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悠久なる創造主〈クリエイター〉  作者: 頴娃伺結有
狂った銃弾
2/7

狂った銃弾Ⅰ

これは夢だ。何度も何度も見てきた忘れられない記憶が夢として現れている。二度目に云う。これは夢だ。そう、自分に言い聞かせる。


手術中とライトが点灯している部屋の中にはシンヤがいる。周りに白服のマスクがうごめく。

まだシンヤが幼かった頃のこと。幼いと云っても今から七年前の事だ。麻酔を掛けているのにメスが体を切り裂くと痛いと感じる。中の内蔵を弄られると吐き気が襲う。それを飲み込むと何かを腹の内に入れ込まれる。大きいそれは内蔵の幾つかを除去して入れ込んだ異物である。脳に凄い衝撃が襲う。それを我慢する。

<プログラムロード・【終焉】(インフィニティ)デバイスをインストールします>

耳の内側から聞こえるそんな声。直接に脳に響く。

死にそうな痛みと、頭痛に眩む。これで三度目の実験。この痛みは慣れとかそんなのは無いと思う。

しかし、耐えないといけない。

父親は自分を捨てた。姉は自分を連れて逃げてくれたがいつか限界が来て自分をここに置いた。

姉の行方は知らない。でもここに居れば会えると証拠も何も無いが信じていられる。

――それも、自分が十歳の時まで。


「ナンバー333装着準備」「合掌しろ」

何度目かの装着実験の記憶。まだその頃はリンクを拒絶していたとき。

自分の意志で装着を拒む。体の中に無尽蔵に溢れる力はそんなモノをも可能にした。


「今日はいい。明後日に再開する」

先生の言葉。返事をするのは昔から聞いていた姉の声。

「計画には今月中に完成させないといけません」


――なんで姉様がここにいるのか。自分が道具だと認識した瞬間だった。


明後日の実験では拒絶する事を止めた。逆に受け入れる。

助けに来てくれる姉はこの手術を行う側の人間で、自分を求めてくれる人間はいなくなる。

すると、自分の存在価値はなんなのか。――モウ、皆殺シニシヨウ。


手に入れた道具は全て殺戮の為に使おう。話し掛けられるまで一方的に殺しまくろう。自分が死ぬまで人間を駆逐していこう。

自分の意志は無くなり、その場任せの適当な人格はやがて《斬虐刀の夜神》と呼ばれるようになる。【終焉】を主に使い、それは黒を基調としていた。その双つ名はピッタリであったし、自分を殺してくれるように強者が来てくれるかもしれない。


でも、そんな人は居なかった。自分にはどんな攻撃も無効化するシールドがある。どんな傷をもすぐに回復する治癒能力がある。殺してくれと頼む方が可笑しい程の身体能力と戦争を片手でも停められる装備を持っている。


一人で世界に布告したほうが早いだろ。しかし、それをする前に百木マリアが現れた。

その時の自分は見向きもしなかったが、今考えるとどんな危険な行為であったか。



ここで夢は終りだ。何度も何度も見た夢はある一定を越えると新しい内容が加わる。明日、明後日にでも昨日の入学式の内容でも追加されているのだろう。


しかし、今にはどうでもいい事だがマリアは可愛い。八方美人と云う存在ではあるのだが、自分に対してだけは超絶に優しい。何故か、ちゃんとした人間関係の築けない自分の介護師だろうか。違う、恐らく自分を狙う組織の奴だ。違う。

