと走る。これで46週ならしい。それで、今から朝飯までどうしようと思った。
まだ、春風の清々しい季節だ。ゆっくり走ったし、汗なんてかいていない。まぁ、制服に着替えようかな。
「どこ行くの?今日は朝ごはん抜きなのに」
立ち上がろうとしたシンヤは思い出した。それは、昨日遅れた夕飯の時だった。
初、皆が揃うはずの寮の夕飯の時間。遅れたのは、シンヤたちだけだったようで。それで、夕飯は貰えたが、朝飯抜きと言われたばかりなのだ。
「ああ、そうか。購買でパンとか買うしか無いのか」
「私も行くわよ」
マリアも、生きよいよく立ち上がって、それで、深夜の右腕にしがみついた。
いつもの事だ。いつもの事だ。平常心を保ってから、いやそうしなければ、成長期のマリアの発育のいい胸が腕に押し付けられて、下半身が元気に成ってしまうのだ。
「金は……」
「僕達は、寮生だから、ていうか、皆もだけど。だから、お金は今日から始まるクラウド戦で稼ぐしか無いよ」
「………………うん」
つまり、今日は走って腹が減っているのに、昼まで何も食べるのもが無いということだった。あの走っている二人もそう。ああ、可哀相に(棒
ご愁傷さまです。
そして、シンヤは前のめりに倒れた。マリアは、「シンヤく~~ん」なんて、倒れる前に手を離して、そして、倒れたシンヤを見て、そう叫ぶ。
キャラクター崩壊なんて言わないでくれ。マリアは、知っているが、仲のいい友と話すときはいつもこうなのだ。
長らくお待たせいたしました。すみません。
これからは、いきよいで書いていきます。設定は、結構決まっているので、他作品と並行で更新していきます。
まぁ、今回は少ないのですが、次からはちゃんと量を揃えてかきます!