第1話 『調度品とクラシック』
気がつくと仁はベッドに横たわっていた。
おでこ辺りにある異物の感触。それは決して不快なわけではなく、むしろヒンヤリと気持ちの良いものだった。徐々に戻ってくる意識にゆっくりと目を開ける。
そこには暗闇が広がっていた。否、異物――絞られたタオル――がずれて目に乗っかっていただけだ。
それを取りながら状態を起こしたところで辺りを見回し、もはや強迫観念に囚われるように現状把握に務める。
意識を失った――初めてのそれは、感覚的には急に眠くなった感じだった。出来れば二度と経験はしたくない――ところまでは覚えている。
そのあと仁は神殿から移されてとある一室に横たえられた、らしい。
その部屋の調度品の数は少ないが、一つ一つ高級そうなものが置かれていた。
別に仁の目が利くのではなく単純に、それらが金やら宝石やらで装飾が施されているからそう感じた。
人によっては趣味が悪いという感想をもつかも知れない。お金持ち、おそらく貴族や富豪商人の家だろうか。
そして気づいたことがもう一つ。部屋の隅にはメイドさんがいた。正統派のメイドさんである。
「――――――――――。――――――?」
そちらに視線を向けたところで目が合い、何事か話しかけられる。しかし残念ながら何をいっているか分からない。挨拶だろうか、その後の質問の意図は理解できない。
ちなみに質問だと気づいた理由はメイドさんが僅かに小首を傾げたからである。
仁がいつまでも答えられないでいると返答を期待してはいなかったのか、メイドさんは一礼をしてそのまま部屋を出て行った。主人でも呼びに行ったのだろうか。
だとすれば礼儀正しく第一印象は良いほうがいい、と背筋を伸ばして待機する。あるいはただ単に戻っただけか。その可能性はあるが、その時はそうなってから考えればいい話である。
幸いにして仁の推測は当たり、主人はやってきた。しかし、一つ言っておく事がある。
幸か不幸かで言えば不幸であるのだが、本人は何も知らない。仁の第一印象はとっくに確定しており、最悪だということだ。