そんなものではない。

今の関係は利害の一致が確認された唯の契約者。主従関係で結ばれた雇い主。


――夢がおかしな方へ進む。もう起きようか。


目を開ける。数ヶ月前に借りた借家の天井。仰向けに寝ていてそんな景色がみえる。顔の形をした染みがこちらを笑っている。不快に思い右側に目線を向けた。

マリアが自分の方を向いて寝ているので寝顔が拝める。ずっと眺めていたい衝動に刈られるが、今日から学校だ。

日本では「アーネス国立第一学校」他に高校とも呼ばれる。


何時からだったか。時計を見る。六時半を指していた。

新しい人間関係を築くのに遅刻なんて許されない。シンヤは上半身を起こした。

しかし、その行為自体何年も行っているのに今日はけだるく感じる。昨日の攻撃のせいかと、憾むがそれを飲み込む。

それを乗り切って立ち上がると立ちくらみがした。

「大丈夫?」


頭を抱えてよろけている自分にマリアが云う。それに「あぁ」と曖昧に応えると傍にかけてある制服を手に取る。

藍色を基調としたブレザーのような制服。全部で三種類ある制服は通う学科によってちがってくる。

同じ一年と云っても三つある校舎で制服を変えて通わせると云うのは少し判らないが、学科の区別をするには丁度良いのだろうか。


帰りに普通科の制服を貰った。もとは<機械科>に行くつもりだったので制服もその学科のモノを買ったが昨日の騒ぎだ。

力が消えて無くても撃ち抜かれて血だらけなので買い替えないといけないのは知っていたが。

「信夜君。ホントに大丈夫なの?」


いつの間にかマリアも立ち上がっていて、布団を畳んでいるようだ。

「少し……な。着替えてくる」


そう云って洗面所に歩いていく。この部屋は少し狭いとは言え二人暮しには支障は無い。

むしろ好感が持てるほどマリアの良いところが見えて最高ではあるのだが、部屋数が少ないのはしょうがないのか。

全部で四部屋しかない。内一つは物置として使っているし、一部屋がここでもう一つが洗面所。隣接して風呂とトイレがある。最後の一つが何も使っていない部屋。

夜に変な音がして気味が悪いので使わない事にした部屋だ。


洗面所の扉を開けて右側の鏡に向かう。正面には愛想が無く目つきの悪い青年が立っている。右目に傷がありそれが凶悪さを引き立てている。

「なんでだろうな」


呟いて上着を脱いだ。湿布が貼ってあるが、それの意味も考えないではぐ。粘着力が強かったのか貼られた部分が赤くなっていたが程なく何も無かったかのように元に戻る。

そして準備していた下着に手を通してその上から、これは共通のワイシャツを着る。ネクタイは希望者だけと、書かれていたので買っていない。


ブレザーを羽織ると、少々物足りないが制服姿の自分になる。

黒く深い紫の髪色に自然と馴染んでいるように思えたが、そうでも無いのだろう。

「信夜くーん?着替えたの~?顔洗って出てきてよ。私も準備があるの」


外からマリアの声がして急ごうかなと、思った。

石鹸を泡立てて顔になすりつける。大して気持ちの良くない泡に苛立ちを覚えるが早くしよう。

「よし」

――今日も、眼帯を着けて行こうか。

いつものコートを上に着て腰に二本の刀を挿す。



四月九日-午前八時五分


入学式のほとぼりの冷めてない学校で皆は騒いでいた。

三年生の<機械科>担任である教諭が校舎南側の裏山の麓で殺されているのが見つかった。

いつも湿っているここの地面には二つの足跡が争った後が残っていて、その一つはその教諭の物であった。

脳と心臓をほぼ同時に撃たれた様で教諭の死に顔は目を見開いていたそうだ。


見つかったのは昨日の入学式の最中。丁度一ノ瀬達が喧嘩を売ってきて盛り上がってきた時に一致する。

<半機械化人間>(エキスマキナ)の機動音と【終焉】(インフィニティ)と【アルテマブレイド】との闘いの最中で二発の銃撃音なんて聞こえないだろう。

一ノ瀬と葉隠とグルなのかと考えたが、そのふたりはそもそも動機が違うし時間が重なっただけだと思う。


――何か、その教諭に因縁があったのだろうか?

