表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

第5話 『敵対と譲歩』

 さて、時はそのまま。場所は洋風の屋敷に移る。

ここソーエンは、王国と覇権を巡ってにらみ合いが続く状態の、ガスラン帝国との中間、若干帝国よりといった場所に位置する。

その立地条件から王国に対する前線基地といった意味合いも持つ街だ。敵方のそんな場所にやってくるのは自殺行為だと思われるが、

今回赴いた理由が帝国側との和平交渉の場を持つため。ただ、誰もこの交渉の場が成功するとは信じていない事実、王国側は召喚者達つまり武力を引き連れ出向いている。

しかも、青年らが保有する能力を鑑みると王国が所有する最高戦力といっても過言ではないのでないか。対する帝国側もかなりの選りすぐりが護衛に付いている。

最初から平和的に終わるような場ではないのだ。この和平交渉の場が成功することで助かる老人や幼子の命も少なくはない。

しかし和平が成功したあとに出る被害を考えると、この和平は失敗した方が確実に被害は少ないのだ。

勇者らは考える。何故ここに来て和平の話しが出たのか。勇者らは思い返す。王自ら語った、この世界についてを。


 この世界には3つの大陸がある。人種の住む大陸。魔族の住む大陸。亜人種の住む大陸。正式名称はあってないようなものだと。

大体が魔大陸、深き森と呼ばれる。魔大陸は想像ができるが、この深き森については亜人種の故郷としか聞いてない。王も詳しいことは知らないと言っていた。

 その人種が住む大陸だが、大きく3つに区分される。その中心となるのがこの大陸における二国家一都市である。

まずはこの王国フェリア。これは自分達勇者を召喚した国で、貴族と騎士の街。次に渦中の帝国ガスラン。武の英雄と兵士の街。

あと一つ、国家に匹敵する都市を含めて三大勢力となるが、今はこの王国と帝国についてだ。

 どちらも数百年という歴史を持ち、時間をもってしても対立関係は崩れなかった。互いの戦力差はほぼ互角。どちらが攻めても何をしようが、勝ったのか負けたのか不明な戦績だけが蓄積されてきた。両国が手を取り合うのはいつになるのだろうか。数十年か、はたまたさらに幾百年か。

しかし、それもこの数年で事情が変わり始めた。それは何故か。帝国が戦力を手に入れたからだ。その戦力とはなにか。魔族である。

帝国は魔族の国家と対立し、その果てに同盟を結ぶことに成功したらしい。この報せに王国上層部が震撼。何か対策をねらねばならんと奔放した結果、勇者を召喚することとなり今に至る。

これがこの世界、この大陸についての情報だ。ただ、勇者とは竜を倒したり、魔物を殲滅して感謝される物語が定番だ。少なくとも自分たちの認識ではそうだ。事実、自分たちは魔物を殺戮し竜を殺したが、最終的な目敵(ターゲット)が同じ人間ということに薄ら寒い感情を抱く。

ともかく、自分達召喚者全員(・ ・ ・ ・ ・)がこの場に参加しているのは帝国が魔族を連れていた時の対処と威圧目的らしい。


 さて、ガスラン帝国とフェリア王国はもし、この和平が成立すればどうなるか。ガスラン帝国とフェリア王国は同盟国となり以降、余程のことがない限り戦争は起こせない。

だが、余程のことは確実に起きる。同盟後に相手国の懐深くに潜り込んで、攻撃。これはどちらも実行可能なことであり、成功したときの成果は素晴らしいものとなるだろうが、失敗した時のリスクも格段に高い。そんな博打を行うのは馬鹿だろうという話だ。そもそも同盟とは名ばかり、それは冷戦だ。



「だから何度も言っているように、我々は要望を飲むことはできない。」

向かい合う各国の代表は2名。発言したのは赤髪、長身に引き締まった肉体をもつ帝国代表のパーディ名誉子爵。

「本当にいいのかね?君らは喧嘩を買うと?」

対するはフェリア王国代表、ケセラン伯爵。容姿は金髪蒼眼、一部の女性からオジサマと呼ばれ慕われそうな中年男性。

「…だから、そちらの都合を押し付けるのはやめてくれと何度も言っておりますが?」

「待て、王国の属国となることで王国の庇護下に収まることができるのだぞ?」

あからさまに辟易したように話すパーディ。

さすがに伯爵も、パーディのそれが狙ってやっていることには気づく。だが、だったらその真意にも気づけというのは酷な話だろうか。


「…それは王国に対する全面降伏でしょうよ。冗談はよしてください。」

「しかし――」

この会議を早々に終わらせたいパーディに、執拗に食い下がるケセラン伯爵。

本来はケセラン伯爵もさっさと切り上げろと言われているが、私的にこの和平交渉を成功させる理由があった。

ケセラン伯爵の息子は年齢上、現在男爵位。ならば帝国との戦争が始まった場合、子供であろうが一男爵である息子に兵を率いる要請が出るのは王国の通例からすれば明瞭。しかも前線を任される可能性は高い。

