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光芒  作者: 藍原燐
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漂流

 声が聞こえる。自分を呼ぶ声が頭の中に直接響く。

 『気がついたか。』

 クリスは漂っていた。なにか水の様な物に包まれている感覚がする。しかし息はしっかりと出来ている。

 彼女はゆっくりと瞼を開けてみた。

 (ここは、どこだ?)

 何もなかった。明かり一つない、自分という存在だがそこに漂っている。

 (星のない星空を見ているようだ。)

 自分は本当に目を開けたのだろうかと思い、彼女は右腕を目の前に翳してみる。掌が見えた。

 『ここは虚無の海だ。』

 〈声〉が言った。クリスは一言も声を出していない。

 (心を読んだのか。趣味が悪いな。)

 『この世界で声は出せない。』

 (左様で。それで、虚無の海って?)

 『何もない、何も存在することができない世界だ。お前の様な存在を除いてな。』

 (権利というやつか。私がここに来る時、一緒に連れてきた男はどうなった。)

 『ひどいことをするな。』

 〈声〉は言葉に反して面白がっているようだった。

 『あの者は権利を持っていない。まだ完全ではないがこの世界に飲み込まれつつある。今なら元の世界へ戻してやれるが、どうする?』

 (十年ほど前に過剰防衛で殺されかけたことがあってね、その意趣返しだ。だがまあ、殺すほど憎んでいるわけじゃないからな。)

 〈声〉は分かったと言い、続けてクリスにも問いかける。

 『お前はどうする? 今なら元居た世界へ帰してやらんこともないぞ?』

 (覚悟を決めて来た者にその言葉は侮辱でしかないぞ。)

 クリスは静かに答えた。彼女には分かるはずもないが、その時〈声〉微かにほほ笑んだ。

 『それはすまない。しかしお前も無茶をする。解読が合っているかも分からないのに陣を展開させて。』

 (ここに来られたんだ、結果としては成功だろう。)

 『いや、失敗だ。男に教えたのは杖に組み込まれた陣を発動させるための言葉であって、こちら側へ来るには執行の宣言の前にもう一言必要だ。』

 (意地悪なことをするな。じゃあ私は一生ここで漂い続けるのか。それも悪くない。)

 『もう少し我慢していればこちらから招く予定だったんだがな。』

 クリスは〈声〉言葉に苦笑した。

 (確証はないが、殺されるか逃げるかの二択に迫られる事態に陥ってね。)

 『杖をもう一度向こうに戻して一からやるのも手だが、六代は必要だからな。私もそろそろ現状に飽きてきていてね。だから今回は特別だ。』

 (特別?)

 『そう。自力で杖の封印を解きこの世界まで来たお前の努力と覚悟に免じて私がここから出してやる。』

 (・・・お前は一体誰なんだ。)

 『私か? 私はお前だ。そして、お前は私だ。』

 (意味が分からない。それにさっきからなんだ、向こうだとかこちらとか。神代のことについても何も聞いていなかったな。)

 今度は〈声〉が苦笑する番だ。しかし彼女は何も答えない。

 『私の元へ来い。そうすれば全て教えてやる。』

 クリスの瞼が急激に重たくなる。まるで体の中心に引っ張られているようだとクリスは思った。

 『さすが、言い得て妙だ。』

 (くそっ! 抑えられない!)

 一度瞑ってしまったら終わりだと直感的に感じた。クリスは最後の力を振り絞って〈声〉に問いかけた。

 (お・・・前・・名前・・・は・・!)

 『言っただろう、私はお前だ。お前が名乗る名が私の名だ。敢えて言うならば、天上。これからお前が生きる世界の名だ。』

 クリスは自分の目が閉じる瞬間、上から自分に向かって白い手が伸びてくるのが見えた。



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