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光芒  作者: 藍原燐
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手紙

 図書館の隠し部屋でクリスが自らの力について研究していたのには理由がある。再びあの時の様な暴走を起こさないように、というのは確かにあるが、彼女の中での最大の理由は別ある。

彼女がそれを初めて見せてもらったのは、母親が死ぬ丁度一年前だった。当時からそれは折り畳み式の留め具が一つ付いた黒に近い飴色の箱の中に入れられていた。

 それは七十センチほどの木の棒だった。何の装飾もされていない、表面にクリスにとって見たことがある、陣に書かれている文字が隙間なく書かれているだけだった。 

 クリスの母親はそれを彼女の手の上に乗せながら言った。

 「この杖はきっと貴女が持つために今まで受け継がれてきたのだと思うの。これに書かれている文字、貴女が出せる陣に書かれているものと同じでしょ? この文字を解読することがもしできたら、色々なことが分かると思うの。それはきっと貴女のためになることよ。」

 それ以来、自分の陣に出てくる文字や力について調べたい欲求が膨れ上がったが、彼女の周りがそれを許さなかった。

 力を暴走させたとき、家を全焼させるほど燃え広がったのにも関わらず木箱は焦げ跡一つ付いていなかった。そのことにさらに心惹かれ、膨大な知識と情報が詰まった図書館とそこにある隠し部屋は、彼女にとって待ちに待った空間だった。時間はまさに腐るほどある。何年かかろうと解読して見せる。その思いで一日のほとんどをその部屋で過ごしていた。

 研究を始めて半年ほどたったころから、陣に出てくる文字の規則性が分かってきた。氷を作りだす時に必ず出てくる文字、火に関係する陣を出した時に必ず出てくる文字、といった具合だ。クリスはもう一度棒に書かれた文字を確かめるために箱を開けた。ついでに箱自体も調べてみようと棒の置かれたクッションも全て箱から出すと、その下から一枚の封筒が出てきた。それは封蝋も何もされていない、宛名も差出人も何も書かれていない、二つ折りにされた紙が一枚入っているだけだった。


 親愛なる我が同志 あるいは神代とやら

  

 この手紙を見つけ出すほどに、箱にあるいはその棒に興味を持ってくれたことにまず感謝したい、ありがとう。

 私がこの棒を、いや杖を見つけたのは十三歳の時だった。十歳にもなって迷子になった弟を探しに入った山の洞窟で見つけた。その時は今の様な文字か書かれた木の棒ではなく、先端に翼の生えたトラが赤く美しい石を銜えて座っている、柄全体には金で蔦状の装飾がされているとても美しい杖だった。

 悪いとは思ったが、それを家に持ち帰った。その晩、私は不思議な夢を見た。真っ黒な空間の中に私は一人ポツンと立っていた。そこに中性的な声が話しかけてきたのだ。その声曰く、私は虚無を越える権利を得たのだそうだ。そしてその権利は血をもって受け継がれ、いずれ神代とやらを生み出すらしい。つまり、私の子孫を残せと言われたわけだ。

 私は妻ではない女子と一度だけ契りを交わした。名はマリーという。黒髪の長い美しい女性だ。彼女とのことを私は過ちなどと思ったことは一度としてない。今でも、いや死ぬまで愛しているのは彼女だけだ。彼女が子供を産んだころ、杖は棒に変わった。権利とやらが受け継がれたのだろう。棒を入れる箱は私が作った。我ながらよくできていると思う。その子が一歳になった時、この箱と棒をお守りとして彼女に送るつもりだ。

 棒に書かれた言葉の意味を私は解読しようとしたが、無理だった。この手紙を読んでいる者もそれを試みているのなら、頑張ってくれ。神代とやらにしか読めないというのは少し悔しいからな。

 もうひとつ言っておくことがある。この手紙を読んで無謀なことを考えた者に忠告しておく。君が私から受け継ぐのは王位ではない、血だ。いつか生まれるという神代を生み出すための神聖なる血統だ。思い違えるな。

 最後に一つ。声が言っていた呪文を裏に記しておく。役に立てたら光栄だ。

   

                                    ルドルフ・リックウッド


 クリスの文字に関する研究は、三年前にほとんど終わった。それと同時に、隠し部屋に籠もることもほとんどなくなった。その代わり、毎日朝食を食べた後彼女は応接室の椅子に座って絵を見るようになった。そして椅子の前に置かれた机の上に木箱を置くのだ。

 彼女は自分が特別な人間であるとか選ばれた存在なのだ、などと思ったことは一度もない。それは手紙を読んでも変わらない。代わりに、自分の居るべき場所はここではないと感じている。なら、彼女に居るべき場所とは何処なのか。それを確かめるために今日、彼女は行動を起こす。

 馬車の音が聞こえる。これは足音だ。世界が、彼女を居るべき場所に追い立てる音だ。



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