怨みが時に人の体に乗り移る時がある。それは精神の弱い所に悪魔が取り付いて願いを叶えるときだ。

しかし、この犯人はそうでは無い。

銃を使っているからだ。現在アーネス国が管理する方針としては、軍人か国から特例として認められた人間しか銃は持てない。都市日本ではその決まりが百年以上も前から確立されているので盗みだす所か、触る事すら素人には不可能なのだ。


精神のテストを月に一度は受けている銃を所持できる軍人はこんな事はしない。

余程の手持ちを持った悪魔付きか、計画的な犯罪者だろう。

前者は九分九厘無いのはだれでも判る。



野次に行ってこんなに考えるのは自分だけだろう。

そっとその場を離れて昇降口に歩いていく。マリアを待たせている。少々殴られるのは我慢しておこう。


七分程度歩くとクラス分けのメンバー表の裏側が見えてくる。

野次馬には一年生がちらほら居たが、自分と同じ様に昇降口に待機している先生や生徒会を無視したのか。どうでもいいが。

表の隣には人だかりが出来ていた。メンバー表に集まる人より多いのではないか?と思うほどで。


マリアは見えない。あの人だかりに紛れているのか、それともあれを作っている現況か。後者が高確率でそうだと思う。

ざわめいていて声が聞き取れないが……。


まずは表を確認する。七時半に来た時は布がかかっていて見えなかった。それの確認。どうせ一年E組だという事は昨日聞いたので判る。

誰がいるのか、人数は、他人の自分に対する感情。

思うところいろいろあるが、マリア以外ちゃんとして話したことが無い。出来た人間と友人に成りたいところ。


「見て、昨日の人」「あー、あの最後にやられたのねー」「普通科なんだ。あんな装備使えるのに」「《斬虐刀の夜神》ってなんだったの?」


聞ける限り耳を澄ました。得に、自分を悪く云う人はいない。

イメージは昨日の人、か。《斬虐刀》の双つ名を知らないのは自分が思うより国が情報を掻き消していたからだろう。


E組、あいうえお順に出席番号が決められる。一番は聞いたことのある名前だ。

一ノ瀬友喜。

あいつも普通科なのか。更に落ちぶれたE組。目線を下にずらしていき見て行く。

七番が自分であった。そして、また見たくも無い名前を見付ける。

葉隠晋太郎。

苗字は叫んでいたので判る。しかし、何故ここにいる。

自分はともかく、一ノ瀬は<機械科>に行くのだろう。制服もその色であった。葉隠も<進化細胞科>だったし。


とにかく教室に行き話して見ようと思う。昨日は凄く手加減はした。死んではいないはずで。

まぁ今日来ているかは来ていない方が多い訳だが。



隣の集団の中に割り込んで行く。密度がメンバー表の数倍あった。どんなアイドルですか?と疑くなるような盛り上がりようで。

しかし真ん中は開けていて中心にマリアが立っている。そのマリアの正面に見知らぬ男性。スポーツマンっぽい雰囲気だ。

これは予想がつく。マリアと勝負しているのだろう。

マリアの顔が紅くなっているのは能力を使わざるをえないような強敵だからか。

「来たぞー王子さまだ」「良いぞ。押せ押せ」「これは三角関係か!?」


と、そんな歓声に紛れて霧雨が押されて蹴られたり、殴られたりしているのは意味不明だがそのうちに中心の開けた場所にきてそれが終わる。

「信夜君」

マリアが近づいてきて正面の男から逃げるように自分の背中に隠れる。

野次はうるさいが、男が言った。


「百木さんを賭けて俺と勝負しろ」

――あぁ。そんな感じですか。

コミュニケーションが取れない分最近は昔の学園系小説や漫画を読んでいた。こんなときの対応は…


「君と勝負する以前からマリアは俺が所有してるから」


違ったかな。ダメなパターンでは無かろうかと思う。

マリアは「やった」なんて小声で云うが、なんの事か。

歓声はさっきの比では無いほどに大きくなり、男はわなわなと震えていた。


「【解除】(アクティブ)魔法具【ボーダー】吾は境界の守護者なり契約に従い敵の戦滅を実行する」


魔法具を起動させる。【ボーダー】とは日本原産の魔法加工技術で筋肉等の運動性能を飛躍的に上昇させるもの。

そのなかで、【ボーダー】にも種類があり一番良いものは手持ちの棒ですら高層ビルを薙ぎ倒す程の力を得ることができる。


魔法具は起動すると体から<オーラ>と呼ばれる色の付いた煙りが発生することである。

基本的な成分は水蒸気であるので人体に影響は無い。

この男も同様である。黒い<オーラ>が渦巻く。


「全てを滅する力を【終焉】(インフィニティ)」

少し驚いて、シンヤも対抗するように<機械化>の起動式を唱えた。


「昨日のも演技とは言え凄かったよね」「今日は本気かも」「あの人死んだかも」

男が勝つ方に皆は諦める。しかし

「あれっ??」


何もでて来ない。力は感じないものの実践は出来ると思っていたのに。いつまで経っても何も起こらない。

「何も装備し無くても勝てるってか?ナメんじゃねぇぞ。どんだけ手加減してたか知らないけどな、俺には勝てないんだよ」

男が警棒のようなものを取り出す。それが陽炎のように揺れて、次の瞬間につかの無い剥き出しの刃の刀になっていた。


それなら、と思って腰に挿した刀を取り出す。日向と云う刀である。切れ味は人間が一降りで半分になるくらい。

――おもっ!?