それを避ける為に、始まる前に戦争を潰してしまえばいい。そう信じ、この場で発言を繰り返すが返答も同じことばかり。さらにケセラン伯爵に不利な状況は加速する。


「伝令!失礼します!」

ダンッとドアを乱暴に開け放ったのは帝国の兵士。場の雰囲気に一瞬たじろぐが、そちらを向いたパーディと目があうと焦った様子で伝令をパーディ子爵の耳元で話し、ぼそぼそと会話をする二人。その内容が『緊急』に値するのか深刻な顔をしている。兵士が報告を終わってもしばらくこめかみを指で叩きながらパーディは押し黙っていた。そして、ようやく口を開き―


「謀りましたか……ケセラン伯爵殿何のつもりです!」

「は、は、え?」

パーディが怒鳴るように言葉を叩きつけたケセラン伯爵の顔にも驚きが広がる。どこまでもしらをきるつもりらしいと判断したパーディはさらに言葉を続ける。

「失礼、取り乱してしまいました。ですが今、ソーエンの城壁に近いところでで強大な力を持った何者かが暴れているとの情報が入りましたもので。」

「そ、それがどうした。」

「その暴れている奴は人間。その人間は魔法を乱発し、破壊行為を行っているそうです。あれはあなた方の差金でしょう!?」

「だから何なのだ!さっきから貴様は何を言っているのだ!私は何も知らない!」

真っ赤になって怒鳴り返すケセラン伯爵にその理由を突きつける。

「その人間は人間離れした魔力量を保持しており、黒髪だそうです。心当たりはありませんか?」

静かな声音に、考えていなかったという意味で予想していなかった言葉に絶句する。

「黒髪の人間………この大陸で黒髪など数える程しかいないではないか。」

 ケセランの心中に、心当たりなどありすぎる。その証拠にパーディもケセランではなくその後ろ、王国の勇者らを見ている。だが、勇者達からは戸惑いと困惑の様相しか伝わらない。

これにはパーディも真偽を確信できないでいるようだ。


「え?みんなここにいるじゃない」

「誰も欠けてないと思うが……」

 今まで閉口して緊張を緩ませず護衛に徹していた青年らが口々に顔を見渡し、確認しあう。ケセランも人数の情報握っているし、勇者は今この場に全員いるはずだ。

「彼らはそれで全員なのか?だとすれば王国自らの差金か?」

全員この場にいる。その情報が本当に正しいかはパーディには知る術がないが、それはケセラン伯爵が潔白を証明するには簡単なのも事実。

ただ、自らの手札を晒していることには気づかない王国代表勢。晒したところで痛手は無いという考えであればその限りでないが。

そして黒髪の正体は何だと皆が考え始めたその時、

「あっ」

と短い言葉が場に響き渡る。


 発言者に目線が集まり、本人は居心地悪そうに顔をしかめるが、パーディと目が合うと気圧されたか声を上げた理由を周りに視線を移しながら発言する。

「えっと、みんな葉山仁って覚えてないの?」


「……それは、葉山仁はお前たちの仲間でいいのか?」

パーディ子爵の持っている情報であれば勇者は今この場にいるもので全員のはず。


 パーディ子爵の問い、ケセラン伯爵の無言の視線にシンっと耳が痛くなるほどの静寂が満ちたかと思えばみんな一斉に目をそらしだす。発言者はある意味で最も仁に近かった人物、ナイル伯爵家に滞在していた女子である。

彼女自身、つい先ほど思い出したばかり。ひと月以上も顔を合わせていない。彼らも自分達のこと手一杯なのだ。それは責められるべきでは無い。

「えぇ、まぁ、仲間、です。」

これは……と察するパーディ。この襲撃についてを彼らは何も知らず、おそらく王国が葉山仁とやらを使って攻撃を仕掛けてきたということだろう。

目的、つまりこれは―

「ケセラン伯爵殿。今回の件は王国側がこの和平交渉の場を潰し、あわよくばこのソーエンに被害を出そうというものだろう。よって、今日のことは望み通り(・ ・ ・ ・)無かった事とさせていただく。それから我々は民を安全に避難させることを最優先にする。……その葉山仁とやらはお前たちで始末しろ。」

『望み通り』を殊更吐き捨てるように言い、踵を返して退室する帝国代表とその護衛ら。現状の理解に暫しの猶予を必要とした王国代表らはただ、その様子を見ているしかなかった。


誰も微動だにしない。それはここへ来て現状を把握した事から来る硬直だ。

「くそっ………お前たちはさっさとそいつを始末してこい。」

 和平交渉の失敗に、暗鬱とした気分の伯爵が低い声で命じる。

「別に、殺さなきゃいけない、理由はない、んでしょ?」

 少女の縋るように問う視線に誰も視線は合わせられず、目を逸らすことで目があった相手もまた視線を逸らす連鎖。それは皆が目を逸らしあうことで嫌が応なく止まる。暫しの重たすぎる静寂を破ったのは伯爵。

「何をしている。お前達の仲間だろうがなんだろうがこれはお前達の実力の披露も兼ねているはずだ。我々はこれだけの力を持っていると、おそらくな。」

 忘れていたとはいえ、クラスメイトを殺せという内容には閉口せざるを得なかった。自作自演。彼を殺すべき理由が解らない。

ただ、この事態にパニック気味の彼らは何も考えずに目の前の指示に従うという愚行を犯した。彼らに猶予は与えられず、今ここに葉山仁の抹殺は決定づけられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