それは凄く重く感じられた。両手でやっと持ち上げられる。

こんなものをいつも片手で振り回していたのかと思うとぞっとする。

「なんだそのへっぴり腰は。殺すぞ?お?」

男がなめ回すように自分を眺めて、いかにもヤンキーぶっていますアピールをする。

「そんな事云う奴は、顔が良くても誰も就いて来ないよ」


シンヤが云うと周りの野次馬達からブーイングがおこりだす。

「氏ねー」「霧雨君やっちまえー」「そいつ人じゃないー」


気づけば、「氏ーね、氏ーね、氏ーね、氏ーね」

なんてコールが起こるようになってしまう。それがまた、頭にきたみたいで剥き出しの刃を両手で構えるのがやっとのシンヤの右の眼球に突き付ける。

「昨日の疲れが残っているのか?撃たれたもんな。それも演技だろ??」

全て理解しましたよ、とマヌケなトッリクの理解者は刀を振り上げる。


「こ……これで百木さんは僕の物に………ハハ……ハハハ」

何を興奮しているのか頭上高く振りかざした刀は自分が日向で斬ってきた人間の心情が理解できて。


一瞬の時が止まって、その中から足音がするようだ。


「死ねぇぇぇぇぇぇえええっ!!!」

男がそこから真下に片手を振り下ろす。こんな所で死ぬのか、と思った。昨日も今日もそうなるのか、運命は代わらないのか。しかし、死ぬ前に見るという走馬灯は観なかった。

代わりにキーーーンという金属が弾かれる音と、折れる音が同時に聞こえる。


「な!?」

目を開けた、ラグの走る半透明の【アルテマブレイド】が刀の攻撃を受け止めている。

刃はもう折れていて、それもラグが走るように元々の棒に戻ってきている。


「動くな。動けば君の頭は地面の肥料になってしまう」

目線を上げた。その男の背から首元にナイフのようなものを突き付けている人間がいた。


「霧雨シンヤ。動けるのなら少し後退した方がいい」

云ったのが葉隠であった。左手を包帯で巻いているが右手は【アルテマブレイド】を支えている。


「武器を捨てろ。そして手を頭の上に持って行き膝を付け」

手慣れた感じに男を平伏せさせるのは一ノ瀬だ。比較的軽傷そうだが、昨日の後ではそうも無いだろう。

【タイタン】の爆発に巻き込まれたのだから。

しかし、自分にギリギリまで結界を張って被害を抑えたのは驚いた。


男は云われるがままに行動する。そうしないとこの男はやりかねないからだ。

一ノ瀬友喜は<半機械化人間>(エクスマキナ)の管理者達から一目置かれた存在である。

それは、良い方ではなく悪い方でなのだが。


「そして僕はどうなる」

男が問う。突き付けられたナイフがその男の首に強く押し付けられ液体が首元を這う。

「俺の獲物を取ろうとしているのは見過ごせないんでね」

淡々と一ノ瀬が返した。

そのやり取りを聴こうと思ったか周りのざわめいていた人間が徐々に静まりだした。


「百木マリアの事か?そうなんだろ、みんなして僕の夢を……」

泣きながらその場に崩れ落ちる。そんな男に葉隠が近づいて行き

「魔法具の不正使用と違法の改造に置いてアーネス国法四十条に違反していますので一次身柄を拘束させて頂きますが、反論はありますか?」

男は何も云わずに立ち上がり「ちっ」と舌打ちをする。遠くからパトカーのサイレンが聞こえてこっちに来ていることが判る。そして数分後に到着した車に乗せられる。


一ノ瀬はそれのサポートをして一息つくとシンヤの元にゆっくりと歩いてきた。

「昨日はすまない事をした。これでも反省しているつもりだ。しかし、気が済まないのなら殴ってくれて結構だ」

着てそうそうに頭を下げられる。それに焦る。


「マリアの事か。怪我はしていないから大丈夫。昨日オレはちょっと力を出せて満足した。お前に謝られる事なんて無い」

返答して一ノ瀬は頭を上げる。そして右手を出す。

それが何なのか一瞬、分からなかったがそれが漫画等でよくあるお互いの力を認めて友人になる、という握手だと理解する。


自分も右手を差し出して「よろしく」と呟いておく。

しかし、一ノ瀬は自分の右手を掴んで体の方に引っ張る。半ば強引に手を引かれた感じがする、距離があったので自分の体はバランスを崩して一ノ瀬の方へ倒れ込む。

それを抱き留めるようにして、一ノ瀬は云った。

「君は僕を初めて負かせた男だ。僕は君を愛してる」

ぎゅっと抱きしめられて甘い吐息がかかる。


突然の告白に騒然としてしまう。自分も何が何だか分から無くなり頭が真っ白になる。

「さぁ、君の答えを聞かせてくれ」


と、ベチンとビンタの音がして意識が鮮明になる。

「さっき信夜君も言ったように信夜君は私の所有物なの。その手を離しなさい」

マリアが一ノ瀬を打ったと云うのが判る。むきになるマリアは自分も初めてで驚く。


葉隠が羨ましそうに見ていたのは、自分は見なかった事にしとこうか。

そこで一回目のチャイムが鳴った。少なく見積もっても二百人はいる野次馬も皆合わせて遅刻である。


自分の今日の目標は遅刻をしない。守れなかったと云うことだ。

教師達が出てくる。「何の騒ぎだ」なんて云っている。見ていなかったのだろうか?凄く盛り上がっていたのに。

しかし、シンヤは考えた。普通に振る舞おうとしても自分を殺そうとする人間が出てくる。それは、マリアを奪おうとしたり、《斬虐刀の夜神》の時の被害者が自分を襲ったり。

これからどのくらいそんな人間に遭遇するのか。


それから、自分達も教室に入ることになる。E組は真ん中の校舎の一番端なので一番歩く。その際、一ノ瀬はずっとマリアと睨み合っていた。バチバチと効果音が聞こえそうな程に暑く奮っている。

そんなことはまぁ、置いとこうか。


四月九日十時二十分


二時限目は自己紹介をする時間である。落ちこぼれのE組の最初に自己紹介をするのは一ノ瀬で

「出席番号一番<半機械化人間>(エクスマキナ)第一級機械兵一等陸士一ノ瀬友喜です。好きな食べ物は都市バルジャワのオリジナルカップ麺のラ・鴨です。ちなみに嫌いな物は、自分を否定する人と自分を邪魔する人です」


担任の先生だと云う白衣を着て少し眠そうにしている女性は、篠崎琴浜ことはという。美人で、制服を着てればこのクラスに混じって居ても分からないような気がする。隈が無ければだが。

琴浜は「ちなみにこいつはホモだぞ☆」なんて暴露した。ばれるのも時間の問題と思っていたが、先生に云われるなんて、更に先生が知っていたなんて予想外だ。


「二番、……猪瀬加奈です。…えっと……好きな食べ物とか、そんな物教えたら迷惑……ですよね。仲良く……してくだしゃい……」

うん、凄く個性的な人がいるもんだ。小柄で髪が腰まであり、色は黒だ。この時代、黒単色は珍しい。

猪瀬にも先生の解説が入る。

「猪瀬グループの御令嬢だぞ☆。ついでに母親の方はアーネス序列二位のギルガメシュの妻の妹だ」

ついでに、からは至極どうでもいい情報であった。しかし、軍人になるには良くしておくと有利なのかもしれない。

後で挨拶くらいしておこう。


一ノ瀬は、シンヤが猪瀬に向けている視線を自分にだと勘違いしてナゲキッスをした。ジト目をしてそれをよけると、後ろから殺気が感じられる。


席順は出席番号順。もうすぐ自分の番だから少し考えてみようか。何も考えつかないが。



三番からは特に気になる人はいなかった。そうして自分の番になると少しクラスがざわめく。

「オレは霧雨信夜と言う。昨日はお騒がせをして済まなかった。……」

そしてそこで終わる。考えていたコメントが全て飛んでしまったのは、人前でちゃんと話したことがことのない自分だからで。

「続きは?」


先生も予想外でもろが出る。まぁ。

「好きな食べ物はマリアの作った料理なら何でも。嫌いな食べ物は無い。嫌いな物はマリアの敵全て」

「「おおーー」」とクラスがまとまる。しかし、一人は違うようで喧嘩を売るように突っ掛かる。窓際の目つきの悪い男だ。


「って言ってもよ、さっきの喧嘩何も出来無かったよな。くせにそんな事言っても良いのかよ?」

「喋るなゴミめ。どうせ力の使えないし適性判断も皆無なのだろう、そんな奴がここで発言する権利は無い」

返すのは一ノ瀬だ。差別が激しいのか、唯自分を馬鹿にされて頭にきたのか。


発言した男は肩をすくめフードを被ると机に俯せになる。

「霧雨は百木マリアと同居しているぞー。激おこぷんぷん丸っ」

何十年も前の流行りものを連れてきたな。先生の無駄な解説が、一番云われたく無いところを触られてしまった、とそう思う。だって、マリアは人気じゃないかは。


それから時は過ぎ、葉隠の番になった。

「葉隠晋太郎。十七歳。特に好きな物嫌いな物はありません。現在夢中になっているものはスポーツの観戦です」

サクサク進んで、そのまま席に座る。

「はい。葉隠は極度の性癖が在るそうだが、……流石にこれは止めた方がいいな」


は?何?どんなんなの。どんなモノも暴露しているのに。

彼女の名前を言われたひと、これはまだいいほうで。女子に至ってはヌードグラビアの写真のURLを言われたりしている。

何のつもりでそんな事しているのかは知らないが、中々皆の仲が良くなっているのではないか。と思う。

そして


「百木マリアです。好きなのは私に絶対服従、死んででも守ってくれる信夜君。嫌いなのは私の言うことを聞かない信夜君です。よろしくね!」

と、マリアにも何か言うのかと思って皆は先生を待っていた。

しかし、いつまでも黙ったままである。


「百木の情報が無い。次にいけ」

琴浜はそういう。どんな情報網でいろんな事を知っているのか、判らないが皆はそんなことを気にせずに楽しんでいる。


E組は全員で六十人がいる。特に適性が無くテストでも最下位に近い人間で構成されていて、他クラスからは<ダウト>と云われる。

普通科のSクラスは<フォース>普通科にしか伝わらない陰語と言えば少々の意味は紛れるか。

<ダウト>は、存在無価値なゴミ、との意味が在る。



「アイギス・ファルゲイン。元一級魔法具製作者。趣味は類なしで実験をすることだ。仲良くなんてしない。唯俺の存在を肯定してくれさえすれば」

フードの男はそう言った。元、と言ったが実際はどうなのか気になるところだ。


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